見出し画像

「ばんえい競馬は虐待だ!」「廃止しろ!」こういう主張に対するQ&A

はじめに


数年前からこういう事を主張する人達がいたのだが、5月に入り三重の祭りとばんえい競馬をさも同じ虐待行為だと騒ぎ出し、それに同調し支持をする動きも出てきた。

個人的には異なる2つを無理やり繋ぎ合わせて主張するのには無理が有ると思っているが、同調している方には明らかに間違った知識が入っている方も。

なので今回は「虐待だ!」「廃止しろ!」と唱えている方々が普段主張する事をQ&A形式で述べたい。

因みに、あくまで帯広市で開催されている公営競技『ばんえい競馬』のみで考えており北海道や東北地方で行われている大会、いわゆる『草ばんば』についての記載はしない事を先に断っておく。
それを混同すると「プロ野球と草野球を同じに考える」事と同じになる為。

ではQ&Aを

Q「馬を鞭で叩いて酷い・・・」


A「鞭は『使わない』『使っていない』」

ばんえい競馬は「帯広市ばんえい競馬実施条例施行規則」という規則の元で実施されているが、レース中(競走中)鞭の使用は明確に『禁止』されている。

使用しているのは、芯の入っていない革製の『長い手綱』
しかも「手綱の端でのべん打」も禁止されている。

なので上記の主張をする人は、ばんえい競馬を見ていないか「可哀想」という目で画像で1度だけ見て言っているかが殆ど。

Q「手綱であろうが叩いている事には変わりない。馬が可哀想」


A「本当に痛がると馬は『止まる』」
 「人と馬の大きさと体重差を考えてみよう」

確かに近くで見ると手綱で叩く音の大きさにビックリすると思う。
ばんえい競馬の場合、騎手は手綱だけではなく声や音でも馬を制御する。
その為にレース時、耳を塞ぐ「メンコ」は使用しない。
(年に1〜2頭、顔に「メンコ」みたいな物を着用するが、
  それは斜眼革(ブリンカー)である)

手綱で競走馬の尻を「べん打」するのだが、痛覚よりも尻を叩いた感覚と音で馬を追っていると思った方が正解。
馬も当然臀部に感覚があるので、叩かれている認識はあると思うが
それが痛覚かどうかは別。

仮にそれが痛覚だった場合、馬は反抗する。
反抗というのは騎手や人間の指示を聞かなくなったり反応が鈍くなったりする事を言うのだが、レース中だと「止まる」「尻っぱね(後脚で蹴る)」。レース中や直前に「(左右に)逸走・暴走する」これらがある。

特にばんえい競馬で使用されている馬は『重種馬』で、2歳時で馬体重800kg〜。古馬になると1000kg〜1200kgにもなる。
その馬が反抗して止まるだけならともかく、逸走や暴走してしまうと手が付けられない。
近年、レース中に疲弊していないのに馬がいきなり止まったり、レース直前に馬が暴走して周囲を走り回り、発走が遅延したりする事例も発生した。

因みにレース中の「尻っぱね」はソリ前面に『防御柵』が付けられたので今は無い・・・と思ったら最近新馬戦で発生した。
(騎手は救急車で運ばれ大事には至らなかったが、当日・翌日と騎乗変更に)
但しこういう事は非常に稀なケースであり、騎手が蹴られた事例を遡っても今回を含め20年間で2〜3例しかない。
多くはその場で止まる。

そういう事を考えると、手綱で叩く事で馬が痛がるという主張は当てはまらない。

また馬と騎手の体重差を考えてみる。
軽い古馬でも1000kg(1t)あるが騎手は規則で服を来た状態で77kg。
なので服を脱ぐと最大でも75kg。

両方とも同じ人間のサイズに変換して比較した場合

「馬」は体重200kg前後のプロレスラーか力士
「騎手」は4〜5歳の幼児(約15.4kg)

これぐらいの差となる。
それらで例えると、4〜5歳の幼児が公民館等にある塩ビ製のスリッパを持ち、プロレスラーか力士の尻をスリッパで思いっきり引っ叩く。
塩ビ製のスリッパは芯は入っていないが、叩くと非常に良い音がする。

この光景を見て、幼児に
「虐待だ!」
「止めて! プロレスラーや力士が可哀想!!」
と主張しますか?

