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米国で生活していてもこの程度の分析で作家になのれるのでしょうか?

2016年11月19日の記事ですが、気になる作家でしたので記憶に残っています。今更ながらですが、過去の記事を読むとまったく政治家についても米国社会や、産業の将来も読めていなかったのではと思ってしまいます。逆にトランプがブレない信念の人であることや彼の先を見通す力は本物だったことが、この文章から理解できます。

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冷泉彰彦寄稿 
トランプ氏の政権運営がうまく行く可能性は◯割
2016.11.19 07:00AERA

外国人排斥や女性蔑視など、批判が集中する発言を繰り返しながらも勝った。なぜなのか。米国に在住する作家、冷泉彰彦氏に読み解いてもらった。

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 1年前までは単なる泡沫(ほうまつ)候補と思われていたドナルド・トランプ氏が、どうして巨大な民意を獲得したのか? そのメカニズムは、アメリカのメディアや専門家も十分に分析しきれていない。だが、一つ指摘できるのは、あの「暴言・放言スタイル」が明らかに支持されたということだ。

 では、トランプ氏の支持層は本当に人種差別を行おうとしたり、排外的な政策を実行したりしてもらいたいと思っているのだろうか? 確かに「不法移民は強制送還」であるとか「メキシコ国境に壁を造る」といった政策は危険な政策だ。そして、トランプ支持者はその主張を支持し続けたし、トランプ氏自身も1年半の選挙戦を通じて全くブレなかった。

●奇妙なほどのブレなさ
 ブレない姿勢というと一貫していて良いということになるが、トランプ氏の場合は、奇妙なほど徹底していた。例えば実際にメキシコを訪問して、面と向かってではないにしても、メキシコの大統領から「壁の建設には反対だしカネも出さない」という立場を明確に突きつけられた後も「壁を造る」と言い続け、そのカネはメキシコに負担させると言い、そして支持者は同じように喝采を送っていた。そのブレなさ加減というのは、明らかに不自然だ。

 もう一つ例を挙げると、トランプ氏は今回の選挙戦の以前から「オバマ大統領はアメリカ生まれでない」から「大統領になる資格がない」ということを言い続けていた。そして大統領が実際に出生証明書を提示しても、他の共和党政治家などが誰も言わなくなっても、この「大統領の出生地疑惑」を言い続けていた。そして支持者はそれに喝采を送っていたのだ。

 こうした「暴言・放言」に対しては、リベラル派に加えて共和党内の多くも批判を続けていた。「それは不可能だし誤っている」とか「事実でない」という「正論」による批判が何度も何度も繰り返された。

 そして、そのような「事実に反する」あるいは「実行不可能な」暴論を言い続けるトランプ氏と、その支持者に対して最後には「能力が低い」とか「教育水準が低い」という批判まで行われたし、ヒラリー・クリントン氏に至っては「どうしようもない人々だ」という批判まで行っている。

 だが、実際はそうではなかったのだ。トランプ氏の暴言・放言は、「文字通り」受け止めるべきものではなく、あくまで「現状への不満」という感情を表現する「比喩」に過ぎなかったのである。

 トランプ氏が繰り返した「壁を造る」というフレーズは、彼がメキシコに行って否定された後も変わらず言い続けられた。そこにはシリアスな政策論議の雰囲気はなく、お決まりのフレーズを打ち出して観衆が盛り上がるという、お得意のテレビショーを見ているようだった。自分たちが苦労している一方で、不法に越境してくる人々の権利が拡大することへの強い不満であり、オバマ大統領の出生疑惑についても「自分たち白人グループがついに権力の座から引きずり降ろされた」ことへの鬱積した不満の表現、それ以上でも以下でもなかったのだ。

●正論からの批判は不発
 それに対して、多くのメディアは、そしてヒラリー陣営は全く気づいていなかった。それどころか、一本調子で「正論からの批判」を行い、最後には侮蔑的な言葉まで浴びせたのだった。そこには絶望的な「ボタンの掛け違え」があった。

 その奥には、「知性だけが、知的職業だけが尊敬される」という先進国モデルへの反発があると思われる。自分たちは少なくとも「額に汗して働いてきた」が、そのような労働はどんどん外国に流れて、国内は知的な労働だけが富と名誉を独占しているという不満だ。そうした不満がある中で、トランプ氏は「私は教育水準が低い人々が大好きだ」というメッセージを発信し続け、一方でヒラリー氏は「ニューエコノミーを実現するためには学び直しの機会を無償提供する」という政策を大真面目で訴え続けた。単なる「毒舌トーク」は、そのような不思議な現象を生んでいったのである。

 では、トランプ支持者が実際に「教育水準が低い」のかというと、決してそうではなかった。だが、自分は少なくとも最高に知的な人間ではないし、知的な先端技術に関わっているのでも「ない」という人々は、トランプ氏のメッセージに吸い寄せられると同時に、ヒラリー氏の正論には反発を示したのである。そんな中で、製造業が斜陽となった「ラスト・ベルト」と言われるオハイオやペンシルベニアなどの中部の票が、予想を上回る勢いでトランプ氏に流れていったのだろう。

