Dancemania SPEEDの歴史24~HAPPY SPEED~

"HAPPY SPEED" The BEST of Dancemania SPEED G
苦味ある総決算

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2007年4月18日発売


3度目のリスナーリクエストを行い生まれた3枚目のベスト盤……にして、一応のSPEEDシリーズ最終作。この6年後に演歌SPEEDがリリースされますが、多分ほぼ全てのリスナーは演歌SPEEDをシリーズには含まないと思うので、今作を最終作ということにしておきます。

今作は今までと違いウェブ投票で、しかも「SPEED Gシリーズ」を対象とした範囲に曲が限られていました。しかしその中には中期ベスト「SPEED G」も含まれていたため、結局はSPEED G収録の初期・中期曲も入ることに。

投票結果による上位30曲と、新規収録5曲を含めた35曲で構成され……ていますが、ウェブ投票そのものの不確実さや、後期後半のリスナーの求めた方向性でないサブシリーズのリリース等もあり、今作のラインナップも一部納得の行かない選出が多くのリスナーにあったことと思われます。
(特定のレーベルだけ多すぎるんじゃないかとか、再録しすぎな曲があるんじゃないかとか……)

今作はリクエスト順位の記載が無いため、普通にレーベル毎にピックアップしていきます。曲順はいつものようにDiscogsで確認してください


SAIFAM
03.GASOLINA(G5)
04.Layla(G2)
06.Heaven Is A Place On Earth(G)
07.Up(G5)
08.Wuki Wuki(G4)
12.SENORITA(G)
20.Bring Me To Life(G2)
21.Here I Am(G4)
26.Have A Nice Day(DRIVE)
31.The Terminator(SFX)
32.Toxic(G4)
33.Crazy In Love(G2)
34.A Thousand Miles(G2)


Runaway
14.Turn Me On(G4)
15.Dilemma(G4)
16.All The Things She Said(G2)
25.Sk8er Boi(G2)


LED
24.Amazing Grace(G3)


リミックス
01.残酷な天使のテーゼ(Quiqman Mix)(アニメNewtype)
09.Give Me Up(Happy Grandale Mix)(G2)
13.B4U(B4 ZA BEAT Mix)(G)
17.Moonlight Shadow(KCP Remix)(G)
18.Butterfly(Upswing Mix)(G)
19.CELEBRATE NITE(Planet Lution Mix)(G2)
23.Domo Domo Domo(KCP Remix)(G2)
35.CANDY☆(Planet Remix)(G)


ハードコア
27.My Life(G3)
28.Angel Eyes(G2)
29.POISONOUS(G5)
30.Echo Of Heaven(G5)


内訳を一覧にすると

SAIFAM13曲
Runaway4曲
LED1曲
リミックス8曲
ハードコア4曲


完全にSAIFAMの独壇場。何なら新規収録5曲も全部SAIFAMなので、35曲中計18曲、このアルバムの半分以上がSAIFAMです。

選ばれた13曲ズラーッと見てみても、入っているのが疑問視されるような曲も特に無く、あったとして「代わりにこれ入れてくれよ」と挙がる曲も大体SAIFAMという。

(完全に筆者の好みですが、Let's GrooveNever Ending Story太陽にほえろ!メインテーマダンシング・シスターGuerrilla Radio等も入っていたらより嬉しかったです)

中期SPEED Gの時点で相当な人気ではありましたが、後期はもう疑うまでもなく、SPEEDの主役をSAIFAMが担っていたことが改めて証明されました。


Runawayはある意味何も変わらぬマイペースっぷりで、今作もしっかりと4曲収録。サブシリーズでは無難なアレンジが多くあまり見せ場を作れなかった分、この4曲はG2、G4でそれぞれトップクラスの人気を得た、間違いのないハイエンドクオリティサウンド。

SAIFAMの綺羅びやかさに埋もれることなく、SPEEDシリーズにRunawayありとリスナーにしっかり印象付けました。


LEDは残念ながらSPEED Gと同じく1曲のみの収録。順位が開示されていないのでAmazing Graceがどの程度支持を得たかわかりませんが、やはりこってりめのユーロビートが人を選んでしまった結果でしょうか。

