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【レポート】"プロサッカー界におけるアナリストのキャリア形成"

Sporpathでは、8月26日(月)に株式会社KSAP代表の杉崎健氏を招き、アナリストのキャリア形成についてトークイベントを開催しました。今回はイベントレポートをお届けします。普段なかなか表に出ない「アナリスト」の仕事について、貴重な話を伺いました!


杉崎氏のキャリア

大学時代にデータスタジアムで約10年間サッカーのデータ分析やソフトウェア開発に携わってきました。在籍中の2006年にはワールドサッカーマガジンに出向し、ワールドカップ期間中の雑誌の編集にも携わりました。ワールドサッカーマガジンから戻って以降はJリーグの各クラブへ自社サービスを販売し、契約先のサポートをする営業の仕事もしました。その話の流れで2013年に当時ヴィッセル神戸の安達亮さん(現横浜F・マリノスコーチ)から「分析スタッフの枠が1つ空くので手伝ってくれないか」という話を頂きました。最初はデータスタジアムから出向でも良いとも言われていましたが、自分からデータスタジアムを辞めてクラブで勝負したいという意向を伝え、退職してプロの世界に入っていきました。その後2016年にはベガルタ仙台へ移籍し、2017年から2020年まで横浜F・マリノスで働きました。当時は「アナリスト」という肩書きを持つ人が誰もいなくて「テクニカルスタッフ」や「分析担当」という役職名が一般的でした。私は2018年の終わりに当時のスポーツダイレクターに「自分の肩書きをアナリストに代えてほしい」とリクエストしました。そこでおそらく日本で初めて「ビデオアナリスト」という役職名で仕事を始めました。なぜか「ビデオ」が前につきましたが(笑)2019年に横浜F・マリノスで15年ぶりに優勝することができました。その後、次の目標としてアナリストの啓蒙・普及、養成・育成をしたいと考え独立しました。アナリストという仕事は世界の中でも日本がトップクラスになれるのではと思っていましたし、そのための団体・組織を作りたいという思いもありました。

アナリストになるには

そもそもアナリストの仕事とは?

監督やコーチが思い描いているサッカー像を視覚化し、具現化することだと考えています。ですので、自分のサッカー観を発揮する仕事ではありません。あくまで監督が思い描くものを分かりやすく選手に伝えることが仕事です。

アナリスト業の普及

最近では「アナリスト」という役職もかなり一般的になりました。私が名乗り始めた当初はいませんでしたが、今ではJ1だけでなくJ2、J3でも当たり前になってきています。

アナリストの仕事を細分化すると、欧州5大リーグクラスでは以下のように細分化されることが一般的です。

  • 自チーム分析担当

  • 対戦相手分析担当

  • リアルタイム分析担当

  • 選手個人の分析担当

  • リクルーティングのための分析担当

  • 強化部付きでチーム全体の分析担当

私が横浜F・マリノス時代に関わっていたCity Football Groupでは、クラブで20-30人アナリストがいて、トップチームには5-6人程度でそれぞれが異なる役職名で活動していました。

アナリストとして求められるスキル

大きく分けると、まずは

  1. ゲームを見る

  2. まとめる

  3. 伝える

という部分になります。その中でも監督やコーチと異なるのは「まとめる」部分になります。監督やコーチが最終的に選手に伝える役割を担いますが分析した情報を「まとめる」ことはアナリストとしての重要な仕事になります。レポートを作ったり、映像にまとめること。まずそれができないとアナリストになることはできません。大前提として、ゲームを見てきちんと分析し、見たものをわかりやすくまとめて、伝えることができる。これは当たり前のように聞こえるかもしれませんが、できない人が多いことも事実だと思います。

もう少し詳細をあげると、情報収集力やデバイスを使うスキル、予測力、決断力、コミュニケーション力などが求められますが、まず大前提として「見る」「まとめる」「伝える」が最低限必要であり、かつ重要な観点です。

更にその先に違いを分けるスキルは「監督と同じ目線で見れるか」だと思います。自分のサッカー観によりバイアスがかかって監督と話が合わないというケースはよく見受けられます。優秀なアナリストは「カメレオン」にならないといけないと思います。監督の目線によって伝えることを変えられる。また監督が考えることありきで、そこに色をつけられることが大事です。そうした監督の目線や感覚を身につけるには、メディアなども通して監督のコメントやインタビューを読んで紐解くことも大事です。自分もデータスタジアムでクラブの仕事をしている時にも試合後に監督に話を聞いていて、それが非常に有意義な学びになりました。