それ以上に
「まあ かわいい♡」
「微笑ましい光景だ」
こういう声の方が多いと思う。

そして叩かれた等の本人(プロレスラーや力士)は
本気で痛いと思いますか?

重種馬と人間の体格や体重差はこれほどまでに違う上に、筋肉量はもっと違う。

これらを考えると「馬が可哀想」という主張は当てはまらないと思う。

Q「余りにも過酷な為にレース中に馬が死ぬ事もある」


A「過去4年間、レース中に亡くなった馬は1頭もありません」
(2023年4月現在)

帯広ばんえい競馬は4月から3月迄で毎年150日前後の開催を実施している。
開催中、低い確率だが
・第二障害で転倒
・疲弊してゴール前やゴール後にへたり込む
こういう馬を見かける。
ただ、この馬達
馬具(馬につけている道具)を外し、暫くすると立ち上がった後に元気に厩舎へ戻り、2週間〜1ヶ月後には再び出走している事が殆ど。

帯広単独開催となった2007年以降、レース中に脚を骨折→安楽死処分になった馬は1頭もいない。

レース中の物故率で言うと、日本の競馬場で一番低い。
つまりは日本で一番

安心して見てられる競馬

こういう事が言える。
その為にレース中に馬が亡くなった場合は逆に珍しく、それだけで大きなニュースとなる。

なのでこの主張を唱える方々は非常に古い情報を持ち出しているか、明らかに虚偽の情報を吹聴している事となる。

※追記
2024年6月1日(土)レース中に「心不全」で1頭亡くなりました。
5年ぶりの物故事故となります。

Q「重いソリを引っ張らされて、馬が辛そう」
 「1000kgのソリを毎回引っ張らされて・・・」


A「重種馬の力を知って下さい」
 「普段は古馬で600kg〜800kg。1000kgのレースは年に一度だけです」

最初に馬の種類から説明。

ばんえい競馬で使う馬は「重種馬」
サラブレッドは「軽種馬」
馬の種類が違う。
また、どさんこと言われているのは「北海道和種」
実はサラブレッドより小柄。

ばんえい競馬で使う馬が『どさんこ』だと思っている人が未だに多いが全く違う。

そして、ばんえい競馬で使用する馬は「ブルトン」「ペルシュロン」「ペルジャン」という重種の3種掛け合わせが殆ど。
これは『より強く』『より早く』『より大きく』する為に先人達が交配を重ねてきた賜物。
その為に早くは走れないが、ソリや馬車に重い荷物を積んで牽引するのに適した馬達である。

その力は非常に強く、デビューして1年ぐらいした3歳牝馬がレース中に騎手が馬を休ませようと手綱を引っ張っているのを無視して歩き続けるぐらい。因みにその時は672kg(ソリ595kg+騎手77kg)を引っ張っていた。
その後、騎手は全体重を乗せて手綱を引っ張ったが、それでも馬は止まらずに前に前進。若馬の牝馬でもそれぐらい力が有る。
(そのレースはこの牝馬が逃げ切って(?)1着)

なので、その気になれば騎手の筋力なんて及ばない。

また馬達は殆ど毎日調教で重いソリを引っ張っている。
重量は様々だが、中には競走よりも重い斤量を調教で引っ張って稽古する馬もいる。
本場所開催中や試合当日でも練習する力士やプロレスラーと同じ様に、レース当日でも調教するのがばんえい競馬の特徴。
それぐらいばんえい競馬で使用する重種馬『日本輓系種』は力が非常にあるという事。

ばんえい競馬のレースは馬の性別・クラス・時期・レース種別(一般・特別・準重賞・重賞)に応じてソリの重さ(斤量)に規定が有る。

・最も軽いのは「2歳新馬」牡馬だと490kg
・5歳以上(古馬)の一般戦で一番軽いのは牡馬で600kg
・古馬の一番上のクラス(オープン)一般戦で一番重くても牡馬で740kg
  (但し、時期は年度末)

一般戦だと740kg以上の斤量は引かない。

ここに牝馬だと20kg減、3,4歳の若馬や新人・女性騎手等で減量が発生する。
※但し、騎手の減量はソリの斤量のみで騎手自体は男女新人関係なく全員77kg。しかもソリの斤量には含まれない。
(一般戦だと740kg+77kg=817kg以上の重さは引かない)

