COVID-19-ARDSにフェノタイプはあるのか?

Summary

COVID-19に関する現在の知見のほとんどは記述研究に基づく.
COVID-19の「表現型:フェのタイプ」は記述研究から,機械的換気戦略に関する議論につながっている.
フェノタイプを示唆する記述研究はまだ1つしかなく,最近の記述研究では通常のARDSと類似した呼吸生理であったことを報告している.
COVID-19にほんとうにフェノタイプがあるかは現時点ではわからない.
あえて戦略を変える必然性はないように思う

Introduction

はじめてコロナウイルス2019(COVID-19)の人工呼吸器管理をした時は非常に違和感を覚えたのを今でも覚えている.普段臨床で遭遇するARDS(急性呼吸促迫症候群)と違う感覚があったからだ.

肺炎,敗血症,誤嚥を起こすと,様々なメカニズムにより,ARDSというより悪い肺の状態を引き起こすことが知られている.COVID-19でも通常のARDSの治療戦略にのっとり,鎮静,腹臥位療法などの機械的換気戦略をICUで行っている.

最近のケースシリーズ

COVID-19で機械的人工呼吸となった患者を対象としたケースシリーズ研究では66人の機械的換気患者の転帰が報告された(Ziehrら2020年).人工呼吸患者は年齢58歳,7/10が男性,1/3が喫煙者,半分で高血圧,25%で糖尿病が併存していた.

人工呼吸管理後のPEEPは(中央値10cm H2O; IQR 8-12),プラトー圧(中央値21; IQR 19-26)で約半数で腹臥位療法が行われ酸素化とコンプライアンスの改善が診られたと報告している.筋弛緩の投与は1/3程度であった.追跡期間の中央値は34日で,死亡は1/6であった.

COVID19-ARDSはいつものARDSと違うのか?

私がCOVID19を診た時に驚いたことは,低酸素であるにも関わらず,コンプライアンスが非常に良いことであった.コンプライアンスとは肺の硬さを意味し,通常のARDSでは炎症により肺が固くなり,人工呼吸器でより強い圧力をかけないと肺が膨らまないということをよく経験する.私が始めてみた患者ではこれがなかったのだ.イタリアの専門科からも同様の意見があり,普段のARDSとは違うのでは?というのがホット・トピックになっている.

これまでの話ではCOVID-19のARDSは非COVID ARDSと比較して呼吸力学(特にコンプライアンス)を維持しているのではないかとの推測がされていた.しかしそのようなコンプライアンが良いARDSの経験は個人としては2例程度であり,これは偶然そういう症例だったのか,COVID19-ARDSではこういうフェノタイプがあるのかはわかっていない.

ZiehrらによるコホートはではCOVID-19患者の呼吸整理力学に関しても報告している.しかし,このコホートでは肺コンプライアンスがしっかり低下していた(35mL/cm H2O).

コンプライアンスが良いことを報告していたコホートにおける死亡割合は以前に報告されたものよりもはるかに低く,早期に人工呼吸管理が始まったためにコンプライアンスが良いだけなのかもしれない(Bhatrajuら2020、Grasselliら2020).COVID-19ではエアロゾル発生を避けるため,高流量鼻カニューレが使用できなかったため,他のコホートと比較して,患者の重症度が低い状態で挿管されたためコンプライアンスが良い状態を見ていたのかもしれない.

COVID19-ARDSのLとH

COVID19-ARDSの表現型はL typeとH typeに分かれるという仮説がある.

Low type
初期の症状は全て低い (low) L のが特徴
• Low elastance 肺内含気は正常でコンプライアンスも正常
• Low ventilation/perfusion (V/Q) ratio 肺循環障害のために低酸素血症
• Low lung weight 肺水腫が生じていない
• Low lung recruitability リクルートする無気肺なし

H type
• High elastance (肺水腫で含気が減少し,コンプライアンスも減少)
• High right-to-left shut シャント血流の増加による低酸素血症
• High lung weight 肺水腫のために重症 ARDS 並みの肺重量
• High lung recruitability 含気の無い肺組織はリクルート可能

COVID-19 ARDSの表現型については,多くの議論がなされてきた(Gattinoniら2020;Marini & Gattinoni 2020).彼らは,2つの表現型では異なる治療戦略を必要とすると主張している.

しかしながら,これらの表現型の存在を支持するデータは16人の患者の単一の症例シリーズに限定されている(Gattinoni et al. 2020).さらに,これらの表現型の特徴に基づいて機械的換気戦略が変更されるべきであるという主張を支持するランダム化試験はない.

COVIDのフェノタイプはあるのか?

早期挿管するようになっているため,時相のズレ,COVID19の挿管患者が比較的若い年齢をにていること,これらの要素もありそうである.

Ziehrらのケースシリーズでは通常のARDS戦略で良い結果を残しており,まだ存在証明もされていないL-type, H-typeに固執して戦略を変更する必要はないのかもしれない.

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