第3回講義 会計の意義:再検討(制度会計論2021)

【目次】
1 企業とはなにか
2 そして会計とはなにか
3 企業における会計情報の作成者とその主要な需要者
4 情報作成者の意図と利益マネジメント
5 情報の非対称性と会計情報の計算システム
6 言語としての会計

※同志社大学学部科目「制度会計論」第3回講義のまとめです。

(本サイトは講義履修者に活用されることのみを目的とし、それ以外での目的を想定していません。)


1 企業とはなにか

-なぜ企業は存在するか?

コースによる「市場と企業の境界線」
Coase, R. H. (1937). The nature of the firm. Economica, 4, 386-405
ポイント:取引コストの存在(ex. 適切な価格発見、価格交渉、契約の起草と締結、 価格をめぐる紛争解決など)
 ↓
取引コストの大小により、市場or 企業を使い分ける必要
 If 取引コスト大→企業内に取り込むことで、取引コスト削減
 取引コスト小→そのまま市場で取引
 ↓
取引が企業内に取り込まれることにより、取引コストが大幅に削減される

「企業とは、契約の束 (nexus of contracts)である」


2 そして会計とはなにか


契約の束 (nexus of contracts)としての企業
→契約の効率性が企業価値を左右
→契約の効率性を「見える化」する必要
(契約に係る経済資源のやり取りを「測る」ことができたら・・・)

※そのことにより、プレイヤーの注意を「契約の効率性」に向けさせる
    &プレイヤーを「効率性向上」に向けて行動せしめる

「会計とは、契約集合あるいは組織を組み立て、実行し修正し、維持するメカニズムである」
Sunder, S. (1997). Theory of Accounting and Control. South-Western College Publishing.(山地・鈴木・松本・梶原訳 (1998)『 会計とコントロールの理論-契約理論に基づく会計学入門-』勁草書房)

・企業に関連する様々なプレイヤー(Sunder (1997)table 2.1)
・エイジェントは、自分たちの取り分を改善するために契約に加わり、契約は各エイジェントに対して、資源を組織のプールに提供することを義務づける代わりに、そのプールから資源を受け取る権利を与える。
・エイジェントが提供し受け取る資源の形態、量および時点は、エイジェント間の交渉の題材となる。
・結果として、さまざまなエイジェントが利己的な動機に基づいて協力することにより、企業の存在が可能となる(Sunder (1997) p.15-16)。
 ↓
企業を活動させるための会計の5つの機能(sunder 1997 Chapter 2)→(1)(2)(3)が重要
⑴ 各エージェントが企業に拠出した資源を測定すること(インプット)
⑵ 各エージェントが受け取る資源請求権を測定すること(アウトプット)
⑶ 他のエージェントの契約履行に係る情報を各エイジェント間で共有すること
⑷ ⑶の情報提供によってエージェントが有する契約上の地位を売買できる流動的な市場を確保すること
⑸ 共有知識の提供により定期的に再交渉されるエージェントの契約における交渉・契約成立を支援すること

「会計とは、「契約の束」を維持しコントロールするシステムである」


3 企業における会計情報の作成者とその主要な需要者

Sunder 1997:会計とは「契約の束」を維持しコントロールするシステム

しかし、自然に数値が把握され計算されるわけではないのが次なるポイント

「ある特定のプレイヤー」が数字を作る、それは誰か?

※企業(株式会社)において会計情報は「誰」がどのように作成するのか?
→別の視点で考えよう:情報はどこに集まる?誰が最も情報を有する?

Cf.株主総会 招集通知
・株式会社には、最高意思決定機関として、株主総会が存在する。
・株主に送付される招集通知の中には、様々な企業情報が綴られている。
・招集通知では企業経営者から株主に向けた多くの重要事項が、数値化され記載されている。

例 トヨタ自動車2020 招集通知(リンクをたどってみよう)

https://www.nikkei.com/nkd/disclosure/tdnr/cawoe6/


→招集通知をみると、経営者が、株主に向けて情報発信していることがわかる→なぜ?


【株式会社制度のポイント】
→「株主・経営者間の委託・受託関係」が制度のコアに
①ビジネスを大規模かつ継続的に実施するために所有と経営を制度的に分離
②ビジネス資金の継続性・長期的安定性のために、株主に対して、
投下する資本のコミットメントを強いる(会社脱退(資本払戻)の原則禁止)

・経営権が経営者に委ねられる→経営に関する情報を一番多く握る
・エージェントの中で株主は、(一度出資してしまうと)とても弱い立場にある
 ↓

「経営者:情報の作成者 → 株主:情報の需要者」
<特に、株主のcontribution(出資額)とentitlement(配当、残余価値)を明確化>することが会計の重要な責務(これを「会計責任」とよぶ)



4 情報作成者の意図と利益マネジメント

次なる疑問:経営者によって会計情報は正しく作られるのか?

<「正しく」の3つの意味>
1 会計情報を生産するシステム自体が、現実の経済活動を忠実に捕捉・描写できない可能性(会計情報の表現の忠実性
2 経営者が数字を誤ってしまう可能性(誤謬
3 経営者が意図的に数字を歪める可能性(不正・会計操作

ブーメラン効果・・・自分の発した情報の影響が、巡り巡って自分のもとに跳ね返ってくること

※ブーメラン効果によれば・・・
企業価値・業績に関する情報開示
→利益連動型報酬制度、ストックオプション、ひいては株主総会での選任・解任などを通じて経営者の効用に直結
→経営者は会計数値を調整しようというインセンティブを持つ(経営者の機会主義的行動
  ↓

情報供給サイドの戦略
ブーメラン効果の予測⇒有利(不利)な結果を導きたい(回避したい)
⇒望ましい結果に変えたい
(1)会計ルールを破る(粉飾、不正)
(2)ルールの枠内で・・・ 利益マネジメント
   (a) 会計数値の調整⇒会計的裁量行動
     Ex. 会計手続の変更 ,見積方法の修正
   (b) 取引の仕方を変更⇒実体的裁量行動
     Ex. 取引の早期化・延期、取引の分割・一本化


5 情報の非対称性と会計情報の計算システム

Point: 会計=情報     .
※「情報操作」:情報発信者が、何らかの意図を持って、情報を歪めて発信すること→そのことにより、情報受信者を自分に都合のよいように誘導すること


もしかして、経営者が「情報操作」をしていたら・・・

<情報操作しうる会計を巡る特質>
①会計の「あいまい」さ→情報操作が出来る余地がある(経理自由の原則
 ※2レヴェルの会計選択(社会的選択、私的選択)
情報の非対称性
  →情報優位者=経営者、情報劣位者=株主
   →経営者が何も知らない投資家等をだますことは十分可能


 
6 言語としての会計

会計とはプレイヤー間の「コミュニケーション手段」

→「会計=言語

※言語論における語用論・構文論・意味論を援用
→会計学における機能論・構造論・測定論

※他方で、言語としての安定性が必要→複式簿記の存在理由(第4回へ続く)


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