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『あつ森』HHPL EX vol.02 自分という生き方にこだわりを縫い付ける

 当記事は、集森出版HappyHomeParadiseLetterハピレタ編集部の編集長である春山が、自身の作成した別荘を取材という形で紹介していく記事になっております。

 本記事は本誌13号に関連した内容になっていますので、詳細はTwitterの@hal3486の投稿をご確認ください。
https://twitter.com/i/events/1477232985653092358?s=21

 前回までの登場キャラクター説明

春山:集森出版HHPL編集部の編集長。といっても実際のところ新米編集はると春山の2人体制で活動しているので役職に大きな意味はない。EX vol.01では愛猫の失踪という小さな事件を調査してもらうために、サルモンティ氏の探偵事務所を訪問した。猫の首輪としてつけていた雨の雫の宝石が事件の発端のようで、彼自身もこの事件を出版・公表する立場として調査にあたることになってしまった。

サルモンティ:春山が相談に訪れた探偵事務所の主。受付嬢も部下もいないが、相棒の忠犬ワンモンティと日々悩める人のために多くの事件を解決に導いている。本事件には彼の生涯を通して追っている一味が関わっているようで、やや調査に前のめりにならないか心配なところがある。

ワンモンティ:春山を嫌う犬。サルモンティ氏とは逆犬猿の仲で深い信頼関係にある。

 情報屋と雑誌屋の取引

 サルモンティ氏の探偵事務所の鍵は植木の中に入っていた。小一時間かかったがこれで私も探偵見習いということでいいだろうか。ひとまずソファに腰を下ろして提供された珈琲に口をつけると、壁にかけられた電話が鳴り始める。しばらく無視をしていたが、一向に鳴り止むことがない。どうしても私に珈琲を飲ませたくないようだ。

 探偵見習いとして仕方なく受話器を耳に当てる。これが最初で最後の受付業務だ。電話口の男は情報屋のチーフと名乗り「この前依頼された情報はその金額では売らないことにした」とだけ伝えてきた。電話を切りそうな雰囲気がしたので、私は雑誌屋の春山だから、それはサルモンティ氏本人に伝えるようにお願いをした。

 一瞬の沈黙の後、「猫を探す手がかりだが、あんた自身が立て替えてくれ」と無理な要求を投げかけてきた。財布の中で肩身を寄り添う小銭達が寂しく鳴いている。その音が聞こえたのか「雑誌屋なら記事で払うべきだろう」と、どうやら金目当ての脅迫ではないらしい。彼のこだわりのガレージを記事にしてほしいという雑誌屋としては目を瞑っても出来る仕事なのだが、少し困惑したふりをした後に溜めに溜めた「やりましょう」の一言は、チーフ氏のご機嫌を上向きにするのには十分なようだった。

 本棚にあった交渉術の30ページ目がここで効いてくるとは、やはり探偵業も捨てがたい。

 今後の身の振り方についても考えておきたかったが、まずは愛猫のために、彼のガレージへと向かうとしよう。

探偵サルモンティ氏とその帰りを待つ椅子

 探偵と見習い達の共闘

 道中でサルモンティ氏に事の顛末を報告した。どうやらサルモンティ氏は、以前から追っている一味が今回の事件の発端である雨の雫の宝石[仮称:Rainamond(レイナモンド)]を狙っているという情報を持っていたらしい。レイナモンドに関しては、それが生まれる土地は365日雨が降り続けるだとか都市伝説レベルの情報しかないようで、今回は情報屋に頼ることを考えていたとのこと。結果として、金額面で情報屋は諦めていたようなので、私の報告は彼を喜ばせることになった。

 サルモンティ氏は情報屋の件が終われば私の方での調査はやめていいと気を遣ってくれたが、彼が手一杯な様子は明らかだった。私の持ち込んだ事件であることに負い目を感じているわけではないが、せめてもの配慮として、新米編集を雨が降り続く土地の取材に送り出すことにした。電話の向こうで湿気がどうとか何やらぼやいていたが、仕事はそういうものである。

 さて、そろそろ彼のガレージに着く頃か。「また電話をします」と言うサルモンティ氏に、最後に鍵の隠し場所を変えるように伝えると彼の苦笑いが聞こえてきた。きっと愛嬌たっぷりのはにかみ顔をしているのだろう。早くまた彼の顔を見られるといいのだが。

チーフ氏のこだわりのガレージ

 運び屋としての一面

 ガレージの庭に着くと不機嫌そうに椅子に腰かけたチーフ氏の横顔がランプに照らされていた。電話の最後は好印象だったが、なぜだが私の評価は落ちているらしい。「遅い」とだけ言った彼に、「(私は)偉い」と言い返しそうになるのをグッと堪えた。山を何個越えて来たと思ってるのか、その日中に着く努力をした私の頑張りを誉めるべきだと思ったが、大人の大きな器で受けとめることにした。

ちょっとした休憩所としてのシンプルなスペース

 チーフ氏は情報屋としての裏の一面とは別に、タクシー業務として(彼は格好良く言っていたが)運び屋をしているとのことだった。タクシー業務の中で知り得た情報や、行った先の土地で集めた情報を売っている事がグレーなような気もしたが、情報屋がメインであるのなら運び屋も悪くない仕事なのだろう。

 丁寧に整備された彼のタクシーとその整備場を興味深そうに見ていると、私の脳がパンクするような知識をたくさん詰め込んでくれた。どうやら私が遅れたことを怒っていたというよりは、早く取材に来てもらいたい期待感が強すぎたこともあったようだ。すました横顔に可愛い一面を見て、私の肩の力も抜けていくのを感じた。