アナリストとして機会を得るには

ヴィッセル神戸からのオファーは積み重ねた信頼関係

私のケースで言うと、2011年頃からデータスタジアムでヴィッセル神戸のサポートを始めたのですが、当時はトラッキングデータが普及しておらず、データスタジアムが導入を始めた時期でした。非常に高額でもあり普及していなかったのですが、ヴィッセル神戸が導入をしました。ただ導入したは良いものの、それをどう使えば良いのかノウハウもなかった中で、当時ヴィッセルの安達さん達と一緒に研究をし、毎試合何十ページもレポートを書き、そこからデータを紐解いて、、、といったことを積み重ねていきました。その中でこれは今後サッカー界で間違いなく普及するだろうし、それを使いこなせるクラブが上にいくだろうという話をしていました。その中で安達さんから、これを進化させるためにクラブに来てくれという話を頂きました。

Jクラブで働く機会を得やすい環境

Jリーグクラブで働くアナリストは、昔から筑波大学出身者が多いです。しかし近年では他の大学や専門学校からJクラブに入ることも多くなりました。また最近ではインターンから正式契約になるケースも出てきました。

オファーを受けるかどうかは、結局いまは人伝手の評価が大きいかと思います。その学校内の先生や監督からの推薦が非常に大きいですね。

評価されるアナリストとは?

Jリーグクラブのアナリストの体制

私がアナリストを名乗り出した頃は、「テクニカルスタッフ」や「分析担当」という役職が1クラブに1人いれば良い方でした。それが現在はJ3も含めてほぼ全クラブに1人はアナリストがいる状況です。その中でもFC東京は5人、横浜F・マリノスでは3人といったように、J1では複数置くクラブが増えていますし、J2でも2人置くクラブが増えています。また、アカデミーにアナリストをつけるクラブも出てきました。

アナリストの評価を決めるのは監督ではなく「強化部」

その中で、J2クラブからより予算の大きいJ1クラブへステップアップするようなアナリストも出てきました。クラブ間の流動性は高くなっている印象です。評価されるアナリストに共通する点は「強化部に評価される」ことです。勘違いしてはいけないのは「監督の評価」ではないということです。ある程度きちんと仕事をしていれば監督から評価を得ることはそこまで難しいことではありません。しかしアナリストを採用するのは強化部です。強化部長やGMは横の繋がりなどを通してアナリストの情報を入手しています。

アナリストに求められる役割の変化

以前はアナリストの仕事は「試合前」がメインでした。その試合に向けて対戦相手を分析し準備万端にすることが求められました。しかし現在はむしろ「試合中に何ができるのか」が求められるようになっています。それはテクノロジーの進化が大きな要因で、ベンチにもIT機器が持ち込めるようになりました。それを使うのがアナリストです。リアルタイムに試合を分析し、試合中に変化を及ぼすことが求められます。データや映像が豊富に取得できるようになった中で、何をどう切り取り、どう伝えるか、スピード感を持って決断することが求めらています。

アナリストのキャリアパス

多様化するアナリストのキャリア

近年では強化部付きのアナリストが出てきたり、より細分化、分業化が進んできました。また個人分析官のように選手個人と契約する分析官も増えていて、5大リーグではほぼ1選手につき1人の分析官がついていると聞きました。日本でも少しずつ個人分析官が増えてきました。アナリストのキャリアとしては、アナリストからコーチや監督になるケースも昔からあります。欧州ではアナリスト出身のスポーツダイレクターも増えています。日本では現在そのような方はいないかと思いますが、今後は増えていくと思います。むしろ強化部こそアナリスト的なスキルは求められると思います。

アナリストとして望むキャリアを構築するために大事なこと

やはりどれだけサッカーが好きか、ということが大事だと思います。もちろん皆サッカーが好きだとは思うのですが、どのレベルで好きか?ということが問われると思います。サッカーが好きでそれが仕事になった瞬間に嫌なことも多く出てきます。その嫌なこと、苦しいことが出てきた時にでもサッカーが好きと言えるかどうか。本当に自分と向き合って本気でサッカーが好きだと思える人はアナリストに向いていると思います。1日に5試合見ないといけない日もあるが、それが苦痛になってしまうと難しい。私も今は独立してチームに所属はしていませんが、それでも1日3試合は見て作業をしています。それが私は全く苦痛ではなく、サッカー好きで、選手をサポートすることが好きで、好きなことをできている。サッカーが好きか聞かれた時に自信を持って誰よりも好きだと心から答えられる人がアナリストに向いているのだと思いますし、そういう人がプロの現場でやっていけるのかなと思います。サッカー界でアナリストとしてステップアップしていきたいと思う人がどんどん出てきて欲しいと思いますが、それを得るにはものすごい努力が必要で、圧倒的に時間を投下しないといけない。私もヴィッセル神戸に加入する前は映像分析や対戦相手分析をしたことがなかったですが、それでも情熱があったからこそこなせました。この世界では、その仕事量の多さやプレッシャーからメンタル的に病んでしまう人も多くいるのが現実です。そうならないためにもサッカーが本質的に好きかどうかは自分自身に問いかけてもらいたいと思います。


杉崎氏が運営するアナリスト向けのオンラインサロン"CiP"

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