死ぬぞ!BTB溶液飲むぞ!!!!!

9歳の頃です。

BTB溶液の入った容器は、リビングのテーブルの上に置いてありました。

親はBTB溶液に関心はありません。
父親は生物の教師で、よく薬品やよくわからない素材が家に届きます。きっと学校での実験に使ったり、趣味の範囲で何かするんでしょう。そんな数あるうちの一つが、BTB溶液でした。
(私がヒトデの標本を作りたい!と言ったら車からホルマリンを取り出してきてくれるくらいには色々持っていた様子)

容器のラベルに口に入れてはいけません、のマークが書いてありました。それで、口に入れたら死ねるだろうと考えたのです。
容器は黒色で、多分プラスチックでできていて、ふたは黄緑色でした。

リビングにあるので、親の目をかいくぐって持ち出す必要があります。
探し物をしているフリをして色々なものを持ち上げつつ、その容器をズボンのゴムと自分の背中の間に挟みました。ポケットがあからさまに膨れていると怪しまれると思ったからです。

背中を見られると異常な出っ張りがあるので、親に背中を向けないようにしてトイレへ向かいます。
子供部屋は兄と2人部屋なので、確実に一人になれる空間はトイレだけです。

それはうまくいきました。

トイレに入って、便座に座らずに隠していたBTB溶液の入った容器を取り出します。
めちゃくちゃトイレットペーパーを引っ張り出しながら片手でふたを開けました。
ふたを開ける音を聞かれることを恐れたからです。

満を辞して、BTB溶液を口に入れます。BTB溶液は、ドバッと出ることはなく一滴ずつ出ます。
味は、一滴だけではよくわかりませんでした。吐き気を催すことはなかったです。とにかく初めての味でした。

まだるっこしいので、容器の内側についてたふたみたいなものも外します。

溶液は一滴ずつではなく、普通に流れ出るようになりました。
口に含めるだけ含んで、一度鼻で呼吸してから、一気に飲みました。
変な匂いが喉に残ります。舌にも変な味が残ります。吐き気を催すことはなかったです。苦くはないし、まずいわけでもありませんでした。

ただ口の不快感がすごく、舌を今すぐ洗い流したい!と言う気持ちになりました。じきに喉も洗い流したくなります。不快感が舌の、口内の、喉の、触れたところからじんわり広がっていったのを覚えています。

しかし、死ぬぞ!と思っているわけですから、洗い流すのは我慢です。私は少しの高揚感を得て、興奮していました。

大量に出したトイレットペーパーを便器の中に入れて、水で流します。水の流れる音がしている間にBTB溶液の容器を元どおりにします。
再びズボンのゴムと自分の体の間に容器を挟み、手を洗ってトイレから出ました。

死ねる!と、ワクワクしながらその日は布団に入って眠ります。
少し悲しかったですが、最後の思い出に家族で神社にお参りしていたので、特に後悔も気がかりもありませんでした。


しかし残念なことに、何も起こりませんでした。


おかしい、と思ってこの後も同じやり方で飲む量を増やしたりしましたが、死ねません。体に不調もありません。BTB溶液の味に慣れていく自分があるだけです。

まあ、子供の手が届くような場所にそんな危ない薬品なんて置かないし、仮に致死性があっても致死量を父親が家に置くわけもないので、当たり前なのですが……


とにかく、私のBTB溶液を飲んで死ぬ目論見は失敗したのです。

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