父よ『訊け、我ら三姉弟の咆哮を』/『ゲーム・オブ・スローンズ』名家セレクション・ラニスター家編

ドラマの鍵を握る登場人物が印象的な活躍やドラマチックな展開を見せるエピソードを、本作をこよなく愛するファンの方々が諸名家ごとにセレクトし、お届けいたします(BS10スターチャンネルにて放送)。

この記事では”ラニスター家編”をセレクトして頂いた夜の王さんに、各エピソードのポイントや魅力をそれぞれ詳細に解説頂きました。

ラニスター家とは?

ラニスター家。旗印は真紅の地に黄金の獅子。標語は『訊け、我が咆哮を』。ウェスタロス西部の最上位貴族。金髪で長身で美形な者が多い。領地に金山があるため七王国で最も裕福な家。故に軍隊も強大で兵士たちは強者の証である赤揃え。

「力は力」であると言い、財力と軍隊で圧力をかけ、他家を強引にねじ伏せる。家長は七王国の実質的な支配者タイウィン・ラニスター。強大なαオスが統率する、旗印に違わぬライオンのプライド(群れ)です。

物語の序盤は所謂悪役として活躍し、視聴者のヘイトを集めていた家ではないでしょうか。このラニスターに対する視聴者の印象を変えていくドラマツルギーはゲースロの大きな魅力です。 

他家への圧力、特にスターク家への容赦ない攻撃が目立っていた序盤から、αオスによる血の繋がった我が子への圧力が並行して描かれ始める中盤で、ラニスターの印象は変わります。それにより悪役然としていたラニスター三姉弟の序盤の行動の見え方も変わります。ここにラニスター家の魅力を感じます。
 
変わっていくラニスター家の印象が魅力ですが同時に、ラニスター家が最後まで変わらなかったある点もまた、この一家の魅力ではないかと思います。ラニスター家が最後まで普通の人々だったことです。

紅の司祭の魔法で敵を葬ったスタニス・バラシオン。
ドラゴンを飼い慣らし、空から敵を焼いたデナーリス・ターガリエン。
蘇った英雄ジョン・スノウ、顔無き暗殺者アリア・スターク、三つ目の鴉ブランドン・スターク。

玉座を争った他三名家の者が覚醒させた魔法の力を、ラニスター家は誰1人として得ませんでした(クァイバーンの作ったマウンテンという超常的な存在もいるにはいましたが・・・汗)。これは視聴者の常識から逸脱しない形でラニスター家を語りきるという姿勢の顕れだと思います。

その物語の主柱になったのは『αオスが存続を第一に考える家は子供を甘やかす家を本当に打ち負かすのか?』第三章#10「次なる戦いへ」で、ラニスター家絶頂の最中で家長タイウィンがティリオンに説いた理論への子供達からの回答だと思います。

サーセイ、ジェイミー、ティリオン、甘やかされなかった三人の子供。それぞれの魅力が際立つエピソードをセレクトさせていただきました。

第一章:七王国戦記 #7 「勝つか死ぬか」

三姉弟の父、タイウィン・ラニスターの初登場から始まるエピソードです。 
誰に対しても不遜な態度だった長男ジェイミーの表情に顕れる緊張と、彼よりも高い背丈。タイウィンが偉大な人物であると画で伝わります。

次男ティリオンを捕らえたタリー家の本拠地リバーランを攻撃するため旗手を集結させ、これから指揮を執らんとする幕舎内で交わされる父と長男の会話です。

『獅子は羊の評判など意に介さない』 
『お前は恵まれた男だ。使命を果たせる男になってくれ』 

鹿を捌きながら、自分と同じ長男である息子ジェイミーにタイウィンはこう言います。 子供達が超える壁としてこれほど高く難しく見える者がいるでしょうか!?タイウィン・ラニスター初登場のこの格好良さ。ゲースロを視聴し続けたくなる大きな求心力になりました。

そこから転じてすぐ次の場面、レッドキープの中庭で交わされるサーセイとエダードの会話。劇中で唯一ゲーム・オブ・スローンズという言葉が使われるこの場面は今後のラニスターを見届ける上でとても重要になります。 

『ロバートは私にリアナと囁いた』 
『私の怒りはどうなるの?』

エダードに放ったサーセイのこの問いに、正当な回答や反論が出来た人物は全73エピソードの中で終ぞ1人も現れませんでした。七王国のルールを彼女の父タイウィンや夫ロバート王が都合の良いように作り上げ、サーセイはそれに適応することでしか生きる事が出来なかった。彼女はその事への怒りを湛えながら最終章第5話まで立ち続けます。

