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7分で読み切る1冊 vol.2 ハードワーク 勝つためのマインドセッティング(エディ・ジョーンズ)

『ハードワーク』勝つためのマインドセッティング(ラグビー元日本代表ヘッドコーチ Eddie Jones)(◎)

ワールドカップで過去(しかも21年前)に1勝しかしたことがない日本代表チームを、「スポーツ史上最大の番狂わせ」と言われた南アフリカ戦の勝利に導いた根底には、日本人選手の思い込みを取り除き、「ジャパン・ウェイ」という新たな日本独自のやり方を根付かせるマインドセットの徹底がありました。スポーツは身体的なものによる部分が大きいと考えられている中、それよりも考え方や姿勢など、精神的なものの方がずっと大きいと断言するエディ・ジョーンズ氏。海外と日本の指導経験があるからこそ見えた日本人選手の長所と短所。日本の選手たちを鍛えながら伝えてきたことをまとめた、日本人が世界で活躍するために必要なマインドやメンタルに関する1冊でした。

【5つの学び】
1.目標は変わらない大きなものを、スケジュールは臨機応変に
2.眠った力を目覚めさせるためには潜在意識を利用

3.成功するためには想定以上の出来事への準備をすること
4.100%の努力をするから、気づき、学び、成長できる
5.部下の自主性を育てよ、リーダーを超えた時に成功が訪れる


【印象に残ったところ】
第1章 日本人独自のやり方で勝つ

●目標は不可能そうほど大きなものがよい
・人生において大きな成功を望む時、まずは明確な目標を設定すること。数字などで具体的に表現され、結果が出た時に達成できたかどうかがはっきりわかるものでなければならない。
・自分の中に眠っている力を呼び覚ました人だけが、大きな成功を招き寄せることができる。
・だから目標は、「そんなことができる訳がない」と思えるほど、大きなものを掲げるべき。

●スケジュールを固定するな
・目標は変えてはならず、一方、スケジュールはできる限り臨機応変に。
・人間は忘れっぽい生き物。だから目標を書き留めて読み返すことで、今何をすべきかをより的確に思いつくようにしている。

●物事のチェックは2ヶ月毎に
・小さな目標設定の期間は2ヶ月が適している。2ヶ月に1回、振り返りを行い、結果を分析したり評価して次に活かす。2ヶ月より短いと消化不良を起こすし、長いと緊張感を失う。

●課題を一つ一つ明確にせよ
・課題を一つ一つ明確にすることで、それを克服しようとして努力し、そこから可能性が広がる。
・課題がはっきりしないのに頑張っても何ら成果は得られない。努力のマンネリ化であり、相手に対する漠然とした恐怖となり、「どうせ勝てるわけがない」という負け犬根性を生むだけ。

●日本人の眠った力を目覚めさせるために
・日本人のエネルギーの源は、侍の武士道精神にあると考えリサーチした結果、「信頼」「忠誠心」「努力」の3つのキーワードが浮かび上がった。
・侍と領主の間には「信頼」があり、それに基づいて、侍は領主に「忠誠心」を持っていた。そして、忠誠を果たすために、戦に備えて日々剣術を磨く「努力」を怠らなかった。
・日本代表チームを外国のコピーではなく、日本人らしさを活かした日本独自のラグビーをするチームとして侍の集団にしたいと思った。そんなチーム方針を「ジャパン・ウェイ」と名付けた。

●潜在意識を利用する
・「ジャパン・ウェイ」を選手に浸透させるために、言葉をたくさん使い、口うるさく指導するよりも、潜在意識に働きかけたほうが効果がある。
・人間は見たり聞いたりしたものを自ら覚えようとしなくても蓄えていく。その蓄積がものの考え方や見方を形作り、さまざまな行動として表れる。
・ある事柄を浸透させたいなら、抽象的なものではなく、誰が見てもすぐにわかる具象的なシンボルマークがお勧め。
・信頼とは行いによって築かれる。だから、約束したことは小さなものこそ守らなければならない。

●日本人の忠誠心は結束力に繋がる
・チームの中にはある共通した価値観があり、それに忠実でなければチームにはいられない。
・リーダーはチームの価値観を他のメンバーに植え付けることが大切で、その際に軸をぶれさせてはいけない。「あの人は許されるのに自分はダメ」の例外を一つでもつくってしまえばそこで終わり。メンバーは不平等にとても敏感。

