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 男(雅人27歳)が、木製の椅子にガムテープでくくりつけられている。

※腕は後ろで、背中の映像からスタート、犯人の顔も映さない。

雅人

「なにか思いついたのか?」

※呆れた様子で下を見ながら。

 雅人は伸び切った髪を垂らしながら、目の前に立つ男(犯人30歳)に冷静に問う。

犯人

「こんなのはどうだ。おまえは道を歩いていた、そこである重要な国家機密を耳にしてしまった。その情報には三億円の価値があって、それを俺はおまえから聞き出した。バラされたくなければ三億円を用意しろ」

※自慢げに。

雅人

「いやいや、無理があるだろう。三億円の情報ってどんな情報だよ」

犯人

「そ、それは」

雅人

「思いつかないんだろ。駄目だ。別のものにしよう。それよりなんで三億円なんだよ」


犯人

「いや、なんとなく三億円って数字が思い浮かんだんだ」


雅人

「おまえは馬鹿なのか」


犯人

「失礼なやつだな。人質になってることを理解してないのか」


雅人

「アホか、おまえが勢いで警察を呼んじまったせいで、このアパートの前には大量の警官が来てるんだぞ。俺を殺しちまえばおまえを守るものはなにもなくなる。おまえは捕まるだけだ。おまえは俺を傷付けられない」


犯人

「確かにそうだ。悪かった。引き続き協力してくれ。三億円を二人で分けよう」

※悔しそうに。


雅人

「俺の考えはこうだ。俺は今三億円の価値があるプラットフォームを製作中だということにする。あと一歩で完成というところだ。おまえに無理矢理そのプラットフォームを奪われることになった。だが、三億円の身代金を用意すれば、この人質を殺さずに開放してやろうと言え」

※真剣な眼差しで。


犯人

「どこにそんなプラットフォームが作れるような環境があるんだよ!パソコン一つないじゃないか!」

※強めに、突っ込むような感じで。


雅人

「騙せないか」

※ため息。


犯人

「騙せるわけないだろう!」


雅人

「ところでおまえ、なんで俺をこんな目に合わせてるんだよ。殺し屋かなにかか?」


犯人

「それには深いわけがあるんだ」


雅人

「なんだよ」

犯人

「俺はしがないサラリーマンで、、、」

※沈黙、空を見つめる。


雅人

「え、なんで黙るんだよ。え、もくもく出てきた?回想?」

※周りをキョロキョロ。


犯人

「冗談だ。冗談」

※少しだけにやけながら話を続ける。


犯人

「30歳にもなって営業成績が悪くて、上司に毎日怒られていて、こんな自分はダメ人間なんだと思っているんだ。自暴自棄になった俺はこのアパートのベランダで干し物をしている女の子を見つけたんだ」

※映像を入れる。

※アパートの一階のベランダで下着を干してる女の子。

※それを見つめる犯人。


雅人

「回想シーンきたぞ」

※声だけいれる。


犯人

「俺は呼び鈴を鳴らし、俺に気付いてもらおうと思ったんだ」

※声だけ。

※映像。

※犯人は部屋のドアの前に立つ。


ガチャ(効果音)


雅人

「どちら様…」

※雅人は犯人を見上げる。


犯人

「やばい」

※犯人は雅人の口を手で塞ぎ力ずくで椅子にガムテープでくくりつけた。

※コミカルな感じで(早送り)。

※怖さを出さないように気をつける。

※回想シーン終わり


雅人

「おまえ、部屋間違えてよかったな。危うくとんでもない犯罪を犯すところだったぞ」


犯人

「そうだよな。今までこんな感情が芽生えたことはなかった。俺はおかしくなっていたんだと思う」


雅人

「まあ今の状況もだいぶ危ういけどな。さあ次はおまえのアイディアの番だぞ」

※雅人は犯人を顎で指した。


犯人

「それならこんなのは。刑事さんあなたの娘は預かった。返してほしければ三億円を用意しろ」

雅人

「おまえ何人人質を取るつもりだよ。飛び込みで入ったのにいつのまに刑事さんの娘さん誘拐してたんだよ」

※呆れた顔で。


犯人

「これならいけそうじゃないか?」

※食い気味で。


雅人

「いけるわけないだろう。お嫁さんに電話されたらどうする?すぐにバレるぞ」

犯人

「シングルファーザーでも?」


雅人

「おまえは、本当に馬鹿なんだな。おまえと三億円を半分なんてありえない。俺が6割はもらう」

犯人

「そんなの許されるわけないだろう。俺が6割でおまえが5割だ」

※雅人は盛大なため息をはく。


雅人

「次は俺だ。」


犯人

「まて、良いことを思いついた」

※ひらめき顔で。

犯人

「おまえの親を呼ぶのはどうだ?おまえの親に三億円の身代金を要求したら?」


雅人

「ふざけんな。良いわけ無いだろう。自分のお母さんから三億円ぶんどっちまう息子がどこにいるんだよ」

※強めに言う。


犯人

「誰も母親からなんていってねえよ。おまえんちシングルマザーだったんだな」

※哀しそうな顔。


雅人

「とにかく俺の番だ。単純な作戦だ。おまえが三億円がほしいから人質をとったことにすればいいんだ。人質を開放してほしければ三億円をくれ。これが正解だろう」

※得意げな顔

犯人

「おまえ、天才だな。それでいこう」


 タイミングよく外の刑事らが拡声器を使い、説得を開始した。


刑事

「おい。犯人。おまえの要求を言え」

※拡声器をベランダに向ける。

※ベランダの窓が空き、部屋の中から犯人と椅子にガムテープでぐるぐる巻きの雅人が出てくるが、ベランダの塀のせいで雅人は頭しか見えない。


犯人

「お、俺の要求は...」

※2秒の沈黙の後窓を勢いよく閉める。

犯人

「なんて言うんだっけ」

※焦り声

 焦った声で雅人に聞いた。


雅人

「人質を解放してほしければ、三億円用意しろ。だ」

※言い聞かせるように。


犯人

「わ、分かった」

※窓を開ける。

犯人

「ひ、人質をか、解放してほしければ三億円用意しろ」

※恥ずかしそうに。


ピシャ!

