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Lights of Home 家の灯り

1 Lights of Home 家の灯り

ここにいるべきじゃない。
目の前の光が見える。最高の日々が待っていると信じている。目の前の光が見える。
 
僕は風変わりな心臓を持って生まれた。心臓の部屋のひとつは普通の人には3つのドアがあるところ、僕には2つしかなかった。
 
2016年のクリスマスには蝶番が外れていた。大動脈は主動脈であり、肺で酸素を取り込んだ血液を運ぶ生命線だ。
 
けれど、僕の大動脈は長い間ストレスがかかって、水ぶくれができていることがわかった。
今にも破裂しそうな水ぶくれは、僕が緊急電話をかけるよりも早く、僕を来世に送ることになる可能性があるんだ。この人生に別れを告げるよりも早くね。
 
だから、僕は今ここにいる。
マウントサイナイ病院。ニューヨーク。
 
この8時間の手術の後、目が覚めたらいい気分にはなれないだろうけど、目が覚めた方が今よりいいことも分かっている。
 
今になって、僕の長所はとても平凡で、とても基本的なものだったのだとわかったんだ。
僕の強みは遺伝的なもので、それは空気の才能だった。
 
そうだ。
 
空気。
 
「お前の部下は、その軍資金で多くの火力を得ている。」
僕の胸骨を切断した男が手術後、妻であるアリに言った言葉だ。
 
「縫い合わせるのに、特別に強い針金が必要だった。肺活量は年齢からすると130%くらいだろう。」
 
僕は30年もの間、アリーナを駆け回り、スタジアムを疾走し、年によって高いAかBの「プライド(愛の名のもとに)」を歌ってきた。
 
空気はスタミナだ。
 
空気とは、大きな挑戦や大きな敵に挑む自信だ。
 
空気は、君が人生で遭遇するどんなエベレストをも征服できるとは限らないけれど、登頂に耐える能力ではある。空気はどんな北壁(死の壁)でも必要なものだ。


 
幻覚を見ている。
病院のベッドに寝ている父と、その横で床のマットレスの上に寝ている僕の幻を見ている。
2001年夏、ダブリンのボーモント病院。

親父は深い呼吸をしているが、胸の墓のようにどんどん浅くなっている。
彼は僕の名前を叫びながら、僕と弟を混同しているのか、あるいはその逆なのか。
 
「ポール、ノーマン、ポール」
 
沈黙。
 
また沈黙が続く。
 
「ファック オフ!」
 
僕の親父がこの世を去るとき、完璧に不完全なものがある。
彼が僕や用心深い夜間看護師に「失せろ」と言ったとは思えない。
僕は、彼が人生の大部分で背中に背負っていた猿に話しかけたのだと信じたい。

彼は最期の数日間、がんを受け入れたときに信仰を失ったと僕に言った。
それが自分の最も興味深いところだと言った。


 
2015年の春。
 
もっと冷たい白い蛍光灯の光。鉄とガラス。
 
吐き気。
 
今回は命にかかわるような事件ではない。僕はカナダのバンクーバーにあるアイスホッケー・アリーナの地下にある楽屋に隣接したトイレで鏡を見つめている。イノセンス+エクスペリエンス・ツアーの初日だ。
 
若い頃は決して見栄っ張りじゃなかった。
鏡の前に立つのも避けていた。
けれど、今はこうして白いタイル張りのバスルームで自分の顔を見つめている。
 
今さらながら、18,474人の親しい友人たちに会うのに、なぜこんなに緊張するのだろう?
ワールドツアーの初日だが、いつものように僕はひとりじゃない。
 
ラリーは天使のようなオーラを放っている。昨日、父親を埋葬したばかりだから、そうなのだろう。
 
アダムはまるでアート系映画の主役のようだ。淡々としている。
 
エッジは緊張と激しさを漂わせているが、ギリギリそれをごまかすことができる。
 
毎回ショーの前にするように、僕たちは祈る。
 
2万人近い観客が合唱のリフレインを歌っている。
今、壁越しにパティ・スミスが「People Have the Power」を歌っているのが聞こえる。
開演時間まであと5分と10秒、観客が求めて集まってくれたものがまだあるかどうかがわかるまであと5分と10秒という合図だ。

僕たちのバンドは化学実験用品一式を提供し、観客と僕たちの間の化学反応を起こす。それがいいバンドを作るんだ。
 
僕たちが楽屋から廊下に向かうと、観客の咆哮が上がる。
曲の中に足を踏み入れる準備をしながら、ステージに向かう僕は拳を突き上げている。
その意味をこれから説明しようと思う。

けれど、40年経った今、僕が歌の内側にとどまることができれば、歌は僕を歌い、この夜は仕事ではなく遊びになるとわかっている。
 
2万人近い観客が "The Miracle (Of Joey Ramone) "の合唱のリフレインを歌い、エッジ、ラリー、アダムがステージ前方へ歩いていくと、僕はひとりアリーナの反対側から彼らに会いに歩いていく。

僕は観客の中を、この騒音の中を歩いていく。
 
僕の頭の中は17歳で、ダブリンのノースサイドにある自宅からシダーウッド・ロードをずっと歩いている。
 
僕は家を見つけるために家を出る。
そして僕は歌う。


Surrender 40 Songs, One Story

【後記】著作権に配慮して抄訳となっております。雰囲気くらいは伝わるといいのですが。不定期ですが40章までがんばりたいです。

U2.com より


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