「睡眠科」って必要なのかな?と考えてみたこと

※    この記事の内容は、私の個人的な考えをまとめたものです。所属する機関や団体の見解と一致するとは限りません。

この記事を書いた人:

・日本睡眠学会総合睡眠専門医です
・10年近く、年250日くらい、睡眠障害全般の診療をしてきました。

睡眠医学はマイナーな分野

「睡眠医学」とは、睡眠に関するあらゆる医学的な問題を取り扱う分野である…と、かつて私は教わりました。今改めて調べると、睡眠障害の診断と治療を専門に行う分野であると定義されている場合が多いようですね。これはこれで正しいと思います。

そんな睡眠医学を専門として診療している、すなわち睡眠医療を行っている医師って、どうやら凄い少数派ですし、あまり認知もされていません。最近自分は某医師向けの情報サイトに登録する機会があったのですが、その際に「専門としている診療科は?」と尋ねられても、用意された膨大な診療科名リストを眺め「睡眠は…やっぱ無いなあ」と困惑するばかりでした。

まあ、睡眠医療をしている医師だと、一般的には「睡眠と精神科」とか「睡眠と呼吸器科」とか、他に専門科があって睡眠「も」手掛けているというパターンが多いので、本当に睡眠のことしか診ていないという自分はおそらくさらに少数派ではありますが。

「睡眠科」を標榜科としようという動きが出ている

ところが近年、標榜科としての「睡眠科」を認めてもらおうという動きが出てきています。これが実現すれば、医師向けアンケートなどに回答する際に私が覚えるちっぽけな困惑も少しはましになるかもしれません。

そう考えると、睡眠学会から回って来たこの問題についてのアンケートにも珍しく真面目に答える気が湧きました。アンケートに答えながら睡眠科という科が存在すべき理由について自分なりに考え、ふと考えがまとまった気がしたので、ここに記します。

なぜ、「睡眠科」があると良いのでしょうか?

メリットとしては、特に以下のようなものがあるのではないかと考えました。

1.      睡眠の問題で困っている患者さんが行けばワンストップで診てもらえて便利。
2.      睡眠に関して複数の問題をあわせもつ患者さんの場合、一か所で「睡眠の問題なら全部診ますよ!」とできる方が、最善の治療につながりやすい。

ひとつずつ解説します。

1.      睡眠の問題で困っている患者さんが行けばワンストップで診てもらえて便利

「睡眠のことで困っていてもどこを受診すれば良いのかわからない」という話をよく目にします。睡眠科の標榜が実現すれば、患者さんにとっては「ここへ行けば良いんだ!」とわかりやすくなることでしょう。
睡眠科を標榜する医療機関の質をどう担保するのだろうという懸念は出てきますが、今回のテーマではないのでひとまず置いておきます。

2.      睡眠に関して複数の問題をあわせもつ患者さんの場合、一か所で「睡眠の問題なら全部診ますよ!」とできる方が、最善の治療につながりやすい。

従来の枠組みだと、いびきや睡眠中の無呼吸がある人は耳鼻科や呼吸器内科で診察を受け、眠りながら叫んだり暴れたりする人は脳神経内科が診て…という風に、同じ睡眠の問題でも症状によって担当する科は別々のことがほとんどでした。

たとえばこんな感じ:
睡眠時無呼吸症候群:呼吸器内科、耳鼻咽喉科、循環器内科、小児科
ナルコレプシー:脳神経内科、精神科、小児科
むずむず脚症候群:脳神経内科
周期性四肢運動障害: 脳神経内科
不眠症:精神科
概日リズム睡眠覚醒障害:小児科、精神科
覚醒障害:小児科、精神科
レム睡眠行動障害:脳神経内科、精神科

このやり方で問題ないケースが大半です。患者さんの発症している睡眠障害が一種類だけなら。

しかし、以下のようなケースだと、睡眠医療を専門とする医師が診ることがベストであろうと個人的には考えます。

・睡眠時無呼吸症候群の治療中に不眠症状が出てきた。
・むずむず脚症候群と概日リズム睡眠覚醒障害の両方をあわせもっている
・睡眠検査でレム睡眠行動障害と周期性四肢運動障害の両方が見つかった
・もともと眠気が強くて薬を飲んでいる人で、鼻づまりで眠れなくてさらに眠い。

要するに、複数の領域に問題がまたがっている場合です。

このような時、病気の結果として起こる「眠れない」とか「眠い」などの訴えに対して複数の病気がいずれも原因となっているということは珍しくありません。あるいは病気同士が関係している場合もあります。
それで、「疾患Bを治療したら疾患Aの症状まで良くなる」とか、「疾患Aの治療薬を使うと疾患Bがかえって悪化する」というようなことが起きます。

睡眠の問題それぞれについて別々の専門家が対応するよりも一人の医者が睡眠の問題にまるごと対応できれば、木を見て森を見ない状態に陥ることが避けやすくなります。そしてそのような医者は、おそらく「睡眠科」の存在が認められた方が、育成や活動が容易となります。

目の前の患者さんが訴える困りごとについて、どの病気がどの程度影響しているのかを見極め、それぞれに対して適切な治療をしていくというバランス感覚を持つことが、「睡眠科」を標榜し睡眠医学を専門とする医者が持つべきスキルなのではないかと個人的には思っています。
かくいう私自身、睡眠医学がカバーする範囲で比較的苦手な疾患はあるので、まだまだ勉強途上ですが…。

まとめ

「睡眠科」という標榜が可能となれば、さまざまな睡眠障害を持つ患者さんが迷わずに睡眠科に集まり、診察をする医師に睡眠障害全般についての知見が蓄積し、特に複数の睡眠障害を持つ患者さんについてより適切なマネジメントが可能となる未来に期待ができるのではないでしょうか。

実際に「睡眠科」標榜についての議論をしている先生方が私と同じような考えを持っているかどうかはわかりませんが、前線で診療をしている一人の医師としての意見はそんなところです。

お読みくださりありがとうございました。

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