サーセイという悪役とされるこの人物を好く上でこれ以上の理由はもはや必要がないとさえ思います。そう思えるのは今後の物語が、サーセイの怒りが何処から生まれてきたのか?を明らかにするルーツ探しの旅でもあるからです。

第三章:戦乱の嵐 -前編- #5 「炎の口づけ」 

総勢30人以上の人物が登場し軌跡が交錯する物語をまとめ上げた怪物的に高品質なエピソードです。当然ラニスター姉弟もおり、彼らの人物像が掘り下げられ、新たな見方が生まれるエピソードです。
 
捕虜としてハレンホールへの移送中に利き手を切り落とされたジェイミーが浴場で弱々しく本音を吐露する場面で彼の見方が変わった人は多いのではないでしょうか。悪趣味なルースの伝言でサーセイの生存を知ったジェイミーの絶望→安堵し跪く姿に、かつての不遜で挑発的な面影はありません。膝から崩れ落ちるほど彼を動揺させるサーセイの安否。そして第一章#1からティリオンに向ける楽しそうな笑顔。ジェイミーもまた、サーセイのように1章から奥行を感じさせる人物ではありました。第三章#5ではそこに弱さの発露という奥行きが加わります。

『ジェイミーだ。俺の名はジェイミー』

ジェイミーは父が求めているような「羊の評判を意に介さない獅子」ではありませんでした。自慢の剣術でなんとか保たれていた自尊心をジェイミーは失いました。彼はここから「嫌味な金持ちの長男」「誓約破り」という世間の評判に、隻腕で立ち向かわなくてはなりません。

黄金の長男が昔のような怖れ知らずの剣士ではなくなったのと時同じくして、王都のサーセイとティリオンにも試練が訪れます。家の存続を第一に考えるαオスタイウィンが2人の婚姻を強引に進めていたからです。

『私の娘だろう!!』

王の子を3人も産んだサーセイに、恫喝するように新たな貴族との間に子をもうけよと命令するタイウィン。彼にとって子供達は家を存続させるための駒であり、意に反する婚姻を拒絶することなど甘えであるということです

そして娘であるサーセイに求めえているのは
「種牡馬たれ」
サーセイの怒りの根源はこの父親の支配でありながら、それに逆らうことが出来ない、とこのエピソードで判明します。 

『忘れるな。お前達はラニスターの名を汚したのだ』

ティリオンは父に従い第三章#8でサンサと式を挙げます。この政略結婚は「私達はお互いのもの」という言葉を交わしたティリオンとシェイの恋愛の終わりを意味します。ロブ・スタークが選んだ自由恋愛をティリオンは諦めました。

そして第三章#9、子供を甘やかす家スタークの長男ロブは政略結婚を破棄した事への報復で母キャトリン、身重の妻タリサと共に殺されます。 第三章#10を向かえ、戦の最中でタイウィンの理論は正しく、ラニスター家は絶頂を迎えているように見えました。 

第四章:戦乱の嵐 -後編- #6 「裁判」 

ジョフリー殺しの嫌疑をかけられたティリオンの裁判を描いたエピソードです。ファンタジードラマであるゲースロにおける屈指の名エピソード「裁判」は普通の人々が主役の物語です。

『私を通じて家名は残ります。キングズガードを辞めて貴方の後継者として生きます』  

ティリオン助命のため、ジェイミーは王都を離れ故郷へ戻るとタイウィンに約束します。これはジェイミーがサーセイと離れ離れになることを意味します。産まれた日を同じくし、肉体でも繋がり、まさに一心同体だったサーセイとジェイミー。エダードがラニスター家への真実に辿りついた「種は強い」というジョン・アリンの言葉。父に種牡馬としての期待しかされなかったサーセイがした復讐。ジェイミーはサーセイが自由を奪われた中で自ら選択した行為の証です。この言葉もサーセイの視点では「種を自らの意思で選んだ意味は強い」ということになるのではないでしょうか。

ジェイミーにとってもサーセイは自分を「誓約破り」と色眼鏡で見ない、心許せる数少ない人間でした。「ジェイミーは字を頭の中で逆さにしていた」とタイウィンがアリアに語った過去から鑑みて、恐らく識字障害があったと思われるジェイミー。跡継ぎを期待されていたジェイミーへの矯正は厳しかったはずです。そんな土壌もジェイミーにとってサーセイをかけがえの無い存在にしていたはずです。