※窓を勢いよく閉める。

※犯人は雅人に背を向ける。

※恥ずかしそうに。


雅人

「おまえ今恥ずかしがったろ」

※嘲笑うように。


犯人

「三億円なんて言葉、初めて人に向かって使ったわ」

※呼吸荒く。


雅人

「それより、いちいち窓を閉めるのか?」


犯人

「いや、あの状況で次に使える言葉が見つからなかっただけだ」


雅人

「おい、その調子だと説得力がなくなるぞ。おまえは刑事に、確実に楽勝だと思われている」


犯人

「まずいなあ。出だしでミスするとは」

※頭を抱える。


雅人

「とにかくもう言ってしまったんだ。この作戦で三億円を手に入れるしかないぞ」

犯人

「お、おう。そうだな」


刑事

「とにかく一旦話を聞こう。もう一度窓を開けてくれないか」

※拡声器。


犯人

「どうする?開けるか?」

※雅人に聞く。


雅人

「開けろ。そもそも開けっ放しで構わないと思うが」

犯人は窓をゆっくりと開けた。


刑事

「君はなんの目的があって彼を人質にしているんだ。悪いことは言わない。今すぐ解放しなさい」

※拡声器を使い説得するように。


犯人

「...。」

※黙り込む。


雅人

「三億円はどうした。と言え」

※小声で。

犯人

「さ、三億円はどうした」

※緊張した声。


刑事

「今準備している。安心しなさい。それより一度彼を解放してくれはしないか。その後には必ず三億円を君の元へ届けよう」

※冷静に説得するように。

雅人

「あれは嘘だぞ。わかってるな」

※小声で。


犯人

「な、なんだと。あれは嘘なのか」

※小声で。


雅人

「当たり前だろう」

※小声で。


犯人

「そんな嘘には騙されないぞ。俺は三億円をこの手にするまで人質を解放するつもりはない」

※声高らかに。


刑事

「分かっている。分かっているが、三億円を準備するのには時間が掛かってしまうのだよ。彼はお腹が空いていそうだ。一度解放してあげよう」


犯人

「おまえお腹空いてるのか」

※小声で。

雅人

「おまえが来る前にカップ麺を食べた」

※小声で。

犯人

「カップ麺を食べたそうだ。」

※刑事に強気に言い返すように。

刑事の右頬が釣り糸で釣り上げられた。(比喩)


雅人

「おま(え)」

※()は読まない。

※頭を抱えるように頭を下げる。


犯人

「す、すまん。つい」

※刑事のほうを見つめながら少しだけ口を動かす。


雅人

「とにかく集中しろ。言葉を選んでいる時間はないぞ。後おまえに出来ることはなんだ」

犯人

「待つこと、待つことだ」


雅人

「そうだ。待て、じっくり待つんだ。まっすぐ刑事を見つめろ。刑事の顔の細かな動きまで見逃すな。よく見るん...」

※話が途中で終わる。

ガタン!

 ベランダの脇の塀から突然黒いスーツに身を包んだ刑事が飛び込んできた。

驚いた犯人は、雅人の囚われている椅子を横に倒した。

※焦りすぎて。


犯人

「す、すまん!」

思わず謝ってしまった。

 その次の瞬間だった。 犯人の腕は後ろに縛り上げられ、身動き一つとれなくなった。


刑事B

「犯人確保!」

※大きな声。


 犯人は必死に抵抗するが、予想以上に刑事の力は強かった。


犯人

「おい!助けろ!」

※犯人は雅人に向かって言う。

※雅人は起き上がらない。


雅人

「早く犯人に手錠をかけてくれえ」

※半べそで。

 わざとらしく、半べそで助けを求める雅人と、犯人の目が合う。

 ニヤリ。

※雅人口元だけ映す。

※片方の口角をあげる。

※シーンをパトカーに乗り込む犯人と刑事の映像にかえる。


バタンッ。

 拡声器を持った刑事が暴力的にパトカーのドアを閉める。


刑事

「貴様、話は署でたっぷりと聞いてやるからな」

※犯人は後部座席で下を向く。

※雅人にシーンを変える。

雅人

「惜しかったなあ」

※自由になった体で走り去るパトカーを見つめる。


刑事

「君も署で話を聞けるかな?」


雅人

「はい」

※雅人は右手で後頭部を掻く。

※パトカー内。


刑事

「ところで、犯人は君に助けを求めていたように見えたけど、友達かなにか?」

※疑うように。


雅人

「そんなわけないじゃないですか。犯罪を犯す人なんて元々なにを考えているかなんて分かりませんよ。自分の心も制御出来ないような人間なんです。必要ないですよ。国や時代が違えば殺されている可能性だってある。今の法律は犯罪者には甘いんです。抜け道だって数え切れないほどある。頭の良い人間は簡単にかいくぐります。今回は犯人が馬鹿だった。事件が解決したのは馬鹿のおかげです。みんな馬鹿のままでいるほうが犯罪なんて起きないのかもしれませんね。」

※辛辣に。

※暗い表情

※雅人の顔のアップで。


〜END〜

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