それでもGonna Fly Now恋はあせらずENDORPHINMACHINE等が入っていれば、アルバムそのものがより「派手」に輝けたかもしれません。


リミックス枠はG2の3曲と残酷な天使のテーゼ以外、全てGからの再録(Butterflyは再再録)曲。この時期になるともう「Butterfly飽きた」と文句を言う人も少なく、そもそも後期は新規リミックス自体殆ど無かったため、ある程度しょうがないことだと理解を示す人も多かった記憶があります。

残酷な天使のテーゼ(とDomo Domo Domo)はベスト盤に初めて入る日本語歌詞曲。Quiqman柴田氏のアレンジや日本語歌詞は良くも悪くも本編シリーズとは空気が違うため、トップバッターに据えたこの構成は、曲知名度等を抜きにしてもナイスな判断でした。


ハードコア楽曲は少なめの4曲。Angel EyesMy LifePOISONOUSEcho of Heavenと納得せざるを得ない面子なものの、ここに24-7Tyme 2が入っていないのは勿体無い(個人的にはAirheadHardcore OverdozeMagical Rainbowも欲しかった)。

SPEED Gでも同じく4曲でしたがあの時はBEST OF HARDCOREがあったため、G2~G5の上質なハードコア楽曲の行き場が他になかったのがやるせなく感じます。


作品別に分けると、

G6曲
G210曲
G32曲
G45曲
G54曲
サブ3曲


完成度の高さを反映するかのように、G2から大量の10曲収録。しかし個性の強い曲が多いはずのG3からは2曲しか入らず、Gのリミックス再録曲に枠を奪われた結果もあるかと思われます。

サブシリーズも(後期では)9枚も出したというのに、たった3曲しか入らないのは中々にシビア。……まあ、サブシリーズの枠を増やしたとこで、入るのはSAIFAM曲だろうとは容易に想像出来てしまいますが。



リクエスト30曲については以上で、次は新規収録のSAIFAM5曲をご紹介。


02.London Bridge(Speed Version) / SPEEDMASATER
05.Bad Day(Boom Boom Speedy Mix) / SPEEDOGANG feat.Lawrence
10.COCO ROCK(Factory Hyper Mix) / Jenny Rom
11.The Magnificent Seven(Speed Bubble Mix) / Jenny Rom
22.You Raise Me Up(Speedomix) / SPEEDOGANG feat.Interface


London BridgeBad Dayはそれぞれ当時のヒット曲のスピードアレンジ。「ベスト盤にその時話題の曲を」という方針は変わらず、SAIFAMらしい卓越した高速カバーが安心感を与えてくれます。



またオリジナル楽曲のCOCO ROCKThe Magnificent SevenというJenny Rom曲が2つも収録されました。COCO ROCKはHanky PankyとRobin Robin Hoodを掛け合わせたようなタイプで、どちらかと言えば激しめな曲調。


The Magnificent Sevenはカントリーテイストの入った、IKA UKAとBE MY COWBOYを混ぜ合わせたような曲で、(どっちも好きだという人が一番多いでしょうが)COCO ROCKとどちらが好きかで真っ二つに割れるくらい、どちらも完成された一曲です。


G5が出たのが2005年の9月、今作が2007年の4月ということで、通例だと2006年の3月、9月にそれぞれG6G7が出ていてもおかしくありませんでした。ジェニーロムの2曲は、そんな「SPEED G6~」を想定してSAIFAMが作っていたのだと思われます。

SAIFAMの場合は未収録曲も後々ダウンロード販売等で世には出ますが、EMI的にはせっかく作ってくれたんならベスト盤にそのまま入れてしまえ、という感覚だったのかもしれません。事情はどうあれG5から1年半ぶりにJenny Rom新曲が、しかも2つも聴けるというのは有り難いことです。


そしてSPEEDシリーズ最後の新曲となるのが、22曲目You Raise Me Up。ケルティック・ウーマンのアレンジと荒川静香選手のイナバウアーとで日本中に大旋風を巻き起こした、まさにベスト盤に相応しいメモリアルなナンバー。原曲の神々しさを再現するボーカルやリフで、今作に特大の特別感をもたらしてくれました。


