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競技復帰をめざした理由とチームに与える好影響―ママアスリート・高木エレナ 復帰への道 Vol.3

日本リーグ女子・三重バイオレットアイリスに所属し、日本代表経験もある高木エレナ選手。2018年12月に長男を出産したあと、競技復帰をめざしてトレーニングを行なってきた彼女の復帰までの道のりを追った弊誌『スポーツイベント・ハンドボール』2019年11月号から20年3月号までの連載「ママアスリート・高木エレナ 復帰への道」を全文公開します。連載第3回では、高木が競技復帰をめざすに至った気持ちと、所属チームに与えるいい影響などについて触れていきます。
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高木 エレナ(三重バイオレットアイリス)
1991年生まれ、28才(旧姓・山根)。
夫・永士さんは実業団チームのHONDAに所属していた。日本リーグ・2018-19シーズンは産休し、18年12月に第一子となる長男を出産した。

連載第2回では高木が「産後期トレーニングサポートプログラム」を開始するまでの悩み、葛藤と、徐々に頻度が増し、強度が高くなっていったトレーニングについて紹介した。

今回は競技復帰をめざし、プログラムを実施するに至った高木の気持ちや、チームにもたらすメリット、その後のトレーニングのようすを紹介する。

出産を理由にハンドボールを辞めたくない

これまで紹介してきたように、「産後期トレーニングサポートプログラム」を通じて、多くの人たちの協力を受けながら復帰をめざしてきた高木。

海外では彼女のように産休を取って、出産をしても競技復帰、さらには代表に選ばれる選手がいるのも珍しくない。

しかし、日本ではそういった選手は他競技を含めてもまれで、ハンドボール界では結婚や妊娠をすると引退をしなければならない、といった雰囲気があった。

その中でも高木が競技復帰を選択したのは「好きなことを理由づけてやめるのは嫌だったから」。

結婚や妊娠といった理由のせいで、自分が好きなハンドボール人生を終わりにしたくなかったと話す。

それに加えて、自分の子どもにがんばっている姿を見せたいという思いもあった。

一方で、プログラムスタート時から「どうしても復帰しなければ」という思いや焦りはなく「挑戦して、無理だと思ったらやめよう」と、フラットに考えられた事が、いい方向に作用していたという。

そうした高木の挑戦は、所属する三重バイオレットアイリスにも好影響を与えていると梶原晃監督は話す。

「まずは、ほとんどの選手は子どもが好きなので、エレナ(高木)が(息子の)翔陽を連れて練習に来たら、みんなテンションが上がります。

そのほかにも、これまでの自分の感覚になかったもの、『これってありなの?』と思っていたことを受け入れ、体験することで1人ひとりの人間としての幅が広がりました。

エレナの存在は、ほかの選手が多様性を認めることにつながっていると思います」

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高木が翔陽くんと練習に参加すると
チーム全体も笑顔に(写真はどちらもチーム提供)

もちろん大変なこともあった。チームのスタッフは梶原監督をはじめ、櫛田亮介チームマネージャーなど、男性スタッフが多く、細かいところのフォローが難しかったり、子どもを預けることが簡単ではなかったり、会社のサポートが必須だったりと、最初は問題点は少なくなかった。

それでも「今の時代に出産=引退というのはおかしい。女性チームを預かっているからこそ、女性のこういった問題にも取り組んで、日本のスポーツ界全体がもっと変わっていければ」と、考えていた梶原監督やスタッフ陣は、1つひとつ課題をクリアして、高木がベストな環境でトレーニングをできるように全力でバックアップした。

「産後期トレーニングサポートプログラム」で高木の競技復帰を支援する国立スポーツ科学センター(JISS)としても「まだ日本では子どもを産むからやめなきゃという風潮はある。このようなプログラムがあるということを知らない選手も多い」と、日本のスポーツ界の現状を分析している。

だからこそ、高木が初めて行なった地方でのサポートプログラムの実施というモデルケースが成功すれば、これからのハンドボール界だけでなく、スポーツ界全体に大きな影響を与えていくことだろう。

アスリートに近いトレーニング内容に

ここからは高木の現在(連載当時)のトレーニングのようすを見ていこう。9月から三重の練習に週3、4日間参加するようになった高木。そのほかにも午前中にトレーニングをするなど、いっそう強度が高くなった。

そんな中、10月22日に三重が大阪ラヴィッツと練習試合をすることになった。高木にも10〜15分と短時間だったが出場チャンスが巡ってきた。久しぶりにコートに立ってプレーをした高木は感想をこう話した。

「自分の思っているとおりになるには、あとちょっと足りないということが多かったです。練習でゴールマウスに立つことと、試合で立つこととはぜんぜん違うので、もっと試合慣れしないといけないと思いましたね。

でも、お客さんも入っていたので、実際の試合に近い雰囲気を味わうことができてよかったです」

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その後、息子の翔陽くんとともに、自身も体調を崩してしまい、2週間トレーニングをすることができなかったため、当初の進行予定より、やや遅れぎみになっている。

それでも9、10月と強度を上げてトレーニングをしてきた成果もあって、大きく体力や筋力が落ちることはなかった。

さらに11月中旬からは、チーム練習への参加を週5日に増やし、GK練習に多くの時間を割いている。

強度が上がり、疲労度が増した練習に加え、夫の永士さんと協力しながら育児や家事をこなしている髙木。「けっこう体力的にはきついですけど、やるしかないですから」と、奮闘する毎日を送っている。

自身の状態を見極めあわてずに目標を設定

これまで3回だった授乳はやがて1回になり、今後は断乳をすることに。そのため、体重の減少を気にすることはなくなった。

その代わり、栄養面で気をつけるべきことの変化が大きくなった。授乳をしている時は食事の量を多くし、なるべく体重を落とさないように意識していた。現在はアスリートとしての身体を作っていくためにも、油分はなるべく避けて、高たんぱく質のものを取るように心掛けているという。

トレーニングだけでなく、栄養面もアスリートが摂る食事内容へと変わってきているようだ。

今は12月24日から28日にかけて広島で開催される日本選手権・女子の部での復帰を目標としている。

しかし「トレーニングをできない日もあり、身体の状態も、気持ちの面でも万全の状態に持っていくのは難しい」と言う。

だからといってあわてることはなく「日本選手権にピークを持っていくためにここで無理をするのではなく、2020年1月から始まる日本リーグ・レギュラーシーズンなど、試合を重ねていく中で、身体の状態をどんどん上げていきたいです。そして最終的に3月のプレーオフの時に100%でプレーできる身体を作れれば」と、現時点での目標を話している。

次号では、出産後初の公式戦となる日本選手権のようすや、日本リーグ・レギュラーシーズン開幕を迎えて、高木が感じたことなどをお伝えしていく。

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