●向上心のない努力は無意味
・いくら頑張っても結果が出ない人は、間違いなく、「今よりよくなろう」という意識が欠けている。
・トレーニングは上達したり目的に近いたりするための手段。時間を区切ると理にかなった能率的なものに化けることがある。また、一人一人が責任を持ち、自分で考えて決断することから、大きな力が生まれる。

●部外者が活動をする時に心がけること
・国であれ組織であれ、そこには独特の文化があることを知ること。
・部外者としてそこに入ったとき、まずやるべきことは、自分の力で変えられるものと変えられないものを見極めること。

●弱いマインドセットを変えるために褒める
・弱いマインドセットを変えるためには、褒めることが一番。言葉よりも効果的なのは、はっきり見える形で賞を与えること。
・日本のスポーツの現場を見てとても気になったのは、指導者が選手を褒めることが非常に少ないこと。媚びるのではなく、ただ心に感じたことを素直に表現すればよい。

●「完璧」にとらわれすぎる日本人
・「お前はダメだ」と言い続けると、その選手は本当にダメになってしまう。それが今まで多くの日本のコーチがやってきてしまっていたこと。
・指導者の仕事とは、選手や部下の長所を丁寧に探し、それを活かすこと。
・指導者はまずは、相手のこと(なぜそのスポーツ、その仕事をしているのか)を理解すること。次に、その人の良さを最大限に引き出すには、どうすればいいか考えるべき。
・フィールドは、いつもカオス。アクシンデントが頻発し、1秒後に何が起こるかさえわからない。そうした滅茶苦茶な状態を何とか切り抜けられる選手を育てなければならない。

第2章 どう戦略を立てるか
●「ジャパン・ウェイ」をチームに徹底するために

・人の心に訴える時、繰り返しは非常に効果がある。
・同じことを同じ言い方で伝えていたら、選手は飽き耳を向けなくなる。だから、同じ食材にある時は醤油をかけ、ある時はマスタードをつけるように、またある時はトマトソースをかけるように、何か違うけどメッセージの内容は同じように、言い方は変えなければいけない。
・私はビジネス書をたくさん読む。書かれた内容よりも、むしろ言い方を学びたいから。
・同じことを言い続けることは、相手に信念を感じさせる。

●準備が全て
・どんなことでも成功は準備が全て。
・スポーツでもビジネスでも競争相手に勝つためには、相手を上回る準備をするしかない。

●リスクを負わないと進歩はない
・リスクを負わず決まりごとを繰り返すことは楽に違いないが、そこからは何も生まれない。

●勝負の時は鬼になれ
・勝負の時、内向きであってはいけない。フィールドは戦場であり、食うか食われるかの世界。
・ラグビーの本質は闘争。昨日の敵は今日の友でありフレンドリーに接する「ノーサイドの精神」は試合中ではなく試合後の文化。

●欠点は1つの条件にすぎない(だから戦略で補える)
・欠点を欠点ととらえるか、ただの条件と考えるかが、勝利や成功の大きな分かれ目。
・ラグビー日本代表の特徴は何といっても体が小さいこと。それでも勝つためには、パス周りをはじめ全てのプレーを低い位置で行うこと。背の高い選手は低い位置でのプレーを嫌がるので、それが多いほど日本は有利になる。
・試合の60分を過ぎてからは、どんなチームでも疲れてスピードが落ちてくる。その時間帯に相手の不得意な低い位置でのプレーを続け、スピードが落ちなければ必ず勝機があると確信していた。それが南アフリカ戦の奇跡の逆転勝ちに繋がった。

●日本人は努力をしていない
・いろんな国の選手をみて努力が一番不足していると感じたのは日本人。
・努力は100%のものでないと意味がない。100%で行うからこそ、自分に不足している何かに気付けるし何かを吸収できる。

●スポーツよりもまず勉強をするべき
・日本のスポーツ界で大きな疑問を感じるのは、スポーツをする人が勉強をしないこと。
・人間の基本は学問教育であり、学問は人生をバランスの取れたものにする。生活の管理や人生に関する諸事全般をどのように進めていったらいいか教えてくれる。
・選手生命が終わった時、自分がこれからどうすればいいのか、学問が身についていないので判断できない選手が多い。

