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『天国、それともラスベガス』の答えいっぱつ-ノームコア電卓を探す旅

こんにちは。趣味は越境ECとガジェット遊びです。

自宅にいながらにして世界を感じ世界と繋がることを目指して、ガジェット多めの自宅デスクのチューンを続けています。

去年から世界を覆っているあのウイルスの禍によって、全く海外に行けなくなってしまった昨今。海外サイトから品物(主にガジェット)を購入する越境ECは、僕にとってはこれまで以上に世界を感じる重要なチャンネルになりました。

そして今回は、ささやかながらマイクロ芸術運動をひとつやっていきます。「わびさび」と「エキゾチシズム」をマリアージュした、名付けて「ノームコア趣味」についてお話ししたい。

題材は、電卓です。

1. 「そうだ 電卓買おう」

人は、いつ電卓を買うんだろう。電卓って、職場でも・自宅でも、なんかいつの間にかあるもの、すでにあるものって感じがします。意識して買うこと、あまりないかも。そもそも、スマホにも電卓アプリ入ってるしね。

とはいえ、スマホで電卓アプリを起動したり、パソコンで電卓ソフトを起動するひと手間がない、物理電卓のアクセスしやすさもいいものです。最近は僕も3Dプリンターで何か作ったりすることも増えて、ちょっとした寸法計算(150mmから18mmを引く的な)に物理電卓が欲しい瞬間が続きました。

そうだ、電卓買おう。ヨドバシオンラインで「電卓」を検索します。

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…まあ、こんな感じだよね。どこかで見たことのある電卓が、どこかで見た感じで並んでいる。

1960年代から1970年代にかけては各社が技術開発競争のシノギを削り、ガジェット界のメインステージでスポットライトを浴びていた電卓も、2020年代の今やすっかりコモディティ(日用品)になりました。価格も数百円から。デザイン的にもすっかり日常の景色に溶け込んでいます。

でもね、そこは僕もガジェット好きなので、気持ちにぐっとくる、心が動く電卓が欲しいわけですよ。格好いい電卓、もっと探していきますよ!

2. 「モード系」について

「格好いい電卓」というと、セレクトショップにおいてある黒くてクールな電卓が想像されます。例えば…

もう20年近い歴史があるド定番、Amadana(本社:東京都渋谷区)の電卓。

はたまたブラウン(本社:ドイツ・クロンベルク)の電卓。

うん。確かに格好いい。格好いいんだけど…。日用品としてはちょっと饒舌というか、主張が強すぎる感じがするんですよね。

物が少ないデスクなら、こうしたモード電卓が1つだけポンとおいてあるのなら、彼らの饒舌さはステージの中心で一人で踊るプリマドンナのように成立するかもしれない。でも僕のデスクは、数多くのガジェットが集まる港町のような場所なので、あまり主張が強いと調和が崩れてしまうのです。

キメすぎない、日用品としての控えめな佇まいの中に、密かに価値やストーリーを秘めている、もっと「普通」な感じが欲しいんだよね。

そういうことが分かってきました。

3. 「わびさび」とか言い出す

日用品としての控えめな佇まいに、美を見いだす。歴史を遡ると、このジャンルにはスーパー有名な先人が多くいますよね。

たとえば柳宗悦の民芸運動もそうだし、何より茶の湯の世界で確立された「侘び」と「寂び」があります。自分の中にあるこの欲望は、とっくの昔に言語化されているはずだ。あらためて調べていきます。

辞書を引こう。去年の秋に第8版が出た「新明解国語辞典」をひもとく。

侘び…(動詞「わびる」の連用形の名詞用法)(茶道・俳句が理想の境地として求める)質素で落ち着いた趣

寂び…(動詞「寂びる」の連用形の名詞用法)古びたものに感じられる、落ち着いた趣。(芭蕉の俳諧の根本精神とされる)「ーのある(=低くて、落ち着いた)声」

(新明解国語辞典・第8版)

いやいや、「わびさび」はもうちょっとクリアな意味をもった言葉でしょ。

僕の解釈する「侘び」は、岡倉天心が「Book of Tea」に書いたimperfect(不完全)という言葉そのままに、キリキリに完成度を高めたものというより、不完全さや、隙があるところに美を見いだすアティテュードです。

そして「寂び」とは、時間の経過によって表面が劣化したり風化したりして落ち着いた結果、その内面から深みや美がにじみ出す魅力のことだと僕は解釈してる。表面の誂えではなく、内面のストーリーが重要。

モード系のようにキリキリしすぎない「不完全さ」と、表面ではなく内面から価値やストーリーがにじみ出す佇まい。高価な唐物(中国から輸入された茶器)を尊ぶスタイルへのカウンターとして生まれた「わびさび」スタイル。分かるわー。そういうガジェットに僕は惹かれる。

…ということで、「隙があるもの」に溢れた=「わび」を感じるヨドバシの検索結果をもう1度開いてみる。

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…あれ、確かに少しは心が動くけど、なんかこう、「買う」ってレベルまで気持ちが高まらないな? なんだろう、もうひと味足りない。

そうだ「世界」だわ。世界を感じ、世界とつながる僕のデスクだから、僕は単なる「さびさび」だけではなく、「世界」の要素も欲しいんだよね。

4. エキゾチシズム(異国趣味)とも言い出す

僕は「エキゾチシズム」を愛しています。エキゾチシズム、これも新明解で引いてみる。

エキゾチシズム…(exoticism)珍しい外国の風物などによって起こされる情調。異国趣味。エキゾチズムとも。
(新明解国語辞典・第8版)

