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Spetsnazサロン 第30夜

第30夜 名も知らぬ虫

朝は5:30に目を覚まし、起き抜けに近いまま車に乗り込む。11月16日にスタートした禁オナニは今日でめでたく8日目を迎えた。
通勤時間は車で約一時間。最近は会社近くの道路で長期の謎工事が行われており、犬も食わないひどい渋滞がデフォルトなのだが、私には専属のドライバーがいるため、移動時間は基本的に後部座席で睡眠をする。歳のせいとはいいたくないが、10代20代のような睡眠のとり方はもうできない。私の身体はもう1.2時間の小刻みな睡眠を繰り返しながら、人間として一日に必要な睡眠時間を取得する他なくなってしまった。故に睡眠は常に浅く、心なしか夢を見る機会も増えた気がする。しかしながらその夢は、かつて見ていた夢とは大きく趣を異にする。やたらと現実的で、整然とした夢。これから会社でやらないといけない仕事がそのまま夢となっていたり、何ひとつおもしろくない。夢ってもっと意味不明で、脈絡もなくて、ファンタジックだったはずだ。

車の後部座席での睡眠について語らせたら、おそらく私は質も量もかなりのレベルの話ができる。そこらへんの輩とはまるでステージが違う。しかし車の後部座席での睡眠については、おそらく誰も興味無いはずなので、あえてしない。ここで語りたいことは、私が車の後部座席で危うく射精しそうになった事件についてである。これは禁オナニ生活7日目の朝の話である。

私が通勤に使用する車は三菱のパジェロスポーツ。三菱が世界に誇るクロスオーバーSUVである。私はパジェロの後部座席のリクライニングを目いっぱい後ろに倒し、そして助手席のリクライニングを目いっぱい前に倒し、下図のような恰好で車のシートと一体化するスタイルで睡眠をとる。

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※後部座席でシートと一体化する私。「効果的な後部座席の睡眠方法」として私の中だけで世紀の大発見であった。

寝心地が良いかと問われれば良いわけがない。良いわけがないが、このスタイルが一番しっくりくる。タイの道路は日本のようにきれいに舗装されていないため、揺れがかなり激しい。この格好をとることで車と一体化し、揺れを揺れとして認識しないという私が考案したスタイルだ。そして、おどろくかもしれないが、タイには信号がほとんど存在しない。信号の代わりに、道路にはスピードを落として通過しないと大バウンドを起こす凹凸が恣意的に設けられており、バカの暴走をけん制している。私の専属ドライバーは、私が快適な睡眠を少しでも長くとれるよういつも安全でスマートな運転をしてくれる。名をディオ(Dio)という。予め伝えるが、ディオについてはこの話以後一切語るつもりはない。名がディオというだけのただのタイ人のおっさんだ。語ることもない。ディオがスマートな運転を心掛けたところで細かい凹凸は普通に存在するので、いくら三菱が世界に誇るクロスオーバーSUVの高性能サスペンションをもってしても歯が立たず、パジェロは常に細かい振動を帯びながら走ることを余儀なくされる。こうなるとパジェロではなく、バイブだ(※バイブではない)。私の通勤時のベッドはバイブなのである(※バイブではない)。察しの良い方はもうお分かりだろうが、この巨大なバイブ(※バイブではない)に横たわった私の、数日間に渡って射精抑制された男根は、往年の大女優・乃亜の指先テクニックのような繊細でいて且つ暴力的な手コキ(※手コキではない)にオッキせざるを得ない状況なのである。正常にオナニを繰り返していた時にはこんなこと気づきもしなかった。ここは天国だ。高級メンズヘルスだ(※メンズヘルスではない)。

人生は発見と失敗の繰り返しである。成功や幸福は求めた時には決して現れはしない。馬券の予想も同じだ。長い時間をかけて熟考した予想が大成功した試しはなく、適当に頭に置いたナーゲルリングほど単万でゴール板を一着で駆け抜けてしまうものなのだ。世界で一番気持ちのいいオナニの方法は、奇しくも禁オナニによって発明されてしまった。ともすれば果ててしまいそうな快感に文字通り踊らされながら、私は夏休みにボーイスカウトで参加した長期キャンプin無人島の4日目、我慢ができずに名も知らぬ虫の交尾を見ながらオナニをした17歳の頃を思い出していた。

《続く》


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