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四川の奥地で経験した中国人の風流

ある日、中国四川省成都市での仕事を早めに終えて夕食に行こうと現地の店主に誘われました。彼が運転するベンツで多分西の方角へ田んぼの中の道路を延々と高速で走り続け、3時間くらい経ったでしょうか、突然山道へ入り込みどんどん曲がりくねった山道を登っていきます。山の中腹くらいのところで道路脇にある大きな農家の広い中庭に車を止めました。どうやらここが夕食の場所だったようです。

夕方近くではありましたが、まだ周りは明るく夕食まで何をするのかと思っていたら、中庭に椅子を並べ始めました。いくつかお茶用のテーブルも椅子の間に置いて、促されるままに座りました。座って正面には深い谷を挟んで向かいの山の緑繁る木々が風景として見えました。手前は谷です。まるで東山魁夷の絵画を観ているようでした。

お茶が運ばれてきて各々がお茶を飲みながら日が暮れてくる山々を眺めていました。どこからともなく足元に寒気が漂ってくるのが分かりました。やっぱり山の夕方は寒くなるんだね〜と思っていると、目の前の山々の間にゆっくりと流れ込む霧もやが立ち込めてきました。おおおッ〜正しく東山魁夷の世界!と思って見惚れてると、風景はみるみる薄暗くなり、今度は山水画の世界になってきました。おおッ!これは凄い。この世の物とは思えないような美しさ、それも刻一刻と変化していく。視界に入るすべてが山水画を観ているような感覚。一緒に来た人たちは思い思いに美しいと言ってました。これは凄いものを見せてもらったと思うと同時に中国人の風流とはこのようなものかと思いました。

夕食は、母屋の中で質素な田舎料理を頂きました。1989〜90年当時です。素朴な中国人の客をもてなす気持ちに深く感動した経験でした。

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