ドキドキ!プリキュアについて【15】

 今回は、本編のお話に入る前に、時系列を整理しておきます。

 2013年6月18日に、38話のプロットを提出しています。タイトルは「超えられない壁」。マナの先輩が放浪の旅からふらりと大貝町へと舞い戻って波乱を巻き起こすお話で、その物語の中で、マナがどうして大貝第一中学の生徒会長に立候補したのか、その理由が語られる予定でした。

 カンの鋭い人はお気付きかも知れません。その先輩こそが、ありすの兄・ヒロミチだったのです。ありすとヒロミチの直接の絡みは、エピローグのみ。

「お兄様、日本にお戻りだったのなら、連絡をくださればよかったのに……」

「お前の様子を見に来たんだよ。なかなか面白そうなことしてるじゃないか、ありす」

「あ、お父様のヘリコプター」

「おっと……また来るよ。キュアハートにヨロシク」

 という感じで、視聴者も最後に「ええっ、お兄ちゃんだったの!」と驚く、そんな構成に仕上げていました。

 プロットに対する評価は二つに別れました。マナのキャラクターの掘り下げの部分は良いとして、最後のサプライズが面白いという意見と、この時期に新キャラを投入するのはいかがなものかという意見です。会話から読み取れるように、ヒロミチは父親とうまく行っていません。放浪の旅に出ていたのもその為ですし、ありすが四葉家の後継者としての役割を担っているのもそういう事情からなのです。確かに、子供にはそういった複雑な家庭の事情は理解出来ないでしょうし、本筋には全く関係のない部分でしたので、このプロットは一時保留ということになり、39話として予定されていた「ベールのたくらみ!アイちゃんジコチューになる!?」は38話に繰り上げになりました。

 さて、39話はレジーナ復活のお話です。30話で張ったミラクルドラゴングレイブの伏線を回収し、更にジコチューには抜けないハズの槍をレジーナが抜くことで、結末に向けての新たな伏線とする展開です。魔女の杖じゃないけれど、槍はレジーナのアクセントとして非常に良く機能してくれたと思います。視聴者にもジョー岡田が偽物であることは明言しないまま物語を進めて、槍を見つけたところで「バレてないと思った? 残念!」とばかりにベールを追い詰める鬼畜の展開は、7話の踏襲。本物のジョー岡田が帰ってきた時の亜久里に対するリアクション(45話)と比べて見れば判りますが、ベールの演技はほぼ完璧だったのにねえ……。途中、マジカルラブリーパッドのナビゲーションで地下水道を探検するシーンと、ラストでアイちゃんが画面を拭いたら大貝町が見えるシーンは、玩具に収録されていたミニゲーム(アプリ)の再現です。ちなみに、この話からジコチューたちが屯する場所はボーリング場からレジーナの部屋に変わりますが、イメージは映画「ヘルタースケルター」に登場するエリカ様もといりりこの部屋でした。赤で統一された中に女性が好きそうなアイテムを詰め込んだ宝石箱のような空間でしたが、こちらはもっとポップな色調で可愛い感じに仕上がっています。

 40話はせっかくキャラクターアルバム「~SONG BIRD~」が出たのだから、まこぴーの歌を生かした話を作りたいねとスタッフ間で言い続けて出来たお話です。視聴者からまこぴーのステージ衣装を募集したりして、イベントとしても盛り上げました。曲は「今はまだ遠いところにいる友達に贈る歌」ということで「こころをこめて」。真琴がレジーナに語りかけるように歌い上げる場面、シナリオ執筆時点には、あそこまで素晴らしいシーンになるとは思っていませんでした。何故なら、この話数にはもうひとつ、ロイヤルラブリーストレートフラッシュのお披露目もあったからです。当然、作画枚数もかかりますし、相対的に歌のシーンはそこまでカロリーは高く出来ないだろうと踏んでいたのです。ところが、そんな予想をいい意味で裏切って、あの仕上がり。真琴がレジーナの頬に手を差し伸べるくだりは何度見てもゾクゾクしますが、あれは完全に演出と作画の勝利です。

 41話は五星麗奈再登場。13話では彼女の救済というか、ありすとの和解まで描けなかったので、引き続き米村さんに担当して貰っています。「お花屋さんが」「宇宙が」「友情が」と寄って集ってアイディアを出したら、米村さんはまさかの「全部乗せ」でシナリオを仕上げてくれたという、まさにプロ根性を垣間見たお話です。40話からのレジーナ説得編は、これまでのプリキュアシリーズのモチーフが生かせたら面白いんじゃないかなと思って、歌=スイート、花=ハートキャッチにしたのですが、後が続かなかった(笑)。絵コンテは、越智一裕さん。コクピット内部のレイアウトがなんとなくゴッドマーズっぽかったりして、オールドファンはニヤリとします。

 42話と43話は、元々はひとつのお話でした。亜久里の誕生日と授業参観のエピソードを一緒に詰め込むつもりだったのですが、尺に収まらなかったので、二つに切り分けたのです。2013年8月16日に提出されたシナリオ第三稿まではもっと明確に前・後編の構成が取られていて、42話のラストでキュアエースが亜久里に戻るところを茉莉に目撃されたところで、次回にひいていました。

 ところがそこで問題が発生します。31話の放送日(2013年9月8日)の朝に、2020年度のオリンピック開催地が発表されることが判ったのです。仮に東京に決まった場合は特番に切り替わり、プリキュアも休止になる可能性があるというのです。既に次の新番組の放送日は決まっているので日程を後ろにずらすことは出来ません。つまり、最悪の場合「ドキドキ!プリキュア」の放送話数が一本減ってしまうということです。41話までのシナリオ作業は終了しコンテ作業に入っていたので修正不能。44話以降は伏線の回収と最終決戦でいっぱいいっぱいなので、切れる部分はありません。この時点でペンディングになっていたヒロミチの話は消滅。更に42話を見なくても話が繋がるように、43話の冒頭に亜久里の正体がバレるシーンが別エピソードとして追加されました。

 内容の方に目を向けましょう。42話は分割して尺に余裕が出来た分、キャラクターで遊べたのが楽しかったです。亜久里に内緒で誕生日パーティの準備をする真琴たちや、眠れない亜久里を気遣う茉莉。牛乳を暖めるのに電子レンジではなくわざわざミルクパンを使ったり、暖房器具がブルーフレームだったりするのは茉莉らしさを現すためのこだわりポイント。「内密」は、及川いぞうさんが悪戦苦闘。アフレコ後の反省会(という名の宴)では「俺は内密より壇蜜がいい」とぽつり(笑)。あ、そうそう。オンエアは確か和歌山ポルトヨーロッパに向かう車内で観たんですよね。その後、速攻でネットにあがってきた亜久里の頬被りイラストを観て、釘宮さんたちと一緒にワイワイ盛り上がっていました。

 亜久里の出生の秘密が明かされる43話は、27話を書いた田中仁君に担当して貰いました。「あれ、おばあちゃんが来てるぞー」という授業参観にありがちな児童の心ない一言が、着想の原点。みんなが描いた絵をキュアエースが必死にかき集めるのは3話の手紙と同じ構図ですが、茉莉からの返しがある分だけドラマに厚みが出ていると思います。特に「たとえ絵は消えても、込められた想いは色褪せたりしない」というのは珠玉の台詞ではないでしょうか。見返して気づきましたが、亜久里のランドセルは本当に紫色なのね(笑)。

 意外に長くなってしまいましたので、44話は次回にさせていただきます。それではまた。

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