底なしのアンダーグラウンド

小学生のころに怖いもの見たさでよく見ていた、あの「虫食い芸人」は今、何をしてるんだろうと、ふと思い出して検索をしてみた。

当時ワラジムシのピザや、ゴキブリの素揚げをがむしゃらに食べていた彼は、今もなおYouTubeで、ゴン太いミミズを口いっぱいに頬張って食べる活動を続けていた。ただ一つ、小学生のころと認識が変わったところがあった。あの頃、虫食い芸人の彼は「虫を食うことに抵抗がない人間」なのだと思っていたけど、この間見た彼は涙を流しながらミミズを自分の口に詰め込み、時々ゲロを吐き散らかしていた。かなり、精神的にも肉体的にもキツそうだった。

人間、確かに生きていくのは大変だけれど、「虫食い」のルートを選ぶしかない人生って果たしてあるのだろうか。彼がどのような思いで今も虫を食っているのかは存じ上げないから、とやかく言うのは失礼だけど、15年越しに切ない気持ちになった。

その虫食い芸人について調べてみると、ある事務所に所属していることが分かった。虫食い芸人が所属できる事務所ってなんなんだ、と思ってまた調べてみると、何やらアンダーグラウンド、いわゆるエログロナンセンス系のイベントを頻繁に主催している事務所だった。

風俗嬢のヤリマントークイベント、とかラブドール展示会とか色々、昔のロフトプラスワンでやってそうなイベントが羅列されている中、ひときわ視線を奪われたのが「死体忘年会」というイベントだった。詳しい事は読み取れなかったけど、何やら死体に造詣の深い奇特な人たちのトークイベントのよう。ゲストとして「死体写真家」の方の名前が掲載されていて、気になってその人のことも検索してみた。

死体写真家の彼は今年で死体を撮り始めて30年になるらしく、アングラ界の巨匠のよう。詳しい思想などはここで話すことでもないけど、AV業界に元々いた際に、何にも規制されず自由な表現をしたいと思った事、そう思っていた際にアングラ雑誌の編集者から声をかけられた事が、死体写真家になったきっかけだそう。

ファンも多いようで、クラウドファウンディングで新たな死体写真集を出版したり個展を開いたりしているようだった。何枚かサンプルの写真を見つつレビューなどを見ていると「生きることについて考える事ができた」「死に目を向けることができた」「死の美しさを感じた」等々あったが、俺はというと、平日深夜、あと4,5時間で出勤の準備をしないといけない時間だったにも関わらず、死体写真を見たことにウッとなって、気持ち悪くなってトイレにこもっていた。

まあ、まず、当たり前といえば当たり前なんだけど、やっぱりそれだけの人が、このアンダーグラウンドに存在しているという事にまず驚いた。重ね重ね当たり前なんだけど、どんな文化圏にも人は絶対いて、その文化に感動がいるのは分かってるんだけど、自分の文化に対する視野の狭さを思い知らされた。ポッカキットで紛争地の死体写真を見て「グロ!w」と騒ぐガキとか、当たり前だけどそんなものとは全く違う意味合いで、彼の写真集を支援する人たちは、彼の撮る死体写真に心から魅了されていた。

結局俺が何を思ったかというと、「下には下がいる」という事。ここでいう下は、見下している意味の下ではなく、アンダーグラウンドという意味での下。アンダーグラウンドには、さらにアンダーグラウンドがある。大概今までサブカルチャーに明るいですよ、多少のアングラ文化も好きですよ、みたいな顔してイキって生きてきたのだが、俺が見てきたものなんて、そんなものやっぱり文化の氷山の一角に過ぎない。

そう思った時、じゃあ俺が自信を持って、誰よりも好きで詳しいものなんてあるのか?と、足が地面につかない感覚に陥ってきた。というか結論から言って、そんなものない。なくてもいいはずなんだけど・・・自分の輪郭がボヤけるような、見えない不安でいっぱいになった。そんな不健全な平日の深夜だった。

サポートして頂いた暁には、あなたの事を思いながら眠りにつきます。