以上35曲が収録され、ベスト盤にしては曲目に納得の行かない面もありますが、とりあえずは後期を代表する曲たちが並びました。

……しかし、実は今作にはベスト盤らしからぬ「粗」が存在します。それは主に構成について。今作は直近のSPEED武勇伝から引き続きQuiqman柴田氏がノンストップミックスを担当し、また裏方作業はアニメSPEED参加のGeorge鈴木氏やVenturaメンバーが行いました。

それが要因か、まずBPMが非常に速く全曲がBPM190前後に引き上げられました。GASOLINAA Thousand MilesはそもそもそのBPM帯なので良いものの、それ以外のBPM170帯でアレンジされた曲は、かなりの割合で慌ただしく聴こえてしまうかもしれません。

また森田氏含めKCPが全く関わらなくなったことが原因か、SPEED GのI Do I Do I Doで見せたような各曲の新規展開等は一切無く、むしろ曲によっては「流用」が露骨に見えてしまう部分も。

一番わかり易いのはラストナンバーCANDY☆。最後の最後、曲の終わりで「ワァーオ(ワァーオ)」とシャウトが入りますが、このシャウトはSPEED GのAserejeのボーカルであり、要するにCANDY☆だけのセパレート音源が無いので、SPEED Gの(Aserejeに繋がってる)ものをそのまま流用しているのです。

流用するにしてもSPEED 10収録の綺麗に終わっているバージョンを使えば良さそうなものですが、「Gシリーズのベスト」ということで、G収録バージョンを使うようにEMIから指定が入ったのかもしれません。気にならない人は全く気にならないでしょうが、逆にヘビーリスナーからしたら気になって仕方ない部分でしょう。

ただハードコア楽曲に関しては(フルバージョンが普通に出回っているものもあるため)本編シリーズに無いパートを流す等の工夫も見られます。


このように構成の面で色々と「粗」は見えるものの、立ち上げメンバー不在でノウハウが無く、しかも元音源の提供も無い……とあっては、柴田氏やVenturaを責めるのも酷な話です。今までどおりのパターンで作られた後期ベストを望める環境では無かったことは、SPEEDRIVE武勇伝を見るだけでも察せてしまいます。



いわゆる後ろ向きにポジティブな意見となってしまいますが、正直今作に関しては、G5同様「出してくれただけ有り難い」という言葉に全てが集約されるのでは。

メインシリーズですら、2006年8月の10周年記念ベスト盤"TREASURE"以降何も音沙汰が無く、その代わりEMIはスマッシュヒットを飛ばしたTRANCE PARADISE姫トラシリーズに注力し始め、2007年時点でDancemaniaシリーズは完全に"おざなり"となっていました。

人気が落ちてタイミング的にちょうど良いということもあり、TREASUREで良い一区切りだと判断され、Dancemaniaシリーズそのものが2006年8月で畳まれていても何もおかしくない状況だったのです。

そんな中でリリースされた今作。ブックレットにFuture Releaseの欄は当然無く、実際今作の次に「Dancemania」の名を冠したCDが発売されるのは4年後の2011年Dancemania Sparkle)。

本編G5から1年半が経ち、Dancemaniaの名も付かないサブシリーズだけが出続ける暗中模索の中で、今作はSPEEDシリーズとしてだけでなく、「Dancemania」シリーズの最後の砦として、本当の意味で綺麗な一区切りを付ける作品となれたのではないでしょうか。

SPEEDシリーズ後期ベストかつ(復活前の)最後のDancemania作品という総決算としては、本当に「出してくれただけで有り難い」くらい、その役目を果たせていたと思います。



今作をもって、SPEEDシリーズは9年に及ぶその歴史に幕を下ろしました。人気絶頂期であった初期・中期と比べてしまうと、HAPPY SPEEDは苦味の残るベスト盤であり、シリーズ最後の作品として中途半端な部分もありました。

しかし人気低迷の中、決して有耶無耶なまま終わることなく、SPEEDシリーズに形の上でちゃんと有終の美を飾らせることが出来た、まさしく「存在することに価値がある」作品となりました。

もちろんSAIFAM筆頭に高クオリティのアレンジが目白押しなので、SPEEDシリーズ初心者にも(テンポに振り落とされなければ)おすすめ出来る一枚でしょう。この「終わり」の作品をきっかけに、SPEEDシリーズを「始め」るというのも、中々オツなものかもしれません。

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