●多様性の否定は問題
 トランプ現象のことを「反知性運動」だという形容がされるが、「知的なるものへの敵意」があったり、破壊衝動があったりするのかというと、それは少し違う。そうであれば、中間層の支持を集められるわけがない。「知的ではない」自分たちにも「名誉」があるという「異議申し立て」が静かに行われたという面が大きいのではないだろうか。

 もちろん、これは正しいことではない。とりわけ、具体的にはほとんど政策の中身がないままで政権が選択されたということは深刻な問題であるし、アメリカという言葉を大切に開かれた社会をつくってきた国で、言葉が「象徴的な比喩」としてもてあそばれたということの弊害、そして「内輪だけの盛り上がり」を優先することで多様性の実現という「社会性」が否定されたことは大きな問題である。

 だが、その一方で、これからのグローバル社会では「先端的な知的労働」だけが評価され、それ以外の人々は再分配に期待するか、学び直しの遠回りをしないといけないという、ヒラリー氏が提案した「先進国モデル」が否定されたということの意味は、21世紀の世界に共通の課題としてもっと深刻に受け止められていいだろう。

 一つだけ救いがあるのは、トランプ氏の勝利宣言スピーチが、これまでの暴言・放言スタイルとは180度打って変わった慎重な内容だったことだ。特に冒頭で「分断の傷を克服し、団結を」と呼びかけたことは、この日のこのタイミングで正に「一番言わなくてはならない」ことを、最も適切な言い方で表現していた。退役軍人を大事にし、高速道路や学校などのインフラを再建するといった、これまでの共和党が言わなかったことも盛り込み、これまでの発言と矛盾しないよう、よく練り込まれたこともうかがわせる。このスピーチを聞いて、うまく政権を運営できる可能性も4割ぐらいはあるんじゃないかと思ったほどだ。

●和解への流れできた
 夜のうちに敗北演説が間に合わなかったヒラリー氏も、すぐにトランプ氏への電話で敗北を認め、一夜明けた9日の午前中のうちに立派な敗北宣言を行っている。選挙戦中は厳しい言葉でトランプ氏を批判し続けたオバマ大統領も、政権移行への協力を約束している。とりあえず、和解と協力への流れはできた。

 ここから先のプロセスで、自分たちが選挙戦を通じてもてあそんだ「言葉への信頼」や「共存できる社会的空間」をしっかり再建できるかが、その「和解」実現のかぎとなろう。最大の注目は、新政権の顔ぶれだ。有能な人材が適材適所に配置され、それこそレーガン政権のように大統領がその助言を聞いて政権のかじ取りをしていくのか、あるいは過去に冷遇されてきた異端の人材ばかりを集めて危険な判断が繰り返される政権となるのか、これからは一日一日の動きから目が離せない。(寄稿/冷泉彰彦氏)

■トランプ氏の勝利演説(抜粋)
 クリントン(前国務)長官からちょうど電話をもらった。彼女は我々の勝利を祝福した。私は彼女と家族に対して、とても激しく戦ったことをたたえた。

・米国は分断で広がった傷を修復する時だ。すべての共和党員、民主党員、無党派の人たちに言う。一つに団結した国民として一緒になる時だ。私はすべての米国民のための大統領になる。
・すべての米国民が潜在能力を発揮する機会を持てるだろう。この国で忘れ去られてきた人々が、もはや忘れられることはない。
・偉大な退役軍人を大事にする。我々の退役軍人は非常にすばらしい人たちだ。
・我々は、高速道路、橋、トンネル、空港、学校、病院を再建する。インフラを再建するのに、数百万人の国民に仕事を与える。
・世界に言いたい。我々は米国益を第一にするが、誰とでもフェアに取り組む。敵意ではなく共通点、紛争ではなくパートナーシップを追求する。

■トランプ氏の「問題」発言
・メキシコ人は麻薬や犯罪を持ち込む。メキシコは問題のある人間を(米国に)送り込んでいる。彼らは強姦犯だ。南部の国境に万里の長城を築く(2015年6月、米大統領選への出馬表明演説)
・イスラム教徒の米国への入国を全面的かつ完全に禁止する(15年12月、米国内での銃乱射事件後の声明)
・容疑者から情報を得るため、水責めをはるかに超える手段をとるべきだ(16年3月、ベルギーでの連続テロ後のテレビインタビュー)
・(日本の核保有は)米国にとっても悪いこととは限らない。我々が攻撃されても日本は何もする必要がないのに、日本が攻撃されれば米国は全力で防衛しないといけない。極めて一方的な合意だ(同、米紙インタビュー)
・美人にはすぐにキスをする。(中略)スターになれば、(女性は)何でもさせてくれる。性器をつかんだり(16年10月の米紙報道で発覚した05年の発言)

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