見出し画像

黒澤明監督作品『天国と地獄』を観る

1963年製作の映画です。用心棒(1961年)、椿三十郎(1962年)の後に製作されました。赤ひげ(1965年)がその後の作品になりますので、黒澤明が映画作家として充実していた時期の作品です。

物語(ネタバレです)は、株式会社ナショナル・シューズの権藤社長(三船敏郎演じる)の息子が誘拐されるところから始まります。しかし、実際に誘拐された子供は権藤社長の運転手の同年代の息子の方でした。誘拐犯からの脅迫電話には、間違ったことを認めながらも誰の息子かなんて関係ない、身代金を払わなければ子供の命はないと告げられます。これはスクープとして新聞に取り上げられます。他人の誘拐された子供の身代金をナショナル・シューズの社長が支払うかというのが話題にされます。

権藤社長は、創業者(義理の父)の下で丁稚奉公から靴職人として働き始めナショナル・シューズの社長まで上り詰めた叩き上げでした。しかし、他の取締役からは疎まれていたため株式の多数派工作で会社から追い出される危機にも直面していました。株買い占めのために準備していた金を誘拐の身代金に使うと次回の取締役会の動議で社長を解任されてしまう事情もありました。妻からたとえ貧乏暮らしでも平気だから運転手の子供の命を救ってくれと懇願される権藤社長は、貧乏暮らしがどんなものかお前は知らないからそんな事が言えるのだと反論していましたが、遂に一人で決断してしまいます。子供を助け、会社を追い出されても一から靴職人として再出発することを。

事件は犯人の要求に従って身代金を走行中の列車の窓から放り投げて渡すという手法で運転手の子供は無事解放されます。敏腕刑事(仲代達也演じる)の活躍で誘拐犯人がインターン医学生(山崎努演じる)だと突き止めて、最終的に逮捕します。一方、権藤社長は資金を身代金として使ったため株式買い占めができず、取締役会の動議によって解任され会社から追い出されてしまいます。既に腹を決めていたとこへ誘いが来て小さな靴製造会社で働き始めてました。警察が回収した身代金は犯人によって薬物購入で使われた分以外は戻ってきましたが、時既に遅く権藤氏は次の人生を始めていました。

クライマックスは、刑務所から犯人が依頼した権藤氏との面会シーンです。そこでは死刑判決にも平静を装いながら同情は無用と犯人から告げられます。金持ちには貧乏人の心は分からないと権藤氏の生い立ちも苦労も知らずに一方的に犯人から告げられます。権藤氏はずっと黙って犯人のブルジョア批判を聞いてからひと言「お前の人生はそんなに辛かったのか?」と言われ逆上した犯人が面接室の金網に体を叩き付けたところでシャッターが下ろされて終わります。

2時間半くらいの映画です。物語の面白さは当然ですが、映画撮影のカメラワークは圧巻です。特に本物の特急列車の中のシーンもです。また、身代金が入れられたバッグがごみ焼却炉で焼かれると火に反応する薬物との設定でピンク色の煙をだすのですが、この映画は白黒映画ですがこの煙だけピンク色で映されます。

黒澤映画のテーマは、強烈な正義感の存在だと思います。権藤氏を最後まで自身の思い込みによる逆恨みを通す誘拐犯と泣き言や恨み事を一切言わずに誘拐犯の話を聞く権藤氏の姿が対照的です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?