洗って

雨が降った時に聴きたい曲がある。
塩入冬湖さんが歌う「洗って」という曲だ。

雨が降った時と言えども、雨に打たれながらではなく、街中を歩きながらでなく、部屋の中から窓に雨粒が這っていく様子を眺めながら聴きたくなる。
窓越しにシトシトと降る雨を見つめていると、世界と遮断された気持ちになる。湿り気を帯びていく街並みが、窓を一枚隔てただけではなくて随分と距離があるように感じる。

自分にとって、出会いと別れの情景はこんな感じだ、と感じる。
青空に映えるピンク色の桜ではなくて。

気づけば見送ることの方が多くなり、見送ることに慣れてきて、自分はいつも同じ場に佇んでいるような感覚が強くなった。
加速していく日々に置き去りにならぬようにしながら、傷つかないように身を守る。
さよならと手を振りながらまたねと確証のない約束を口にして当たり障りない言葉を並べながらあるべき自分を維持する癖がやめられない。
自分のエゴの寂しさに寄り添いながら、離れる人への祈りを込める。

ただ、この春は数年ぶりに見送られる春だった。
たくさんの言葉と気持ちを贈ってもらう。連日荷物の多い帰り道はどこか暖かくどこか寂しい。
加速していく日々の渦中に自分もいることを思い知り、シトシトと降る雨に優しさを感じ、吹き荒れる風に気持ちを奮い立たされる。

たくさんの出会いと別れを繰り返しながら磨かれていくものがある。

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