互いに一心同体という認識を持つ姉との別れを選んでも、弟を救おうとするジェイミーの選択は、ティリオンが酷い仕打ちを受け続ける中で視聴者の救いになったはずです。しかし、ジェイミーの嘆願で命だけは助けられると思ったティリオンの前に現れたのはシェイでした。ティリオンの有罪を決定的なものにするため、タイウィンとサーセイが喚問した証人。この選択が物語を大きく動かします。

この裁判においてタイウィンは傀儡たるトメン王を擁立し、黄金の長男ジェイミーに家を継がせ、サーセイを新たな金脈タイレル家に嫁がせ、目障りなティリオンは壁に追いやる。ジョフリー殺しの裁判でタイウィンが思い描いた、家を存続させる為の最善手です。これをし遂げる為にタイウィンはシェイの娼婦というコンプレックスを利用しました。

そこに大きな穴がありました。タイウィンは触れてはいけない我が子の傷を再び刳ったのです。

シェイのコンプレックスが彼女を変えると予測し策に取り入れたタイウィンが、いつも近くにいた我が子ティリオンのコンプレックスが彼を変えると予測できなかったのです。

子供達の意思を封じ続けて生まれた歪がティリオンのシェイとの悲恋によって修復不可能な形になって露わになり、ラニスター家の崩壊が始まります。タイウィンが甘やかされたと評したロブ・スタークの恋愛がスタークを窮地追いやったのと同じように。

シェイの重ねた嘘の数々が、ティリオンを激昂させる決め手になりましたが、そこへ導いた多くの事象はシェイと出会う前から始まっていました。

「お前は母親を殺してこの世に産まれた捻れた悪魔の猿だ」

第三章#1でのタイウィンの言葉です。ティリオンは自分ではどうしようもない事で父に非難されてきました。ようやく見つけたシェイとの愛も、父の策略で打ち砕かれました。 

「一緒に逃げましょう。全てを捨てて、二人で一からやり直すの」 

第ニ章#10でシェイはティリオンに言いました。私が欲しいのは貴方の家名ではない、と伝わる言葉で。だけどティリオンは同意できませんでした。父や姉に悉く自尊心を傷つけられてきたティリオンには家名に寄生する以外で生きていく自信など持てなかったからです。

サーセイがティリオンを憎む理由もやはりタイウィンが原因でしょう。家名にしか目を向けず、家族を見ない父親の支配を畏れる事は出来ても、刃向う事は到底出来ないサーセイ。だから彼女は弟のお産で母が死んだ事実に目を向けます。私が母の愛を受けられないのはティリオンのせい。そして私が母から貰えなかった愛情はありったけ自分の子供達に注いであげたかった。ティリオンはその願いまでも奪った。そう思うことで残酷な真実から目を反らすしかなかったのです。

『私は有罪です。私はこの身体に産まれたことで有罪です。私は産まれてからずっとそのことで裁かれてきたんだ』

ティリオンは父に向かって咆哮します。家の存続を第一に考えると宣うお前が圧し殺してきたこの声を訊け!と。その姿に動揺しながら、何も出来ずにただ見守ることしか出来ない者がいました。ジェイミーです。

彼は王の盾の総帥。七王国最高の守護者はまたしても、破滅に向かう大切な人を助けることが出来ないのです。

息子の排除を画策する父タイウィン
弟を訴え、その死を願うサーセイ
大好きな姉が大好きな弟の死を願い、そして弟を救うことが出来ないジェイミー
血縁者以外の大勢が見ている玉座の間で、父と姉に向かって咆哮するティリオン

これが家族四人が揃い、言葉を交わした最後の時となりました。骨肉相食む、獅子の群れの争い。屈指の名エピソード「裁判」です。再び四人が揃う真の最期、その時に父タイウィンは息子ティリオンに死刑を宣告しました。この裁判の顛末はティリオンの父親殺しというタイウィンにとって最悪の形で幕を下ろすことになります。

家の存続を第一に考えた偉大なαオスライオンは便座に座っている時に我が子の放った矢によって命を落としました。ティリオンの父による支配は第四章で終わりました。

第六章:冬の狂風- #10 「冬の狂風」

タイウィンの死後、袂を分ったサーセイとティリオンがそれぞれの形で結果を出したエピソードです。

皆に畏れられる一族であり続ける。タイウィンが家の存続を考える上で重要視していたことです。囚われたティリオンを取り戻す為に戦を始め、刃向かったスターク家をレイン家のように虐殺したタイウィンでしたが、髪を短くしタイトな衣装を身に着け、シルエットもタイウィンに近付いたサーセイがラニスター家に刃向かったスパロウズとタイレル家にした行いは、その父でさえ想像を絶するものでした。

