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宮崎リニア実験線 ML500をつくる

宮崎リニア ML500とは

宮崎県の日向市と都農町にリニアモーターカーの実験線があり今も軌道の跡が残っている。並走するJR日豊本線の車窓からもよく見え、一直線の軌道は鉄道の廃線跡としては異質な印象。ML500はこの実験線で使われた実験車両である。

現在の宮崎リニア実験線跡

宮崎リニア実験線は現在の山梨リニア実験線の前身で、国鉄時代の1977年から鉄道総研に引き継がれた後の1996年まで走行実験が行われた。実験車両は5形式が使われた。中でもML500は宮崎リニア実験線の初代実験車両で、1979年には当時の最高速度記録517km/hを記録した。ML500は無人の実験車両で、500km/hにちなんで形式名が付けられている。500km/h走行における特性を測定するため各種実験が行われ、中にはレーシングカーの様な尾翼を付けた試験も行われた。

尾翼付きML500 (3Dイメージ)

走行試験終了後は大阪の弁天町にあった交通科学博物館に展示され、閉館後は東京の国立にある鉄道総合技術研究所に現在も保存されている。

※本記事は1/170(Nゲージ)と1/87(HOゲージ)で製品化しているML500の製作記です。
製品そのものの詳細はHPへどうぞ。

ML500との関係

今20~30歳くらいで関西で幼少期で過ごした方であれば弁天町の交通科学博物館に子供の頃に連れていったもらった人は多いと思います。弁天町といえば閉館後の今でも博物館のイメージの同世代の方は多いのではないでしょうか。僕もそうで弁天町には両親に何度も連れていってもらいました。当時の大阪環状線は国鉄時代から走っていた103系が多く、新しい車両が好きだったので221系が来ると嬉しかったのをよく覚えています。拡幅車体ならではのドアの下が丸くなっているのが特に好みでした。

ML500 (3Dモデル)

ML500は交通科学博物館に入って一番最初に目にする車両で、未来の鉄道を象徴していました。当時の未来と言えばチューブの中を飛行機や新幹線が走っている絵が多く、ML500のチューブの中を走れそうな形状が余計に未来感を掻き立てていたような気がします。500km/hという想像できない速度で走る車両という事と窓やライトといった普通の鉄道車両にあるものが全くないという異質さに特に惹かれていました。これがまさか環状線の103系と大差ない時期に作られたとは当時は思ってもいませんでした。

未来の車両だと思っていたML500が実はかなり古い車両だと知ったのは随分後になってからでした。2014年の弁天町の閉館前後は鉄道趣味から若干離れていた時期で、プラモデル等に比べると値段の張る鉄道模型に再燃したのはバイトを始めた大学生の頃でした。乗った車両を買うといった印象重視の収集スタイルで、今も変わらずこのスタイルで買い集めています。幼少期の印象で221系、阪急8000系…と買い進めていくうちに弁天町にいたML500も欲しいと思うようになりました。

模型製作

ML500が欲しいと思っても、当時はまずインターネットで調べて既製品がないという事が分かるのみでした。既製品がなければ似た車両から改造するか、プラ材や木材を削って作るかでいずれにしても高度な技術が必要です。僕自身にはそういった腕はなく、社会人になってしまって磨く時間もないという有様でした。周囲にそういった腕に長けていた人もおらず、技術を要する方法はあまりにも夢物語で一旦欲は自然消滅していきました。

2度目の再燃は3Dプリンタが普及した頃でした。ちょうど3DCADの勉強をしていたので3Dモデリングさえできれば諦めていたものが可能になるのではと希望を感じました。実際に手を動かそうとするとまず資料がない壁に突き当たります。資料不足は何を作る場合でも共通ですが、既に引退済みの実験車両の資料というのは簡単には見つかりません。ネット検索をしても鉄道総合技術研究所のサイトに側面図が一枚載っているのみでした。仕事で使う3DCADの勉強そのものは楽しくやっていたのですが、欲しい模型を作るのは一筋縄ではいかないと気づいてまたしばらく沈静化していきました。

3度目の正直は3DCADを使って模型製作をし始めた時でした。この時に国立国会図書館での資料収集を教えて頂き、遂に3Dモデリングと資料が揃いました。製作を始めた頃はML500の存在を忘れていたのですが、国立国会図書館で宮崎リニア実験線の実験記録『超電導磁気浮上式鉄道宮崎リニア実験線記録誌』を見た時にML500の詳細な図面を見て確信。早速モデリングに入り、形状自体は1週間もかからず完成。試作も順調に終わり塗装というところで問題が発生、赤いラインが細過ぎて(1mm以下)模型製作の腕がない自分には到底不可能でした。

フルカラー3DプリントによるML500の模型 (1/87)

細すぎて塗れないラインの解決策は3Dプリントの段階で色まで付けてしまうフルカラー3Dプリントの活用でした。この方法であれば3Dプリントの後に作業はほぼ発生しません。当時はフルカラー3Dプリントの事例が少なくデータの作り方から色味の調整まで苦労が多かったですがモデリングのみでなんとかなるのが救いになって何とか完成まで漕ぎ着ける事ができました。

現在のすずめ模型の製品群にはフルカラー3Dプリントの製品が多数ありますがその一番最初の作品はこのML500でした。最近ではフルカラー3Dプリンタ自体も進化してより綺麗に作れるようになってきているのでいつか向上分を取り込んだver2.0をやりたいとも思っています。



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