虎、虎児を得る。著:並兵凡太

10月中旬、いよいよ第2回の批評会です。
先述(詳しくは前回の体験記をご参照ください)の通り、僕の原稿は構成を大きく変え、それに合わせて魅せ方を変えたという感じで臨むことになりました。

2回目の批評会は前回とは異なり、事前に評価シートのようなものを提出してからの議論という形式になりました。複数の項目を事前に評価しておいて、項目ごとにまとめることで話題が前後することや脱線することを防ぎ、円滑に話し合いが進むというわけでした。事実、第1回より自分への評価が見やすく、更に批評会後に見返す時も思い出しやすかったです。現にこの体験記を書く時も参考になってますし。

では並兵の原稿は第2回ではどんな評価を頂いたのか。

「変わり過ぎてびっくりした」

と言われました。うん、僕もそう思います。そしてそれもありまして、第2回の評価は前回とは全く異なるものが多く並んでいました。良いものとしては「締まった」「雰囲気が出た」「回想の入れ方が面白い」というもの。つまり、構成の組み換えが上手くいったというわけです。ここだけの話、どや顔だったことをお伝えいたします。通話だったので誰にも見えていませんが。
逆に、構成を変えた――つまりほとんど別物になったと言っていいくらいだったので、前回にはなかった批評もありました。中でも一番多かったのは「読みづらい」でした。これは主人公の性格やキャラクター性を変えたことで一人称だったので地の文も大きく変わり、それが及ぼした悪影響でした。また、他にも細かいところですが「この性格なら~」というアドバイス、或いはこのアイドルを扱うならこういうものも欲しいという指摘もありました。
全体を受け取った感覚としては「良くなったけど、読みづらくなった」という感じでしょうか。
また、最初の改稿で僕は構成の変更やキャラの変更に合わせて描写を増やした結果、当初主催が「これくらい目安で」といった文量を大幅にオーバーしたので(本当に申し訳ない)ここから削っていく予定だったのですが、全員から「増やした方がいい」と言われたのは意外でした。

第3回は11月中旬。猶予1ヶ月。また僕の改稿が始まります。
今回一番打破すべき敵は「読みづらさ」、これでした。何せ批評会に参加したメンバー半分近くにこれを言われています。中には「個人の好き嫌いかもしれないけど」とのフォローも頂きましたが、しかしそれにしても多いのでここを変えていくべきでしょう。
原因はなんとなくわかっていました。同じような表現が何度も何度も登場することでした。いや、これは別に僕の語彙力がないというわけではないんです。いや語彙力があるとも言い難いんですが、なんというか、手癖のようなものなんでした。西尾維新的な感じ、と言って頂ければ多少は伝わるのかもしれません。廉価版で劣化版ですけど(こういうとこ)

「読みづらい」とは一言にいますが、僕はこれは2つの要素の合わさったものだと、頂いた批評をまとめているうちに気付きました
1つは、文字通りの「読みづらさ」。単純に文章がくどくて読みづらい、ということです。
今回頂いた批評の中には「語彙が適切でない」「日本語的に引っかかる」「文章の癖がすごい」「くどい」「まだるっこしい」みたいな意見もありまして、これがそういうことだと思いました。
もう1つは、「分かりにくさ」。意味が分からないから読みづらい、ってことですね。
先述しましたが主人公のキャラ変更により、地の文はこう、少しドロッとした感じというか酩酊感のある文章になっていたんですがそれのことだと思います。「説明が足りてない」「微塵も感情移入できない」みたいな批評を頂いていたのはこれのことでした。

原因を突き止めたら後は悩みながらも解決していくだけです。

まずは単純な「読みづらさ」の方を解決しました。何度も繰り返すような表現を除き、できるだけストレートな表現に変えます。もちろん、文章的に読みやすくなってしまえば主人公の思考のドロッとした感じとかヤバさみたいなのは減衰するわけですが、この段階ではそれは無視します。面倒な言い回しやくどさを除きました。

