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IE手法



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1. インダストリアルエンジニアリング(Industrial Engineering)とは

1.1インダストリアルエンジニアリングの定義

インダストリアルエンジニアリングとは、「人・材料・設備・情報を総合したシステムの設計、改善、確立に関する活動であり、そのシステムから得られる結果を明示し、予測し、評価するために、工学的な分析、設計の原理、方法、手法とともに、数学(統計学)、物理学、社会科学、人間工学などの専門知識と経験をよりどころに行うものである。」と定義できます。

インダストリアルエンジニアリングは、日本語では生産工学や、経営工学など色々なタームに訳されていますが、少しずつニュアンスが異なるので、現在では、英語で”IE”と示されることが多くなっています。本コンテンツでも、IEと略称し、IE手法と名付けて解説を進めます。

IEの主要な目的は、生産管理の最適化です。ものづくりにおける3ム(ムリ・ムラ・ムダ)を発見して、それらを排除する取組みをして、工程の最適化を行います。これにより企業としては、生産性向上や収益向上が期待できます。

しかしそれだけではなく、IE手法を取り入れた工場の最適化活動は、その活動に携わる技術者の質を向上させます。経験や、勘、コツに頼った活動では無く、科学的なアプローチで、より幅広い事象に対して、的確な解を得ることができます。さらに、このIE手法による最適化の活動は、常に現状を調査し、分析し、最適化を追究するカイゼン活動につながっていきます。

IE手法を習得し、高いカイゼン意識を持った技術者を数多く養成することで、全社的に前向きに変化を求めるマインドを根付かせることができます。

1.2 IEを導入すると会社が強くなる

IE手法を活用して、業務活動が最適化されると、会社が強くなるといわれます。その理由は以下の3点にあるといわれています。

① 従業員が⽇々の業務を⾃らの意思で改善しようとする。
IEは技術者だけのものではありません。経営陣を先頭に、従業員にも、IEマインドを広く浸透させ、共通認識をもって改善活動を継続することが⼤切です。
一人ひとりが、「会社を⾃らの⼿で改善する」という強い思いを持って、従業員⾃らが問題点を探し出して、改善するために⾃分の能⼒を発揮するようになります。「会社や上司から⾔われたことだけを実⾏する」のではなく、一⼈ひとりの能⼒を会社のために活⽤していかなければ、競争に勝ち残れません。
どの様にすれば改善されるのか、働きやすい環境にするにはどうしたら良いのか、⼈間のもつ「考える」という能⼒を最⼤限に⽣かし、従業員がひとつの集団となって課題解決に取組むことで、企業はさらにポジティブに成⻑するはずです。

② 問題認識と課題解決に対する意識が⾼まる。
IEを活用して得られた結果を基に、業務の最適化を図りますが、その際一部のマネジメント層だけが推進するのではなく、問題認識や課題解決に対応するチームを作り従業員と共に改善していくことが大切です。
組織的に取り組むことで様々なアイディアや考えが生まれ、それと同時に会社全体の改善や解決に対する意識も高まります。チーム一丸となって課題解決に取り組む姿勢がより会社を強くします。

③ 組織をまとめるリーダーが多く育つ。
課題解決に取り組むチームには、優秀なリーダーが必要です。リーダーを育成するのは、企業にとって重要な課題です。誰もがすぐ優秀なリーダーになれるわけではありません。
⾃社の課題をどう解決するか、組織のメンバーを改善計画に従わせるにはどうしたら良いのか、様々な課題やミッションを抱える中でリーダーになる⼈は常に考え、思考を巡らせます。そのような環境の中で、優れた⼈材は育ちます。その結果、組織が良くなれば、会社全体も良くなるという構図が出来上がります。リーダーがしっかりメンバーを率いている会社は強くなります。
IEは、歴史的に見れば製造現場を中⼼とした改善からはじまりましたが、ものづくりのムダを省き、最適化を⽬指す中で、経営管理や⼈材育成にも⼤きな影響を与えるようになりました。すべてのバランスが上⼿く取れた時に、会社は強く⼤きく成⻑していきます。

1.3 IEの歴史

今日ものづくりのいろいろな場面で適用されるIE手法の誕生と発展の歴史は、産業の発展に伴い発生する諸問題を解決するための、生産技術の革新・改善の歴史そのものです。

ものづくりの歴史を概観すると、工場制手工業の時代から工場制機械工業への転換が、ジェームス・ワットによる蒸気機関の改良(1765年)により、行われました。これは効率的な蒸気動力の供給により、機械化による生産が可能になった(第一次)産業革命です。18世紀イギリスで始まりました。

IEという、人が行う作業に注目した取組みは、イギリスのバベッジ(Charles Babbage:1791 - 1871)に始まるといわれています。バベッジは世界で初めてプログラム可能な計算機を考案しました。バベッジは1800年初頭にイギリスやアメリカの工場を訪問し、多くの工場運営に関わる詳細を体系的に記録し始めました。その成果として、著書著書『機械化と⼯業化がもたらす経済効果(On the Economy of Machinery and Manufactures)、1835年4 ed.』 で、こんにち「バベッジの原理」と呼ばれる、作業を分割することによる効果を示しています。すなわち、「熟練した高賃⾦の労働者は、常にそのスキルを最⼤限に発揮しているわけではない。従って、その仕事を分割して複数の労働者を雇い、スキルを要する仕事には熟練労働者に割り当て、その他の⽐較的簡単な仕事については、熟練度の低い労働者に割り当てることにより、全体として労働コストの削減につながる。」というものです。このバベッジの原理は、テイラーの科学的管理法の前提になっています。

続いて、19世紀後半には、テイラー(Frederick W. Taylor)による時間研究、続いてギルブレス(Frank B. Gilbreth)による動作研究が、本格的なIEの始まりになりました。テイラーとギルブレスとは、ほぼ同時期にIEの重要な要素である、時間分析、動作分析をそれぞれ行い、やがてそれらは融合されることになりました。

テイラー、ギルブレスそれぞれの後継者は、IEをより発展させていきましたが、ここでは例としてガント(Henry Laurence Gantt)を挙げておきます。ガントは、古典的なプロジェクト進捗の管理ツールで有名な、ガントチャートを考案しました。ガントは1887年から1893年までテイラーのチームに所属した後、経営コンサルタントとして、ガントチャートや工場における合理的な賃金体系、労働者の生産性測定法などの開発しました。

IEの手法としていろいろなツールが生まれましたが、それらの適用ということで、20世紀から現在まで、人々の暮らしに大きな影響を与えている、自動車産業でのIEの適用について概観します。

自動車は1769年にフランスのニコラ・ジョセフ・キュニョーが蒸気で走る自動車が最初です。その後ガソリン自動車に先立って電気自動車が1873年に実用化されました。

ガソリン自動車は、1886年にドイツ人のゴットリープ・ダイムラー、カール・ベンツがそれぞれ独立に完成させました。

本格的な量産は、1908年に登場したT型フォードです。アメリカ人のヘンリー・フォードは1903年にフォード・モーターを設立しました。1913年には史上初のコンベアラインが完成して、1日1000台生産可能になりました。いわゆるフォードシステムといわれる生産方式です。

次にT型フォードの画一化した自動車生産への対抗として、多種多様な自動車の提供を部品の共通化によるコスト上昇を抑えながら、業績を大幅に改善させて、フォード・モーターを抜き去り、世界一の自動車会社にしたのが、GM社のスローン(Alfred R. Skoan)です。

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