研究書評

20240502

新井克弥(2016年)「ディズニーランドの社会学 脱ディズニー化するTDR」青弓社

 「テーマパーク」について考えるとき、まず最も身近にあったディズニーリゾートを研究した文献を読もうと思い探した。その存在意義や価値、パフォーマンスの質の高さを説明しているものより、現状に批判的な姿勢を示すものに関心があったため選んだ。この本ではまず、ディズニーリゾートが日本人にとってどのような場所であるか、現在の姿になるまでの変遷などが述べられている。
 現状、日本にあるディズニーリゾートは他国と比べても、ウォルトの構成していた「テーマパーク」からは遠ざかっている。ファミリーエンターテイメントという理念に基づいて構成されたディズニーのパークだが、舞浜にあるパークはジャパンオリジナル化した。「オタク」の存在やSNSでの自己表現など、日本人の行動が変化するとともにその影響を受けてパークも変化している。舞浜のパークはディズニー社ではなく、OLCが運営している。そのため、もちろんおおもとはディズニー社の理念に沿っているが、OLCの考え方も濃く反映された運営になっている。それによって、ファミリーエンターテイメントという「テーマパーク」の本質的な部分を失いつつあるのではないかという、批判的な視点で論じられている。
 今後、エンターテイメントとは何かを考え、誰もが楽しめる時間や空間を作るにはどのような工夫ができるか考えたい。




20240516

吉光 正絵(2021年)「ライブ・エンターテインメントとファン活動 COVID‐19自粛期間の「推し活」」長崎県立大学東アジア研究所『東アジア評論』第13号(2021.3)
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コロナ禍以前にリアルイベントに足しげく通っていたファンが、コロナウイルスの影響でリアルイベントが開催されなくなり、どのように「推し活」するようになったか。後半は記述式のアンケートの回答が近い傾向同士でまとめられ、考察されている。

 コロナウイルスの発現により、ライブ・エンターテイメント産業の持続が危ぶまれた。実際に、採算が取れずに廃業となってしまったライブハウスなども多くある。ぴあ総研によると、減少した入場料金の総額は2020年5月末までに3300億円と推計されている。NRIグループによると、リピーター層(音楽)のうち、オフラインの参加型コンテンツの6割の利益が損失したとされる。しかしリピーター層の7割が金銭的支援意向を示していることから「半数以上を占める金銭的支援意向者と共に事業継続を目指すべき」ともある。金銭的支援を行う先としては、「タレント・アーティスト」本人が7割である。ライブ・エンターテインメント(音楽)では、ステージ上でパフォーマンスする実演家のファンたちに期待がかけられている。
 石本によれば、エンターテインメントの消費者は、「瞬間の感動」の対価としてお金を払うため「チケットに関する価値観」のバランス調整が重要である。推し活を楽しめるのは、日本の音楽イベントの安心・安全な運営状況がある。グローバル化がすすんだ現在の音楽ビジネスにおける「日本のアイドルの持続性の鍵」として「愛の労働」がある(Galbraith 2016)。アイドル、観客、関連スタッフの相互への愛と思いやりが日本独自のライブ・パフォーマンスを発展させてきた。
 さやわかはモーニング娘。の活躍以降のアイドルを「ライブ・アイドル」と呼び、ライブ・アイドル文化の特徴として「ファン活動も含めた大きなムーブメントになっている」ことを指摘した。ファンたちの応援行動が、育成や闘争といった能動的で主体的なイメージになったのは、ソーシャルメディアの普及の影響が大きい。



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小沢道紀・長田歩美(2003年)「エンターテイメント・ビジネスの可能性 ―新潟アルビレックスの事例研究―」『立命館経営学』第42巻 第1号 p.65~86
〈内容〉
エンターテイメント・ビジネスの中には、スポーツによる興行も含まれる。顧客・プレイヤー・施設のすべてが揃っていないとビジネスにはならない。スポーツにおいてエンターテイメントを楽しんでいる人々は、その施設自体を楽しんでいるわけではなく、プレイを鑑賞する時間と空間を楽しんでいる。プレイが中断された際には、なるべく時間が空かないように「ショー」が行われる。そして、観戦チケット分のエンターテイメントを提供できるようにしている。
スポーツ興行では、地域ごとに特性があり、アメリカ型は日本プロ野球機構、ヨーロッパ型は日本サッカー協会だとされている。スポーツ・ビジネスは主に2種類に分類される。興行の成功を主目的として求め、その成功から最大の金銭価値を得ようとするもの、スポーツの普及・発展を主目的とし、金銭はそれを補完する役割を持つものである。日本では後者が新しい。スポーツは自分が身をもって行うだけでなく、観戦というスタイルもファンを増やす入口になっている。
〈書評〉
 この論文はスポーツにおけるエンターテイメント性の考察だったが、その主体の置かれ方など、他の業種にも通ずるものがあると思った。エンターテイメントをビジネスとするとき、時代に沿っているだけでなく、未来を見据えた計画が大切だということが改めてわかった。スポーツ興行だけでなく、他の事例も探したい。


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