SARS-CoV-2の起源はどこか

Summary

SARS-CoV-2 はコウモリのコロナウイルスであるBatCoV RaTG13と全ゲノムの96%が一致している.
SARS-CoV-2とBatCoVの主な違いは,宿主受容体ACE2との結合に必要なスパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)に局在していることである.
SARS-CoV-2のRBDは,中国でのパンデミックの発生源に近い地域に生息するパンゴリン(pangolin: サンゼンコウ.アルマジロみたいな生き物)から発見されたコロナウイルスと関連していると考えられている.
SARS-CoV-2はコウモリのコロナウイルスとパンゴリンのコウウイルスから発生した可能性が極めて高いと考えられている.
SARS-CoV-2が人為的なものであることを示唆する科学的根拠は今の所ない.

SARS-CoV-2とは

SARS-CoV-2は,コロナウイルス科の一本鎖のプラス(またはポジティブセンス)RNAウイルスである.コロナウイルス(CoV)は,多様な種類のウイルスで,人間を含む様々な動物に感染することがわかっている.アメリカではSARS-CoV-2の飼い犬への感染の報告が存在する.

CoVは、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタの4つの属に細分化されており,アルファCoVとベータCoVは哺乳類に感染し,ガンマとデルタは鳥類に感染する.SARS-CoV-2は、MERS-CoVやSARS-CoVと同様、ベータCoVに属するで.SARS-CoV-2とSARS-CoVは樹形図的には異なる亜属に属している.

ウイルスの起源はキー遺伝子である RNA 依存性 RNA ポリメラーゼ(RdRp)の違いによって定義される.ウイルスの侵入に重要な因子でありワクチンのターゲットでもあるスパイク("S")タンパク質の配列変化を調べることによっても,ウイルスの起源に関する重要な情報が得られる可能性がある.

まだいくつかの議論があるが,SARS-CoV-2が感染するメカニズムには少なくとも2つのメカニズムが考えられている.1つはウイルスSタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)が宿主細胞の細胞表面のACE2タンパク質に結合するメカニズム.この点でSARS-CoV-2は、SARS-CoV-1とはSタンパク質で異なっている.2つ目はSタンパク質を媒介としない場合にエンドサイトーシスによって宿主に感染するメカニズムが考えられている.

SARS-CoV-2は結局どこから来たのか?

コロナウイルス感染症では中間宿主ー最終宿主から人への感染を起こすようになりその後人ー人感染を起こすと考えられている.SARS と MERS では,配列解析の結果,コウモリが最終宿主であることが判明している.さらにさかのぼり,SARS-CoVではCivet cat (ジャコウネコ)が中間宿主となり,MERS-CoVではラクダが中間宿主であった.このような経緯から,SARS-CoV-2についても同様の宿主パターンが存在すると考えられる.

SARS-CoV-2の起源は遺伝的相同性の解析,特にSタンパク質受容体結合ドメイン(RBD)とS1/S2切断部位の研究から推論されている.SARS-CoV-2は,コウモリが持つコロナウイルスBatCoV RaTG13と96%のゲノムが一致している.つまり,今回のSARS-CoV-2はコウモリ由来であるという仮説が有力である.

SARS-CoV-2はコウモリCoVとパンゴリンCoVの遺伝子組み換えで発生した?

しかし,4%違いはなんだろうか.

このウイルスの亜属(SARS-CoVとSARS-CoV-2)は,遺伝子組換えがよく起きることがよく知られている.SARS-CoV-2のRBDは,中国でのパンデミックの起源と思われる武漢の近くに生息するマラヤのパンゴリンから単離されたコロナウイルスの配列に極めて近いと言われている(Zhang, Wu, and Zhang 2020; Xiao et al. 2020).偶然にこれらが一致する確率は極めて低く,コウモリCoVとパンゴリンCoVの遺伝子組み換えで起こったと考えるのがより合理的である.

これらを支持する研究が報告されている.パンゴリンCoVでは現在SARS-CoV-2のヒト感染により確認される,肺に重症びまん性肺胞障害を起こ,肺胞には,ヘモシデリン色素を持つ脱落した上皮細胞と一部のマクロファージで埋め尽くされ,肺胞が虚脱する.つまり,コウモリCoVがパンゴリンに感染し,その後組換えイベントを経て現在のSARS-CoV-2の起源が発生したと考えられている(Hon et al. 2008; Lam et al. 2020).

SARS-CoV-2の起源に関するまとめ

SARS-CoV-2の起源として,ちまたでは陰謀論が囁かれ,中国の研究施設からのバイオハザード,アメリカでは諜報機関が決定的な証拠をみつけた!などの情報が錯綜しているが,このように科学的な見解としては,SARS-CoV-2は.動物性コロナウイルスの遺伝子組換えによって出現したと考えられている.

今後の研究でさらにSARS-CoV-2に関する詳細な情報が提供されるようになるだろう.

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