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スクデットは正夢でした

 最近、職場の同僚とドライブをしていたときに流したスピッツのメドレーに端を発し、『正夢』という曲をヘビーローテーションしている。叶うはずもない願いが、いつか、どうか、正夢として叶えばと強く願うがしかし、そんな正夢を願い続ける自分を「ずっとまともじゃないって分かってる」と表現する、青春時代を強く思い起こさせる楽曲だ。

 では、ナポリを応援する者たちが今に至るまでスクデットを願い続けてきたことは、現実性という観点から「まとも」だったのだろうか?と自問してみよう。すると答えは、恐らく「まともじゃない」。過去、あのディエゴ・マラドーナが君臨した時代にしかそれを獲得したことがないというクラブの歴史に加え、近年では必死に91ポイントを稼いだ2018‐19シーズンでさえも、ユヴェントスに屈して2位に甘んじた。現実的には、クラブの知名度や経済的な観点から見ても、今のところのナポリは決してイタリアの第二勢力の域から出ることはない、相対的にはローカルなクラブ。実際、2001‐02シーズン以降、昨季までの優勝チームは全て北の3強(インテル、ミラン、ユヴェントス)で占められており、前述の18‐19シーズンがそうだったように、見せつけられるのは歴然たる格の差。スクデットは夢でこそあっても現実的な目標としては捉えにくく、スピッツの歌で言うところの文字どおり「正夢」を願うようなものだったわけだ。

 ところがどっこい、2023年5月4日、敵地フリウリのダチェ・アレナで迎えたウディネーゼ戦を1-1のドローで終えた瞬間、ナポリはマラドーナの時代以来となる33年ぶりのスクデットを獲得した。まともな願いじゃないと知っていながらも、いつの日か実現するよう願ってきたことが、まさしく「正夢」として現実に起きた瞬間である。日本時間ではまだ明け方なのに、興奮した頭と熱い身体。画面上には、ピッチ上に雪崩れ込む大勢の観客と大喜びする選手達。SNS上で、古今東西の世界中のナポリファンが大盛り上がりする様子やロッカールームではしゃぐ選手たちに微笑みながら、世界一幸せな二度寝に入ったと記憶している。

ナポリ公式より

 このスクデットに至るまで、多くの選手たちが挑み、また同時に夢破れてきた。パオロ・カンナヴァーロ、エディンソン・カバーニ、マレク・ハムシク、ロレンツォ・インシーニェ、ドリース・メルテンス、カリドゥ・クリバリ…。彼らに代表される数多くの選手たちがナポリのために奮闘してきた。33年ぶりのスクデットは、アウレリオ・デ・ラウレンティス会長が言うところ「彼らのものでもある」。ナポリファンもその言葉には大きく頷く他ないはず。会長、歴代指揮官・選手達のコツコツとした積み重ねが、まさに夢を引き寄せたのだ。

 さて、「正夢」を成就させ、群雄割拠のセリエAの舞台においては、来シーズンから追われる立場となるナポリ。指揮官ルチアーノ・スパレッティらがナポリのベンチから去ることが確定的となっているなど、早くも前途多難な様子が見受けられる。

 スピッツの『正夢』の詩の最後には、「もう一度、キラキラの方へ登っていく」。このようにも書かれている。来季は、一度成就させた夢に向かって、もう一度、新体制でリスタートするシーズンでもある。

 これまでがそうだったように、ナポリは決して歩みを止めることはないのだろう。そして、まともじゃないと分かっているかもしれないが、連覇。これをまた願うばかりだ。

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