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新ハンドボールリーグ構想発表。その理念とこれから

12月20日、日本ハンドボールリーグ(JHL)が、2024年2月からスタートする新リーグ構想を発表する記者会見を行ないました。JHLは現在行なわれている21-22シーズン、そして次の22-23シーズンを終えたあと、新リーグへと移行。23年中は「プレシーズン期」と位置づけられているため、現行のJHLは来シーズンで幕を閉じることになります。

主眼は「リーグの持続的発展のため」

記者会見では、葦原一正・JHL代表理事が、その新リーグについての構想を発表しましたが、その主眼は「今後も持続的にリーグを発展させていくためには」ということ。

これまでの実業団中心のリーグを否定するものでありませんが、どうしても実業団は会社の方針1つでチームがなくなってしまう可能性があります。それによってリーグが衰退することを防ぎ、また、現在の支出が収入を大きく上回っている状況(JHL発表では平均支出が2億円に対して、平均収入が1000万円)を改善し、しっかりと自分たちで「稼げる組織体制」(葦原代表理事)を築くことで、「持続可能なリーグ」(同)ことをめざすということが述べられました。

新リーグ構想について発表する葦原代表理事

そのための柱として打ち出されたのが「シングルエンティティ」と「デュアルキャリア」でした。

「シングルエンティティ」と「デュアルキャリア」

「シングルエンティティ」とは、あらゆる収益事業をリーグが一括して管理する形のことで、アメリカのメジャーリーグサッカー(MLS)などが採用しているものです。

「チケット、スポンサー、放映権、グッズ販売の4大収入をリーグが一括管理する。こうすることで一番のメリットは顧客データを集められること。これだけの大きなデータを一括管理できれば、新しいビジネス展開を創出することもできる。私は世界のさまざまなリーグをリサーチしているが、ここまで収入を一括管理しているリーグは見つけられないので、世界初の取り組みになるかと思う」(葦原代表理事)

もう1つの「デュアルキャリア」は社会的に語られることが多くなってきている言葉で、直訳すると「二重経歴」となるでしょうか。

葦原代表理事は「現在はほとんどの選手がアマチュア契約で、今夏選手から取ったアンケート結果では、そのままでいいという選手は20%ほど(22.3%)で、大半はプロ化を希望していた(現在プロ契約:4.7%、専業プロ希望:35.1%、兼業プロ希望:29.4%)。それは単純にお金がほしいということではなく、『ハンドボーラーとしての評価を明確にしてもらいたい』、『それを金額で評価してほしい』、そして、『少しでも今よりハンドボールに関わる時間を増やしたい』という思いがあるようだ。

新リーグでは専業プロ、兼業プロなど多種多様なキャリアを想定している。現在ベテランの選手で、セカンドキャリアを考えてアマ契約のままでいいという人もいるだろうし、最終的には選手と所属チーム間での相談となるが、幅広い選択ができるようにしたい」と話しました。

兼業プロについては、例えば現在会社員として働いている選手が、チームとはプロ選手としての契約を結ぶ一方で、会社員としても働くという形が想定されます。加えて、葦原代表理事が「ある意味、メディアに多く出ている土井レミイ杏利選手(ジークスター東京)も兼業プロと言えるかもしれない。これもいろいろな形が考えられるだろう」と語ったように、実現すればかなり多様な形の契約形態が生まれることになりそうです。

そして、専業、兼業は問わず、なにかしらの「プロ契約」をチームと結んでいる選手を11人以上揃えるということが、新リーグ参加への条件の1つになっています。

新リーグ参加に必要な「8つの要件」

「理想は現在のJHL全チームが参加できること」(同)ではあるものの、参加には大きく8つの要件(詳しくは特設サイト https://japanhandballleague.jp/new-philosophy2024/ を参照)が設けられています。

現在のJHL参加チームで新リーグへと進まなかった場合は、残ったチームでリーグが形成される予定で、そのリーグも含めて法人として管理していくとのことです。

この8つの要件の中でも「新リーグの統一契約書に11人以上がサインすること(上記のプロ契約)」という「選手契約要件」と、「1500人以上のホームアリーナを有すること」という「アリーナ要件」は、どのチームもかなりクリアすることが難しいのではないでしょうか。

「大きなポイントはアリーナ要件。3年後の入場者目標は1500人としているので、少なくとも1500人のアリーナをご用意くださいとお伝えしている。それから、1500人収容できるアリーナを使う必要があるので、そのためには行政の支援が必要になってくる」と葦原代表理事も述べている通り、ハンドボール特有の「松ヤニ」が使える1500人以上収容のアリーナを探すのは、日本では容易ではないからです。

こうした要件をあげたうえで、「難しいことをいろいろ話したが、1~2万人の観客がいる環境で選手たちにプレーしてもらいたいという一心。

今、少年少女たちがJHLをどう見ているかというと、正直憧れの場所になっていない。存在を知らない場合も多く、子どもたちがこういった場所に立ってみたいと思う憧れの場所を作っていきたい。それを今の大人たちが、しっかり作っていくことが責務であると捉えている。

こういった輝かしい場所を一時的な人気、一時的な資本投入でやってもまったく意味がない。安定して輝き続けられる場所を作るために、今までの延長線上では難しいので、根本的手法を取った。

私からは、今変わらないでいつ変えますか? ということと、挑戦しない限りなにも始まらないという2つのことを言いたい。勇敢なものたちだけが新しい世界を作っていけるのだと思う。

これからチーム、ファン、自治体、スポンサーなど、たくさんのステークホルダーのみなさんとともに、勇気をもって踏み出していきたいと思う。世界最高峰のリーグに向けて、ともに大きな一歩を踏み出していきましょう」と締めくくった葦原代表理事。

現状ですぐさま「参加!」というのは簡単ではない

その理念は非常にわかりやすいもので、夢を与えてくれる、新しい世界を見せてくれる、そう感じさせてくれるものでもあります。

一方で、本当にリーグ一括管理のもとで運営していけるだけの収入が確保できるのか、その見通しがあるのか、など、具体的に決まっている内容が少ないため、これで来春(2022年5月が入会審査関連書類提出期限)までに参加するかどうかの決断を求められているJHLの各チームにとっては、非常に判断が難しいところであるのも容易に想像できます。

現時点では、「改革なくしては生き残れない」と、とにかくいっしょに前に進もうと考える人たちも、「この内容で本当に大丈夫なのか」と立ち止まって考える人たちも、どちらかが絶対に正しいとは言えない状況で、今後も刻一刻と変わっていくであろう展開をしっかりと見守っていきたいところです。

発表後には太田雄貴理事(写真右端)、土井レミイ杏利(写真左から2人目、ジークスター東京)、原希美(写真右から2人目、三重バイオレットアイリス)による、新リーグへの期待や要望を語るパネルディスカッションも行なわれた。




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