次は「分かりにくさ」に取り掛かりました。1個前の工程では減らしましたが今度は増やします。描写や説明を足しました。一番大きく変わったのは、ここでも主人公のキャラ設定です。
僕の今回の作品、主人公はアイドルでもプロデューサーでもない一般人なのですが、それゆえに最初は出来るだけ個性を打ち消そうとしていました。顔なしのモブにしようと。だから批評会でも「主人公の説明が欲しい」みたいなことを言われた時、反論しましたとも。モブやぞ、と。いわばオリジナルキャラやぞ、と。するとこう返ってきました。

「やろうとしてることは濃いのに人物だけ薄いのはどうなの?」

……ぐうの音も出ねぇ
確かに言われてしまえばそうでした。主役級の行動をするのに何モブ顔してんだよってことです。僕は気付かなかったんですが、そこがちぐはぐだったのも分かりづらさを生んでいたのでしょう。分かりづらさというか、違和感と言うか。
なので、僕は本格的に主人公をキャラにすることにしました。最も大きかったのは、主人公の男に「過去」を付け加えたことでした。そいつがアイドルに出会うまでにどんな人生を送ってきたのかを描くことで、それ以降の行動に説得力を持たせました。同時に、過去に影響される形でそれ以降の語りや展開にも変更がありました。

「読みづらさ」の解決以外で大きかった修正は、天空騎士団の登場でしょう。
今まで意味もなく伏せてしましたが、今回僕が扱ったアイドルは天空橋朋花です。……SSR合同のTwitterアカウントも言ってたのでこれはバラしていいはずです。ダメだったら怒られます。(主催加筆:怒らないよ)
頂いたアドバイスの中でも具体的なものの1つがこの指摘でした。

「一般人の主人公なら、天空騎士団が出てくる方が『らしい』んじゃないか」

これは完全に目から鱗でしたね。いや、そりゃそうです。朋花を使うなら騎士団使わないのはもったいないと言われた瞬間に考えました。主人公は騎士団とは違う方向性だったので、その差異とか騎士団側の動きを描くことで、なんというか主人公のキャラは強くなったのに朋花のSSらしくなりました。今でもこれは本当に会心の一手だと思います。

騎士団以外にも細かいところへの指摘やアドバイスがあって、それも付け加えた結果、第3稿は「解像度が増した」という印象になりました。情報量も増えて、密度が濃くなったというか。……いや、密度どころか文量も大幅に増えているんですけどね。純粋な増加です。

そして迎えた3回目の批評会。時期は11月中旬、これがSSR合同最後の批評会でした。
ここでは僕は安泰というか安寧でした。構成変更、文章の見直し、主人公の過去、天空騎士団……諸々の要素が上手く噛み合って、概ね好印象な感じでした。もちろんそれは僕だけではなく、さすが第3稿ともなると各々明確な好転が見られまして、初稿で本作るよりずっとハイレベルなものが出揃ったなという印象でした。
僕に限らずここで出た批評はもう誤字脱字とそう変わらない、言わば日本語的な指摘や細かい言い回し等で、ほとんどの人が最終稿に向けて微調整するのみでした。

最終稿の提出は12月頭。僕としてもこれで解放される――と思っていたのですが。

それは最終稿提出目前のことでした。
以前から「一度個人的に批評したい」みたいなことを言って頂いてた方が二人いらっしゃったので、最終稿を見てもらおうとご連絡しました。
第3稿からの変更点としては時系列の整理や細かい言い回しの修正で、二人に見せた所感としても似たような感じでした。一対一でやり取りをして、細かいところを詰めました。
えぇ、そこまでは平穏無事でした。
ですが、二人ともに話を聞いた直後。

「並兵さん、いま通話参加できますか?」

そんな連絡が届きました。連絡の主はさっきまで話していた二人です。深夜でしたので寝ようかと思ってたんですが急遽マイクを引っ張り出してパソコンへ。
どうやら僕の批評を終えた後、お二人で僕の最終稿について話し合って頂いてたらしかったのですが、加わった僕が聞いたのは唖然とする一言でした。