歴史ある建築物諸共、ワイルドファイヤーで吹っ飛ばしたのです。ティリオンと違って、ここに至るまで精神的な親殺しを経られなかったサーセイ。彼女の選択は、父親以上に排他的で圧倒的な力を示す暴君になることでした。 
多くの視聴者がこのエピソードでサーセイの道が決まったと感じたのではないでしょうか。彼女にハッピーエンドは有り得ない、と。

ですがこれもまた、多くの視聴者が感じたことではないでしょうか。不思議な爽快感です。それは、これまで父タイウィンや夫ロバートに代表されるような男達が作った制度の中で抑圧され、怒りを湛え続けてきたサーセイの開放的な表情に共感できるからではないでしょうか。 

『ティリオン・ラニスター、汝を女王の手に任ずる』

ティリオンが“手”に任命されるのは二度目です。一度目は父タイウィンに、「息子だから」という理由で任命された時。王都を守りきったティリオンを王の手から解任する時にタイウィンは「お前は出来損ないの捻くれ者だ」と言い切ります。タイウィンはティリオンを王の手に任命する時「お前は馬鹿ではないようだ」と認めていたにも関わらず、ティリオンを不当に扱いました。ティリオンはその生まれのせいで正当な評価を得ることが出来なかったのです。

父を殺し、逃亡したティリオンが出会ったのは、世界の果ての部族の長に売られた娘でした。彼女は「娘に生まれた」せいで不当な扱いを受けてきた人間でした。兄に家畜のように売られ、モノとして扱われたその娘が求められた役割は「種牡馬たれ」。ですが彼女もまた、自分を支配する父権的な兄を殺し、強い信念と努力によって、いつしか「世界を変える最後の希望」と言われるまでの存在になったのです。

彼女はティリオンを正当に評価します。獅子の王タイウィンが歯牙にもかけなかった 「心配する必要などない、世界の果てでの珍事」デナーリス・ターガリエンが「出来損ないの捻くれ者」ティリオンを女王の手に任命したのです。ティリオンの仕える女王は言います。

「私達は酷い父親達が作った世界をより良いものにしてみせる」 

第七章:氷と炎の歌  #4 「戦利品」

タイウィン亡き後のウェスタロスで支配者としての成長を見せたサーセイとジェイミーの終わりを予感させたエピソードです。ファンタジードラマであるゲースロが、ついに普通の人々として闘ってきたラニスター家に残酷な非常識を突きつける名エピソードでもあります。

お父上はとても優秀な方だったが、貴女は彼を完全に超えている

アイアンバンクの使者ティコ・ネストリスがサーセイにそう言いました。

サーセイとジェイミーはハイガーデンを陥落させ、財宝を奪取し父タイウィンの借金を返済しました。しかし、たった一度の勝利でそこに辿り着くことは出来ません。第七章#2「嵐の申し子」、第七章#3「女王の正義」と立て続けに描かれたサーセイ率いる王室直属軍の勝利を、誰が予想していたでしょうか。

蓋を明けてみれば、ラニスター陸軍と同盟者グレイジョイ海軍の連戦連勝。ですが、実はタイウィン死後からここまでラニスター軍は戦争で敗け知らずです。第六章#8「誰でもない者」でもリヴァーランのブラックフィシュ籠城戦をほとんど犠牲を出さずに勝利で終わらせています。

ジェイミーは利き手が健在だった頃は一騎打ちが得意な戦士でした。故に、その自信から囁きの森の戦いでは前線に躍り出てロブ・スタークに捕縛されました。その後、利き手を失い戦士としての自尊心をジェイミーは失います。それが個の力に頼れなくなった彼に将軍として兵を率いる方向での成長を促したのです。将軍としての統率力を身に着けてからは戦で連戦連勝。ハイガーデンの戦いでロブの戦法を取り入れ、アンサリードの大軍を欺き、負け戦から学んだ知将としての姿も見せました。ジェイミーは利き手を失い、むしろ強くなりました。ウェスタロスで2番目の軍隊を持つタイレルを破ったラニスターに軍隊VS軍隊で太刀打ちできる者はもはやいないと言えます。

しかし、まさに「力は力」を勝利で証明し、戦利品を運んでいたジェイミーの前にそれが現れるのです!ブロンが平原の向こうから聞こえる嘶きに気付いてからの数分は、このドラマでも3本に入る緊張と興奮ではないでしょうか。視聴者はこの後何が起こるか分かっています。ずっと待ち望んでいた興奮の瞬間でした。同時に、これからジェイミーの身に起こるであろう驚愕と恐怖を想像して緊張もする…とても贅沢な瞬間でした。

