Web小説『リビルドワールド』の高い論理性

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 『リビルドワールド』は、『小説家になろう』及び『カクヨム』に掲載されているアクション小説です。
 高度な科学文明が滅び、荒廃しながらも再構築された世界で、旧世界の遺物を求めモンスターと戦いながら遺跡を探索するハンター達を描いています。大量の武器や兵器が登場し、激しい戦いが繰り広げられます。
 
 以下は全て私個人の感想です。ネタバレは極力避けています。


良い点 

 あらゆる描写が非常に論理的です。これに尽きます。私はアクション小説は苦手ですし武器等も嫌いですが、論理を眺めるのは大好きです。具体的に述べます。

論理的な思考描写

 熟練のハンターからスラム街の孤児に至るまで、殆どの登場人物が論理的に思考し、行動します。また、その思考が地の文やセリフとして明確に描写されます。三人称小説の利点を活かし、主人公が知らない情報も必要に応じて記述されます。
 それにより、登場人物が読者に理解できない行動をすることがほぼありません。読者に伏せられている事情を基に行動が決定された場合も、「何らかの事情が存在する」ことが描写されます。

論理的な感情描写

 登場人物が感情的な行動をすることもあります。しかし、その時も論理性は保たれています。その感情は何故生じたのか。その感情は判断にどのような偏りを生んだのか。それらが地の文で論理的に説明されるからです。
 感情と論理は相反するものと捉えられがちですが、感情に論理を付随させることは可能なのです。

論理的な状況描写

 論理的なのは人の描写に留まりません。何が原因で何が起きたか。感情描写と同様、状況描写も論理的に説明されます。少し考えれば分かることから、独自の世界設定に基づいたことまで様々なことが説明されます。唐突に世界設定の解説が始まるのは『リビルドワールド』の常であり、読み応えは抜群です。

家族関係の排除

 『リビルドワールド』には、家族関係というものが殆ど登場しません。幼馴染みや親友や相棒や恋人は多数登場しているにも拘らず、です。
 姓が判明している人物も数えるほどしかおらず、物語の舞台(防壁内除く)には戸籍制度が存在しないと思われます。婚姻制度も同様、どころか結婚という概念が存在しない可能性すらあります。遺伝に関する記述があるので、生殖の形態は私たちの世界と変わらないと思うのですが。キャラクターが結婚を申し込まれたことがあると言う記述がありました。婚姻が公的な支援に影響するのかは分かりませんが、文化自体は存在するようです。
 これが、前述した論理的な描写に一役買っています。つまり、登場人物の思考に家族愛が関与しないのです。

国の排除

 前項に関連して、国も登場しません。存在はするようですが、物語に関わった事はありません。代わりに建国主義者と呼ばれる人たちが存在し、度々テロを行なっています。
 『リビルドワールド』の舞台は多数のモンスターが彷徨いている為、防壁等を備えた都市が点在しています。そして、統治はそれぞれの都市が行っています。都市長に相当する人物は登場しておらず、恐らく都市の意思決定は幹部の会議で行われています。
 重要なのは、統治が全て利益のために行われているということです。政策の目的は都市が利益を得ること(や幹部が裏金を作ること)であり、そこに無駄に権力を持った王様の気紛れといったものは存在しません。このお陰で、様々な政策に論理的な説明をつけることができるのです。

丁寧な文章

 文章が、Web小説とは思えない程丁寧です。一定以上の難しさの漢字全てにルビがふられています。また、カクヨムには通常版とは別に句点改行版があります。
 誤字も僅かです。文量が非常に多い故に探せばある程度見つかるのですが、小説家になろうの誤字報告機能を用いると大抵数分後〜数日後には小説家になろう版、カクヨム版、カクヨム句点改行版の全てが修正されます。更新自体は数年程止まっていますが、後述の商業化に忙しいのだと思われます。

悪い点

(前述しましたが、あくまでも私個人の感想です)

ギャンブラーの誤謬

 主人公は結構な頻度で不運に見舞われるのですが、その度に自分の運の量に関する話をします。それは主人公の行動原理の一つであり、「運を回復する」といった理由の行動も度々見受けられます。
 しかし、ギャンブラーの誤謬は論理的な誤っているから誤謬と呼ばれているのです(地の文が主人公の思考は誤りだと補足しているので、作者が間違えていたり運の量が実在する世界であったりするわけではないようです)。
 「主人公はギャンブラーの誤謬をある程度信じているので、それに基づいた思考をする」というのは論理的に破綻していませんし、主人公が物語の都合上幾度となく危機的状況に陥ることの不自然さを緩和してもいるのですが、あまりにも頻繁に登場する為見飽きました。

性的表現

 「旧世界の衣服は現世界からすると過激な傾向にある。また旧世界の衣服は遺物(やそれを基にした再現)であり、形状を大きく変えることが困難。そして、現世界の衣服よりも遥かに高性能」という設定がある為、過激な衣服が度々登場します。
 これは戦場で蠱惑的な衣服が用いられる明確な理由になっています。読者や作者の性欲に応える為だけに不自然に露出している作品とは異なりますが、読者や作者の性欲に答える為だけにその設定があることは間違いありません。吐き気がします。

商業化について

 『リビルドワールド』は現時点で書籍版が11巻、漫画版が10巻発売されており、またアニメ化が決定しています。折角なのでそれらへの感想を書きます。尚、諸事情により全冊持っているわけではありません。

書籍版

 概ねWeb版より劣化しています。恐らく字数と執筆時間に制約があり、かつ読者層を拡大する必要がある為でしょう。文章は幼稚になり、論理性が減少し、誤字が増えています。Web版より良い点を強いて挙げるなら、登場人物の絵と武器の絵と一部の場面の絵が載っていることと、戦闘が激しくなっていることでしょうか。尚、文章がWeb版より劣化したとはいえ、そこらの小説よりも遥かに論理性が高いことは確かです。

漫画版

 Web版の論理性が見る影もありません。何が起きているかは描けても、何故起きたのか、どのような偶然が作用したのか、どのような作為が作用したのかは絵では殆ど描けません。セリフも大幅に削減されています。これは漫画という表現形態の特性上仕方がないことですね。良い点は絵が多いことでしょうか。私が漫画というものを殆ど読まないので、漫画としての相対評価はよく分かりません。

アニメ版

 放映時期さえ決まっていませんが、映像が一時停止され解説が詳細かつ論理的に為されるということがなければ、漫画版の更なる劣化になるでしょう。良い点は絵が動くことでしょうか。

まとめ

 私が『リビルドワールド』の魅力に感じている点は、何といってもその高い論理性です。『リビルドワールド』程ではなくとも、描写の論理性を重視した作品が増えることを願います。

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