これが重賞になると斤量が増して行くのだが、ソリの斤量1000kgを引っ張るレースは年度末に行われる1度のみ。
毎週引っ張る事は決して無い。

なので、この主張をする方はレースを見ていない可能性が高いか虚偽の主張をしている。

Q「騎手が馬の鼻を蹴って書類送検されただろ!?」


A「その後どうなったか知って下さい」

問題の事例は2021年4月に行われた、競走馬になる為の試験
「第1回能力検査」にて行われた事。
この件で映像に映った騎手と厩舎関係者3名が書類送検。
その事を主張しているのだが、その後どうなったのかは知らないか
知っていても閉口していると思う。

この件は2021年12月に全員『不起訴処分』となっている。
処分理由は公表されていない上に法律関係は詳しくないので
余り述べたくないが、不起訴処分つまり罰金刑にすらならなかったと言う事実は知っておくべき。

あと、この件で多くの人が馬について勘違いしている事がある

『馬は口で呼吸が出来ない』

多くの人は馬は人や犬と同じく口で呼吸が出来る物だと勘違いしている。
実際は馬は鼻でしか呼吸が出来ない。それを認識した上であの映像を見ると少し見方が変わってくる。

鼻を地面に接地した状態が続けば当然窒息する。そうなると馬は当然頭を左右に振って呼吸を確保しようとする。その時に人が迂闊に近づくと鼻先が体に当たり最悪骨折や内蔵損傷という重篤な怪我に繋がりかねない。
かと行って、あの状況が続けば窒息する上に無理やり呼吸をしようとすると砂が鼻から気道・肺と侵入し[気管支炎・肺炎]を発症した場合、馬の命に関わる。

そういう考えを持つと、あの状況で最善の方法としてあれがベターじゃなかったかと。緊急的に馬の頭を上げさせ呼吸の確保を優先させた結果だと自分は思っている。

逆にあの時、何もしなかったら罪に問われている可能性が高かったと自分は思っている。

Q「馬達を自然にノンビリ暮らせるような施設を作れば良いだろう。そうすればばんえい競馬を今すぐにでも廃止出来る」


A「そんな夢物語はありませんし出来ません」
 「アラブ(アングロアラブ)の歴史を学んで下さい」

これもよく主張する方がいる。
まずこの主張は夢物語であり、現実的には無理。
日本において、馬は犬や猫と違う所は『家畜』でありペットではない。
しかも大型馬だけに食費も犬や猫の数倍掛かる。
予防接種や削蹄、病院等の維持費も当然必要。
それが数百頭とものなると、馬だけで年間数億〜数十億ものお金が必要。

そのお金を誰が捻出する?

またその馬達を管理するのに人が必要。
そうなると更にお金が必要となる。

なのでこの主張は夢物語であり現実的ではない。

では、現実はどうなるか?

過去に、こういう事例が有る。
日本の競馬でサラブレッドに加えアラブ(アングロアラブ)のレースが実施されていた。アラブ種は軽種馬の1種でサラブレッドより従順でタフ。調教もしやすいと言うのが特徴。
但し、サラブレッドより『遅い』『安価』

そういう事もあり、中央競馬が1995年にアラブ系のレースを終了。
そうなると生産も少なくなり、1990年代毎年2500頭近く生産があったアングロアラブが僅か5年で753頭に。更に5年で生産馬が2桁。今は年間で3頭しか生産されていない。

もしそういう施設を作り、アングロアラブが暮らしているならば今でも年間数百頭のペースで生産が行われていたと思う。

しかし現実はどうだ?

1995年から10年間で生産頭数は激減。
その間、繁殖牝馬や種牡馬が数多く処分されたと言う事。
この事実を知った方がいい。

そして日本の重種馬にも同じ道を歩ませようと考えているのなら
自分は反対する。

もう一つ言うと競馬場が廃止になった場合、多くの馬が短い期間で処分される。その場合の肉は「人食用」ではなく「動物用」となる。
日本の場合、牛と同じで馬も人食用として処分する時は『肥育』という作業を行う。それをせずに処分した場合の行く先はペットフードが動物園のエサという動物用となる。
これは過去に地方競馬が廃止になった際、多くの馬が同じ運命を辿った。

以上、Q&A終了

最後に

ばんえい競馬を廃止しろと主張する人達は
「現役競走馬だけではなくその種牡馬や繁殖牝馬数千頭にもなる馬の命を奪ってしまえ!」と主張している様に見える。

どちらが本当の虐待なのか?

今一度考えて欲しいと思う。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?