正夢
ひよいち
※【クロノスを喰らうもの】、【足だけの幽霊画】のネタバレ有
2週間に1度、悪夢を見る。お前が死ぬ夢だ。
悪い夢は人に話すと正夢でなくなると、迷信でジジババたちが言っていたが、おれはそれを誰に伝えることもないので、もしかしたら近い未来そうなるのかもしれないな、と思っている。二課に配属になって、お前と再会してからずっと。お前と情報交換をするようになってから、もう何百回とお前が死ぬのを夢見てる。
俺たちは小学生の首吊り現場から徒歩30分かけて、次の現場へ向かっていた。別働隊である楠さんと紫ちゃんは別件を終えてから車でこちらに来るそうだ。そのまま拾ってもらってもよかったが最近運動不足らしい一ヶ谷の誘いもあって、30分かけて山道を歩いていた。冬の真昼の冷たい風が頬を刺して、一ヶ谷がくしゃみをひとつする。今日もアホみたいな柄のシャツを着て、頭の悪そうなサングラスをかけてはいるものの、寒さのせいもあっていつもより顔色が悪く見える。
「悪かったね、殺人現場につれて来ちゃって」
背の低い木の幹にぶら下がっていた"縄”を見た瞬間、一ヶ谷の顔色がさっと青くなるを、俺は良く見ていた。
「いやあ、流石にね。人が死ぬのはね……」
「うん、だからごめん」
「なんでヨリが謝るのさ〜」
ヨリくんは殺してないでしょ、と当たり前のことを言う。そう、別に俺が殺したわけじゃない。お前が死んだわけでもない。
あの時、殺人現場は慣れないか、と尋ねてしまったことを後悔していた。そりゃあ慣れるわけないかと、改めて自分の立場を弁える。こいつは裏社会の人間と精通しているとはいえ、どちらかといえばアンチ反社会的勢力の立場だし、普通の暴力団員と違って(もはや普通ってよくわかんないけど)死体現場に足を運ぶことなんてない。イチが知っているのはその情報だけ。
一ヶ谷の過去がどんなものだったのか、なんでこんな道に入ったのか、とかは聞いたことないからわかんないけど。まあどんな職業でもさ、人が死ぬことに慣れてはいけないと思うよ。
「人って、簡単に死ぬもんなんだよな」
「あ〜、あのホモの人もね、死んじゃったしね」
以前巻き込まれた絵画の事件の時も人が死んでしまった。ホモだホモだと囃し立ててしまったけれど、片方が死んでしまうとそれこそ笑えない話だなあ、と思う。笑える話にしたいじゃん、笑って暮らしたいからさ。だから何もかも降り注ぐものは追い払わないといけないだろう。
「まあ、いざとなったらこれで……」
と、いつも懐に入れていた拳銃を、今日はたまたま忘れてきてしまったらしい。胸の当たりがスカスカしていてなんだか落ち着かない。
「あ、今日忘れてきちゃった」
「ばっかだな〜ちゃんと用意して……あっボクも忘れてきちゃった」
何かあったときどうしようか。なんて思ってもないことを一ヶ谷が口にするものだから、俺は可笑しくて笑ってしまった
「そのデカイ図体だったらどうにかなるでしょ」
「まあね。いざとなったらこの拳でね」
シュシュッとシャドーボクシングの構えをしていると、赤い車が見える。どうやら待たせていたようだ。俺たちは早足で探偵と記者の元に駆け寄る。
昨日は見なかった。今日は見るだろう。
いい加減、正夢にでもなってくれよ。そうしたらこの手で救えるから。
180131
せさみ
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