「珍しい外国の風物」を手にして気持ちを動かす。わかる。それは僕が海外製ガジェットで感じる気持ちに近い。確かにそういうものが欲しい。

けれど、今は中世の大航海時代とは違います。ジェット機とコンテナ輸送とインターネットの現代では、世界中のあらゆる品物がグローバルに流通する。なので「珍しい外国の風物」ってなかなか手に入らないんですよ。普通に、外国の風物が手に入ってしまう。

例えばベルギーで作られたピエールマルコリーニのチョコレートだって、飛行機に乗ってやってきて、銀座の店頭に並んでしまうわけです。外国製品が珍しくない、普通に入ってきちゃう時代。

そんな時代において「珍しい外国の風物」には2つの方向があります。

1つは、高価なだけでなく、めちゃくちゃ大きくて動かせないもの。たとえ高価でもロレックスの腕時計だとかマクラーレンのスーパーカーくらいだったら普通に入ってきちゃうから、もっともっと大きいもの。例えば、ザハ・ハディドの建築とかね。

新国立競技場の計画がなくなった今、ザハ・ハディドの建築は日本には無い。日本から一番近いのは、韓国ソウルの東大門デザインプラザ(DDP)かな。それだって、例のウイルスで簡単には見に行けない時代です。

そして「珍しい外国の風物」のあり方のもう1つは、完全に逆方向で、あまりに日用品としてありふれすぎていて、輸入のコストをかけると日本の製品と価格面で勝負にならないものです。

かつて海外旅行なんかするしたときは、現地のスーパーやホームセンターに行って、$10くらいの日用品を買うのが好きでした。これは僕だけじゃなくて、海外でスーパーに行くのを楽しみにしてた人、きっと多いですよね?

あたりまえの普通の日用品が並ぶ海外のスーパーやホームセンターは、ジェットとコンテナ輸送とインターネットの時代に、「その国らしさ」を色濃く感じられる数少ない場所のひとつでした。

安価な日用品の世界は、実は各国の異国情緒を感じられる最後の領域、ファイナルフロンティアだと、僕は考えています。

5. 「わびさび」+「エキゾチシズム」=ノームコア

自分が住んでいるこの街とは異なる文化圏の「普通」を手にしたとき、人はその世界とつながり、世界のひろがりを感じられる。

ハサミや消しゴム、鉛筆といった文房具。キッチンまわりのあれこれ。ジェット機とコンテナ輸送とインターネットで世界がつながっている中にあって、いまや手に届く異国情緒はそうした日用品にしか残っていない。

そして、海外旅行なんて夢のまた夢になってしまった今、僕らの強力な味方が越境ECです。すなわちアメリカのamazon.comやドイツのamazon.de、イギリスのamazon.co.uk、フランスのamazon.fr…といったサイトにアクセスすることで、現地の人たちにとっての普通の日用品を、東京にいながらにして手に入れることができるのです。ちょっと、送料かかっちゃうけどね。

モードではなく、何でもない日用品に見いだす美しさや格好良さに異国情緒をプラスしたこの方向のガジェット趣味を、僕は2013年にNYで生まれた外国のファッション用語、ノーマルをハードコアに極める「ノームコア」をお借りして、表現したいと思います。

これで方針は決まった。ノームコア格好いい電卓、探していきます!

6. そして出会った「CASIO DH-12TER」

そして見つけました! イギリスのAmazon.co.ukで出会った、カシオの海外モデル「DH-12TER」です! 

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じゃーん。

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濃紺のボディにブルーグレイの数字ボタン、左下には黄色い「C」。

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右上には、ユーロとローカル(現地通貨)を変換するボタン。TAXボタンの薄いグリーンの選び方もいい。文字送りの間合いの取り方には、(たぶん)欧州現地のデザイナーならではの、日本人デザイナーの仕事とはまた違った味わいがあります。エキゾチック!

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届いた瞬間のこのパッケージもエキゾチックだった。

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わー、普通!

イギリスと欧州各国(同じ商品はamazon.deにもありました)の人にとってはなんてことない普通の電卓だけど、東京に住んでる僕にとっては、それがたまらなくエキゾチックなのです。

カシオは、戦後の1946年、東京都三鷹市に樫尾忠雄が設立した樫尾製作所を起源とし、電子計算機が生まれる前、1954年からリレー(継電器)を使った計算機を作っていた、由緒正しい日本の計算機メーカー。

起業した樫尾の名字をとった社名なのにKASIOじゃなくてCASIOなのは、その当初から世界を見据え、「世界で親しまれる起業になる」という思いからきているらしいです(以上Wikipediaより)。

そんな樫尾の夢がつまった海外モデルのDH-12TER。それは彼が夢見た通り、イギリスの・そしてヨーロッパのamazonで、何でもない普通の電卓として、プレミア価格もつかずに売られています。

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こうして、ノームコアで格好いい電卓が、イギリスから僕のデスクにやってきました。

そうそう、その電卓のすぐ左横にあるのは、「ひかり電話」としてつかってるアメリカAT&Tの固定電話TR-1909Bです。これもまたアメリカ生まれの$15.26の日用品、海をこえてやってきたノームコアガジェットです。

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AT&T社のロゴがまぶしい。

スマートフォンが普及したこの時代、固定電話にはクラシックカーのような趣があって…という話は、またどこかで。

これからも、ノームコアガジェット遊び、楽しんでいきたいと思います。

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