ティリオンが仕える女王デナーリス・ターガリエンの駆るドラゴンにラニスター陸軍の兵は焼かれました。ラニスター家が陸と海から見せつけてきた「力は力」の遥か上をいく圧倒的で非常識な力をジェイミーは空を見上げ、知りました。

その光景に動揺しながら、何も出来ずにただ見守ることしか出来ない者がいました。ティリオンです。かつて自分が玉座の間で兄にそう感じさせたように、破滅に向かう大切な人を助けることが出来ないティリオンの姿には群像劇故に見方によって善悪が変わるゲースロの魅力が詰まっていました。

子供を甘やかす家スタークは父、母、長兄を失っても、彼らの築き上げた信頼が残された子らに受け継がれました。その子らの中にも兄妹や領民を想う優しさが継承され、互いを想って再集結した狼の群れは学びと成長に加え、より一層強い絆で結ばれ厳しい冬を乗り越えました。

一方、父を超えた女王と、実力を身に着けた将軍、その力を持ってしても太刀打ち出来ない力が現れた時、皆に恐れられる一族であれと教育され、そう立ち回ってきた獅子の群れに捲土重来を期す機会はもうありませんでした。

『αオスが存続を第一に考える家は子供を甘やかす家を本当に打ち負かすのか?』

その答えは、異国の地よりやってきた、同じく力と恐怖で何よりも成功体験を経たデナーリスに為す術なく敗れ去ることで呆気なく出ました。

ティリオンの父親殺しの物語は、タイウィンの死後に袂を分かち、父親の亡霊の様になった姉との決着をもって真の意味で完結すると思っていました。「私達は酷い父親達が作った世界をより良いものにしてみせる」という女王に仕え、再びウェスタロスへ戻ってきたティリオンの物語にはそんな期待がありました。

ですが、彼が信じ、彼を正当に評価したその女王を、父よりも力の支配をした姉サーセイすら凌ぐ暴君にするというツイストがゲースロからの解答でした。ティリオンとサーセイの宿命やスタークとラニスターの決着など、この非常識で圧倒的な力の前では無意味であると言われた気がしました。(デナーリスが力と恐怖に頼らざるを得ないと結論づけた環境はラニスター姉弟が受けた因果応報の土台に比べるとかなり不自然で強引でしたし…) 

ではラニスター三姉弟の運命は悲惨だったのか?というと決してそんなコトはないと思います。力で道を切り開いてきたサーセイがクァイバーンもマウンテンも失い、孤独な女王となった時、現れたのはジェイミーでした。

スタークの兄姉妹弟達が再集結し互いに寄り添ったように、サーセイとジェイミーもまた互いに寄り添って終わりを迎えました。そのジェイミーをサーセイの元に辿り着かせたのはティリオンでした。ジェイミーが死刑宣告をされたティリオンを第四章#10「世継ぎたち」で救ったからサーセイの元に辿り着けたのです。

『使命を果たせる男になってくれ』と言われた黄金の長男ジェイミーは要の瞬間では『お前達はラニスターの名を汚したのだ』と言われ不遇だった姉や弟をいつも選んでいました。それが家を没落させることになったとしても。
長女サーセイは家の繁栄の為に自分を種牡馬のように扱う父に密かに抗い、種を自ら選びました。タイウィンが築き上げた遺産が愚かな見せかけであると思い知らせました。

サーセイは多くの人間に酷いことをしましたが、彼女もまた、酷い目に合わされてきた人間です。ジェイミーはサーセイ程に酷い人間ではありませんでしたが、彼女が受けた酷い目、その片棒を消極的に担いだ人間ではありました。自分の子供達への責任をジェイミーは負ってはいませんでした。最期にサーセイに寄り添った事実は、そういう意味でも溜飲が下がります。

最後の一人、ラニスター家の末っ子ティリオンは父タイウィンを殺しました。そして父が唯一、目障りな存在であった彼が最後のラニスターとして生き延びてみせたのです。

サーセイ、ジェイミー、ティリオン…姉弟三人で力を合わせ、偉大な父タイウィンが継承させたかった家の在り方にNOを突きつけ、物質的にも精神的にも彼を倒したのです。父親を殺すという普遍的な物語の通過儀礼を互いに作用し合い、果たしたラニスター三姉弟。これが彼ら彼女らの魅力だと、私は思います。

文:夜の王
Twitter:https://twitter.com/thrones_taro

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