ドキドキ!プリキュアについて【11】

さて、レジーナ登場と劇場版のシナリオ作業というふたつの巨大な波と格闘していた頃、その8のラストで触れた通り、突如としてとんでもない試練が降りかかります。

「五人目のプリキュアを出してください」

バンダイからの指示が私に届いたのが2012年の9月末。作業的には3話の決定稿が出るか出ないかのあたりです。何故、この時期にてこ入れの案が出たのかは知る由もありません。ですが、こちらもこの道二十数年。この手の無茶振りもといオーダーに答えたことは何度もあります。
「やったろうやないかい!」
と、我々は鼻息も荒くこの難題に立ち向かいました。


ですが……人間というのは怖いですね。そうやって一度テンションがあがってしまうと、往々にして自らとてつもなくハードルをあげてしまうのです。
「やるからには、いままでにやったことがない新しいパターンで出したい!」
誰が言い出したわけでもありませんが、そういう雰囲気がスタッフの間に出来上がっていました。
当初の予定では、アイちゃん=アン王女(髪の色を見れば一目瞭然)で、闇に染まったプシュケーを割って出来た存在がレジーナでした。しかし、アイちゃんは玩具として出すことが決まっていますから、彼女をプリキュアにすることは出来ません。更に、先ほど述べた不文律のおかげでレジーナを五人目にする道も断たれてしまったのです。
我々は検討を重ねました。王女の影武者とか、ドラゴンボールのトランクスのように未来から突然現れるプリキュアとか、ずっと昔から地球を守っていた古代プリキュアとか、トランプ王国で倒されたはずのソードの先輩たちが思念体となって誰かの体に乗り移るとか……いやもう、書いてるだけで当時の混乱ぷりが伝わってきますが(笑)とにかく「これだ!」と言えるような決定打はなかなか出ません。そうこうするうちに五人目は夏休み商戦の前(22話)に投入されることが決定。残された時間はどんどんなくなっていきました。

実はこれ、少年漫画なら簡単な話なのです。グレートマジンガー然り、ビッグワン然り、主人公のピンチに新しい仲間が駆けつけて、力で敵をねじ伏せる! 強いものが大好きな男の子なら、絶対に燃える鉄板の展開!!

だが、その公式を女児アニメに当てはめて、果たしてよいものなのだろうか?思い悩んでいたその時、私はweb上で鷲尾元プロデューサーの言葉を見つけます。

「幼児期の男女に差はほとんどない。公園や幼稚園では男女関係なく飛び跳ねて遊びたいはずだ」

そうだ、もともとプリキュアは「女の子だって暴れたい」がコンセプトだったではないか。ならば思い切ってやるしかない。きっと女の子にだって「強さ」に対する憧れはあるはず! 岡ひろみの前に聳え立つ竜崎麗香(お蝶婦人)のように華麗で気高い存在……名前はそう、キュアエース!


そこからさらに「子供に親近感を持たせたい」という理由から変身前は小学生になり、ハートたちとのバランスを考えて変身できる時間は五分間というタイムリミットを付け加えました。この変身が解けてピンチになるというシチュエーションは、アニメ本編以上に着ぐるみショーの方が効果を発揮していたように思います。ポルトヨーロッパで見たアクションステージで、亜久里がジコチューにドつきまわされている姿を見た時は「これはあかん!!」 と本気でハラハラしてしまいましたから(笑)。
こうしてコンセプトはほぼ決まりましたが、亜久里のキャラクター付けはかなり難航しました。資料を見返して見ると、キュアエースのオーディション直前までキャラが固まっていません。口調も平安時代のお姫様風「~なのじゃ」や、男の子風(所謂ボクッ娘というより、セーラーウラヌスに近い)のサンプルが残っています。名前も亜久里ではなく「虎姫・アルジーヌ・ユーディット」とか、いかにも悩んでましたって感じのダメなやつが残っていて……今考えると冷や汗ものです。

それでは、また。

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