「並兵さんが書きたいのってこういう感じじゃないんじゃない?」

おっと? 雲行きが怪しくなったのをもしかしたらこの時点で僕は感じていたのかもしれませんが、無下にするつもりは毛頭ないのでお話を聞きます。
聞けばそれは、お二人で話し合っているうちにもっと直すべき点があるのではみたいな話になったとのこと。いやさっきは良いって言うたやん! ……との言葉を胸に仕舞いつつ話題は「そもそも何が書きたかったのか」「主人公をどういう感じにしたかったのか」へ。
内容は作品の核心に触れるので、この体験記では記すことは叶いませんが、議論は3回の批評会に負けず劣らず白熱しました。似たキャラクター性の映画や先行作品にも話は及び、0時過ぎに始まった僕を交えての議論は3時を過ぎることになったのですが。
結論として。

「これ最初から書き直すべきでは?」

みたいなところに着地しました。軽く説明しますと、一番最初のコンセプト通りに書くのであれば、この主人公では違うので主人公を作り変える必要がある。するとまぁ、この作品は一人称だし回想交えてるしで元の要素がないくらいに変わる、と。僕もそれは納得しました。最初のコンセプトから外れたという意味では僕の落ち度でしょうし、初心を思い出させてくれたお二人には感謝しています。
でも、一言だけこの場を借りて言わせてください。全てをひっくるめても、作品が良くなるためとは言え、どうしても言いたかったことが。

今ならもう言わなくてもよかったじゃないですか!
締め切り前日とかですよ! 俺の作品25,000字あるんですよ!?

……失礼、取り乱しました。しかしお二人が言うことももっともで、何もやらずに文句を言うのは僕としても不服だったのでまずは主催に相談締め切りを数日伸ばしてもらうことで僕はその書き直しに臨みました。コンセプトから外れないようにキャラを作り直し、エピソードを考え直し、朋花や天空騎士団との関係も再構築して……

結果はダメでした。えぇ、間に合いませんでした。物理的に無理でした。主人公の別バージョンのキャラを作れたのが遅かったのもあって、このままでは主催を極道にしてしまうと考えて当初の最終稿での提出になりました。
書き直しを提案してくれた方曰く「並兵さんならネットでの連載もしていたし間に合うと思った」らしいのですが、それは買いかぶり過ぎです。期待に応えられなかったとも言うので本当に申し訳ないのですが。
また別バージョンも間に合わなかったものの、面白いものになりそうなのでいつか最後まで書ききれたらいいなと思っていたりもします。お二方、アドバイス本当にありがとうございました。

まぁそういうわけで若干締め切りは伸ばして頂きましたが、僕は最終稿を無事提出となりました。結果的に最初主催が提示してくれた上限ページ数+10くらいになってしまったことは本当に申し訳なく思っています。寛容な主催に足向けて寝られません。どの方角にいるか分からない以上、あの日から直立で寝てます。さすがに冗談です。

さて、以上が並兵凡太のSSR合同体験記となります! 3度に及ぶ連載、いかがだったでしょうか。(主催加筆:好評でしたよ)
総評みたいなものと致しましては、やっぱりこの合同に参加したことで新しい知見やアドバイスの活かし方を覚えられたり、新鮮な観点での批評や技巧も見させて頂いたので純粋に勉強になりました。僕の作品は初稿よりずっと面白くなりましたし、他の方も間違いなくそうだと言えます。半年間書き直し続けたとの売り文句は伊達じゃねぇ。
今回は普段の倍でお送りしましたが、これまでで僕が何をしてきたのか、SSR合同がどういうものなのか少しでも伝わっていれば幸いですし、本を手に取っていただけたらそれ以上に嬉しいことはありません。

という訳で以上、体験記を担当したのは並兵凡太でした! お付き合いいただきありがとうございました!

・並兵凡太(@namiheibonta031)
通称「虎。」
代表作に「16歳って魔法少女として結構ギリギリじゃない?」
小説投稿サイト『カクヨム』でも絶賛連載中。
連載中の小説『流され(元)王子と幼妻ドラゴン』ではキャッチ―でポップな文体が印象的だが、今回は重厚な語りと話運びが特徴的でいずれにしても非常に個性の強い文体を駆使する。
本合同では天空橋朋花と彼女に神性を見出した男という刺激的なテーマを描いた「神の証明」を担当した。

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