drink therapy

病院の帰りにすき家でもそもそと夕食を食べていたら
L字のカウンターの斜め向かいに座ってたアメリカ人と仲良くなって今池まで歩いて飲みに行ったこと

ジーパンにTシャツなご近所さんルックの(しかもコンビニで買った黒酢入りのビニール袋を椅子の横に置いてる)私が

この店におしぼりはないのかい?
と聞かれたのが始まり

見るもの全て新鮮で楽しいんだ!
と言わんばかりの期待に充ちた青い目と、
心も身体も疲れた少し錆びた目がバッチリ合えば、もう賽は投げられる

距離をはかりながら
アプリを使いながらお互いカタコトの言葉で
ぽつりぽつりと話す

名古屋にいい場所はある?

ギネスに登録されたプラネタリウムがありますよ
私の大好きな場所です

日本へは仕事で?

そうだよ、某所に。2日間だけ来てるんだ

未知というものへの期待に目を輝かせた知的で快活そうなその人は
あまりにも美味しそうに
すき家のうなぎを食べてビールを飲む

それを眺めていたらついつい
楽しいことがありそうだ
とふわっと思わせられる

なんとなく打ち解けた雰囲気に負けて
あからさまに 飲みに行こう!と訴えてる目に
応えて自分もビールを頼めば締結
自分は英語に苦心しながら
楽しいと感じてもらえそうなお店はあるかと
考えを巡らせるだけだ
ちなみにこの間、
彼の容姿か、近くに座る学生からの視線にどう対処したものかとも逡巡した

すき家を飛び出して
日本語の先生と英語の先生は
音楽とお酒のある場所求めて三千里

一件目のBARは貸切で入れず
二件目は思っていた雰囲気と違うので申し訳程度にジンライム一杯だけ飲んで退散
以前うつで退職したことを話したら
グラスを持って、drink therapy
と粋な言い回し。
なにそれかっこいい真似したい!

道中では前後左右の日本語を教えた
発音しづらそうに、でも楽しそうに
ミィギ!ヒデャリ!と方々に指を指す

straightは?
と聞かれたときはうっかり

真っ直ぐ

と答えてしまったが、響きが気に入ったのか
マッチュグ!マッツグ!マッスグ!と
さらにキラキラした顔になっていく
道行く人の視線なんぞも真っ直ぐになぎ倒して進んでいく

そうだ、未知のことに挑むのは、学ぶことは
とても楽しいことだった
そして視線に関して考えることを私は放棄した

行き着いた先は地元の人が集まるフリーライブBAR
観ることもできるし
少額のお金を払えば時間をもらって自分もステージに上がれる

老若男女が個性豊かな音楽表現をする
ボイスエフェクターを使って一人デュエットをするお兄さん
思い出の曲をフルートで演奏するお爺さん
まるでコンクールに出ているかのような面持ちでピアノで弾き語りする女子大生

なぜかずっと二人でジンを飲みながら
不思議な
面白楽しい、新鮮な時間を過ごす
彼は気に入ったようで眼鏡を取り出し
真剣に見入ってお酒をおかわりをしている
彼は吟味するようにカーペンターズを歌ってるデュオを眺める
私はなんですき家入る前にコンビニ寄ったんだろう、、、と、楽しいが故に思う

縁もたけなわ、夜が耽ければ朝も近づく
帰路は少し疲れた足取りと
心地よい夜風に揺られてまたぽつりぽつりと
話しながら歩く

彼は確かめるように
今夜覚えた日本語を繰り返す
自分はその発音をテストする

すれ違う人の視線はもう慣れた
映画に出てくる俳優のような造形に長身
色も白くて綺麗な碧眼
そりゃあみんな見るわ!
それに対して
隣にはラフな格好にビニール袋下げてるただの日本人

思い返しても笑ってしまうくらい凸凹コンビだ

偶然自宅までの帰り道に彼のホテルがあったのでその前でバイバイ

部屋に来ないかと言われたけれど、
一応異性なので遠慮する

肩を抱かれ イキマセンカ
と丁寧に顔を近づけられても
要望には応えられない

恋人がいるから、と納得してもらい
good luck
自分も翌日予定があったのでもう会えない
なんだか寂しく、申し訳ないことをした気分であった

その後Facebookのメッセージをくれた
彼にとって私はただの暇つぶしだったであろうと思っていた私は 今日はありがとう、楽しかったです。と定型文で返そうとしたが
彼がくれた気づきや、くすんでいた感性に色を与えてくれたことを思い出し、とても感謝した。

きっとジンライムを飲むときは
この出来事を思い出す
そしてその時の自分に苦笑し、
また英語を勉強してやろう!
と息巻くんだろう。

同時に、あのキラキラした瞳が曇りませんように
と。ふと感謝を持ちながら祈るんだろう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?