●成功や勝利を導く練習のために
・データを使う場合、今のチームに何が必要かというところから入る。
・印象や主観は不正確。それだけで、練習方法を判断すると見当違いのものが多くなる。有効な準備をするための根拠としてデータを使う。
・練習はできる限り実際の試合に近づけるべき。
・想定できない状況はない。試合で予想と大きく異なる状況になったとしたら、想定の仕方が間違っている。
・準備では、想定以上のものを準備しておくこと。

第3章 何が勝敗を分けるか
●相手の文化や習慣を尊重し配慮する

・どんなところにも独自の文化や習慣があり、そこで活躍しようと思うなら、文化や習慣にしっかりと配慮すべき。
・いきなり自分のやり方で始めても受け入れられるわけがない。

●「ミスをしないこと」よりも重要なこと
・「ミス」はそれ自体は重要ではなく、その後にどのような行動をとるか、あるいはそこから何を学ぶかが重要。
・日本の選手はデシジョン・メイクが苦手。これは指導する側が何が正しくて、何が正しくないかをすぐに教えてしまうから。それでは、自分で考えたり判断したりする力が身につかない。
・何事でも、問題は人に指摘されるより、自ら気づくほうがはるかにいい。理解の度合いが大きく異なるから。

第4章 成功は準備が全て
●リーダーの仕事

・リーダーはチームの雰囲気を読むことが大事。
・リーダーは自分の感情から離れ、その場を客観視した上で、一種の演技として顔色や声色、言葉などを使ってメッセージを発するべき。
・結果を出した人や貢献した人が、どんな形であれ、報われることが大事。報酬をあらかじめ用意しておき、遺漏なく与えることが組織を運営する上で、極めて大事。

●勇気の大切さ
・人は誰でも自分をよりよくしたいと思う生き物。そのために必要なのは勇気。勇気とは慣れ親しんだ自分を捨てること。「義を見てせざるは、勇なきなり(論語)」
・勇気を持てないままやり過ごしているうち、時間切れになることが本当に恐ろしいこと。

●自信を持つためにも徹底した準備
・本番で大きな力を発揮しようと思えば、普段から自分を追い込む訓練をすることが必要。
・成功は十分な準備がもたらす自信が呼び込む。

●モチベーションをより高めるために
・リーダーが参加者のモチベーションを高める方法は、自分たちの参加しちえるプロジェクトが何か特別な意味のあるもの、重要な意義のあるものだと感じさせること。
・初めて会った選手たちにはこのように伝えた。「君たちは、これから世界のトップ10に入るチームになる。過去20年以上、日本はワールドカップで勝利を上げていない。つまり、このチームは、これまでの日本で最高のチームになるのだ。さあ、日本の歴史を変えよう。これで興奮しなかいなら、君たちは一生興奮できないぞ。」

●選手に自主性を持たせる
・いきなり選手に全てを考えさせるのは無理がある。だから、各選手に能力に応じた枠組みを与えた。枠組みを守っている限り、何をしてもいいという自主性を持たせた。
・その後で、「どの点がよかったか、悪かったか」を聞くようにしたところ、選手たちの中で責任感が育ち、プレーにも反映された。
・日本人は大人数がいるところではなかなか自己主張しない。もし建設的な意見がほしいなら、3〜4人の少人数で討論する機会をつくるとよい。人は何事にも慣れる。

●プロとアマチュアの違い
・何かを行った時、お金がもらえるのがプロ、もらえないのがアマチュアとうだけではない。
・結果と責任の姿勢。プロは結果を出そうとしなければならない。そして結果が出なければ、責任を取らなければならない。
・これがなければ、いくらお金をとっていても中身はアマチュア。学生気分のまま仕事をしている。

●部下がリーダーを超える時
・2015年9月19日、ワールドカップ南アフリカ戦の終盤。勝つことを諦めていたのは、実はヘッドコーチの私だった。
・29対32で得たペナルティで、私はキックで3点をとり同点とするため「テイキング・スリー!」と指示を出していた。しかし選手たちは、指示に従わずスクラムを組み、見事にトライで5点を獲得し逆転勝利した。
・本当の成功は、部下がリーダーを超えときに起こる。


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