運び屋としての愛車と整備場

 趣味人としての一面

 室内に案内されて最初に抱いた印象は、大変失礼だが物が多すぎるということだ。中央に置かれた車とバイクは外のタクシーとは違って、彼が今まさに改造をしている真っ最中という感じであった。

 目を瞑って出来る取材ではないのは明らかだったが、すると決めたからにはこの雑多な世界を丸裸にするのが雑誌屋としての私の職務であり、重要な情報のための責務である。深呼吸を1つして、やるしかないと自分に言い聞かせた。

チーフ氏のこだわりのガレージ全体図

 愛車にかける想い

 チーフ氏が提供してくれる車やバイクについての知識は置いておいて、室内はそれを中心として左右と奥に大きくスペースが分けられていた。大きなファンが4つ回る中央でスポットライトのように照らされた愛車は、これから上質なドレスを着飾ろうとする令嬢を前にしているようにも思えた。

中央で照らされる2台の愛車

 趣味の仲間にむけた想い

 愛車に対して右側のスペースには彼の遊び心が感じられる家具が多く置かれていた。情報屋としての孤独さとスリリングさがある一方で、趣味が合う友人と過ごす時間を大切にしているのが伺える。壁に貼られたステッカーや殴り書きの一つ一つに友人との大切な思い出があるようだ。

趣味の仲間と酒を飲みながら談笑するスペース

 壁にかけられたクロスバイクは自転車仲間の愛車のようで、春先から夏にかけて雪が解けた頃に、みんなで山林を走るのが好きとのことだった。自転車にもスポットライトを当てるところに、彼の仲間想いな一面が垣間見えた。

ダーツやピンボールゲーム、豊富なクロスバイク

 自身のこだわりに対する想い

 愛車に対して左側のスペースには彼の愛車にむけたこだわりを追求するための家具や工具が多く置かれていた。使い古された工具のそれぞれがどんな役割をするかは私には検討もつかなかったが、テーブルの下に散らばったたくさんの設計書がチーフ氏のこだわりの深さを物語っていた。

たくさんの工具に囲まれた設計書

 意外と言っては失礼かもしれないが、チーフ氏はプラモデルも嗜むようであった。もちろん車のプラモデルであったが「好きなものはどんな形でも作ってそばに置いておきたい」とのことらしい。

 ちなみに彼女はいないとのことだが、部屋を見回して、なるほどと思った自分に反省をして、ここで候補者を募らせてもらう事も提案させてもらった。彼は恥ずかしそうにそっぽを向くと別の説明を始めてしまったので募集は延期ということなのだろう。

やはり車のプラモデルが好きなのだろうか

 奥の壁にはスケートボードが飾られており、これまた別の趣味の仲間がいるようだ。多趣味でなおかつ友人が多いのは羨ましい。

 天井には世界情勢を映し出すモニターが配置されており、チーフ氏が提供した情報でカブ価が乱高下するのはよくあるとのこと。

 奇しく光る骸骨は「警報的なもの」としか語らなかったが、やはり情報屋として命を狙われることも少なくないのかもしれない。

世界情勢を見守るモニターと奇しく光る骸骨
奥はあまり見せたがらなかったが、こっそりと写真に残しておく

 情報屋としての一面

 ひととおり取材をしたことでだいぶチーフ氏とも打ち解けたような気がした。すると私から聞くでもなく、彼は知っている情報を話してくれた。

 彼は大きく分けて2つの情報を提供してくれた。

 まず1つ目に愛猫を誘拐した者に関してだが、やはりサルモンティ氏が追っていた一味であるハムスターマフィアのドンチャン氏の組織が絡んでいるようだった。レイナモンドはそれ自体も宝石として価値が高いようだが、それが指し示す場所にどうやらさらなる財宝があるという伝説があるらしく、それを狙っているという話をタクシーに乗せた警察関係者がしていたようだ。とんでもないものを愛猫の首輪にしてしまった。

 2つ目にレイナモンドの生まれる場所に関してだが、365日雨が降り続ける土地であることに間違いはないのだが、どうやらそれだけでなくヒカリゴケと関連があるようだと彼は語った。雨に濡れたヒカリゴケが根を張る、その深い深い巨大な地下遺跡に手がかりがあるという話をこれまたタクシーに乗せた考古学者がしていたようだ。

眼光鋭いチーフ氏、数々の修羅場をくぐり抜けて来たのだろう

 追う立場から追われる立場に

 さらに質問をしようとしたところで骸骨の目光が血のように真っ赤なものに変わる。チーフ氏は怪訝そうな顔をして「早く来い」とだけいうと重要そうな書類や工具をバッグに詰めて、外のタクシーのエンジンを入れた。

 唖然として動けない私に「俺の情報を狙って誰かが山に入ってきた、逃げられなくなるぞ」と彼は説明し、後ろの扉を開けてくれた。状況はかなり緊迫しているようで、原住民を取材して槍と弓が降って来た時のような手に汗を握るのを感じた。

 走り出す車の後部座席で、私の命の心配をしてくれた優しさに感謝を伝えると「まだ取材の途中だからな」と彼は意地悪く笑った。こんな状況ではあるが、その横顔がどこか頼もしげに見えた。

                   文責: ハピレタ編集部 編集長 春山

本記事の著作権は集森出版にあります

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