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一人では性行為も妊娠もできない。自分だけで抱え込む人が減ると良い。|#わたしたちの緊急避妊薬vol.5

毎週金曜、緊急避妊薬を飲んだ経験がある方のお話を共有する“#わたしたちの緊急避妊薬”のシリーズを公開します。緊急避妊薬を飲むに至った大切な体験談を通し、身近にある現状の課題を「自分ごと」として考えられたらと感じています。そして、大切な経験を語ってくださったみなさまへ、心から感謝を申し上げます。

※クラウドファンディング《“緊急避妊薬と性知識”で、若者に人生の選択肢を届けたい!#わたしたちの緊急避妊薬》のページもあわせてご覧ください。

美咲さん(仮名)は、現在会社勤めの二十代後半の女性。子どもの頃の経験により、性に関する話題はタブーなものだと感じていたそうです。今回は元パートナーとの関係の仲で緊急避妊薬を飲むに至った経緯や、その経験から現在の思いを語ってくれました。

※筆者自身が書いていて、自分の過去と重なり、トラウマを刺激されショックを受ける箇所がありました。苦しいことを思い出してしまいそうな方はお気をつけください。

性の話題には閉鎖的な家庭。

――生い立ちのなかで、性に関する話をできる環境にありましたか?

美咲さん:私は母子家庭で、兄が二人と弟が一人の兄弟構成です。母親から性教育を受けたことはありませんでした。初めて生理が来た時もナプキンは買ってくれたけれど、「来てしまったか」という感じで。

また、兄弟が「今日、なんで赤飯なの?」と聞くと、母は「うるさい、黙って食べて」と言ったり、ベットを汚してしまった時には、「またか」と怒っていたりしました。そういった母の反応から(性に関することは)あまり良い話題ではないと思っていました。

「自分が悪いと思われたら……」。誰にも相談できなかった


――緊急避妊薬を飲んだきっかけを教えてください。

美咲さん:当時の彼氏とカラオケで性行為(※1)をする雰囲気になった時に、避妊をせずにしてしまいました。それまでも行為中、彼が「中に出しても良いか」と聞いてくることはありましたが、その度に断っていました。でも、その時は「生理中だから大丈夫(※2)」と押し切られてしまったんです。

帰宅後に怖くなり、ネットで妊娠のことを調べたんです。妊娠のことについてはっきり認識したのは、その時がはじめてでした。そして緊急避妊薬を知り、病院に行って処方してもらったのがきっかけです 。

※1:公然わいせつ罪(刑法174条)が成立し、6月以下の懲役や30万円以下の罰金などに処される可能性があります。
※2:月経の周期により「妊娠しやすい時期」はありますが、「確実に妊娠しない時期」はありません。また、出血が生理とは限らないため、血が出ていても、避妊をする必要があります。

――当時の気持ちを教えていただけますか?

美咲さん:すごく不安でした。まだ大学生だし“本当に妊娠していたらどうしよう”と。当時通っていた大学は、奨学金で通っていたんです。もしものことがあり、大学を中退することになれば、その瞬間から奨学金の返済が発生するんですね。それが一番の不安でした。

――処方時に感じたことを教えていただけますか?

美咲さん:病院は雑居ビルの一室みたいなところでした。怒られたらどうしようという不安もありました。先生は事務的な作業という感じで、そんなことはありませんでしたが……。服薬後も次の生理が来るまではずっと不安でした。

――その時周囲の人には言えましたか?

美咲さん:誰にも言えませんでした。一人で病院に行って緊急避妊薬を買い、こっそり使って……。それまで、どちらかというと、私は(性の話題について)開けっぴろげに話すタイプでした。大学生の時は毎週違う男の人とホテルに泊まったり、それを友達に話したりして。

でも、妊娠したかもとか、緊急避妊薬を飲んだとかいう話はしなかったですね。怖かったというか、友達は今までのこと(性事情)も知っているし、自分が悪いんだろうみたいなことを言われちゃうと思って。

わかってくれない彼。でも、嫌われたくはなかった。

――緊急避妊薬を飲んだ後、パートナーには話せましたか?

美咲さん:(緊急避妊薬を)飲んだ翌日は吐いちゃって、すごく気持ち悪くなりました。彼はアルバイト先の店長だったので、事情を説明し、出勤できない旨を伝えました。すると、彼の機嫌が悪くなったんです。「こんな忙しい時期になにやっているんだ。早く来い」と。

――その後、パートナーとの関係に変化はありましたか?

美咲さん:「最低だな、こいつ」とは思いつつも、当時は自分から別れを告げることができなかったです。嫌われるのが怖かったですね。当時を思い返すと「この人がいなくなったら、しんどくなるかな」「どんな相手でも自分から離れていくのは嫌」と思っていました。

――緊急避妊薬を飲んだことで、その後の行動は変わりましたか?

美咲さん:(緊急避妊薬を)飲んだ時は吐いて、気分が悪くて“もう飲まない”って思ったんですよね。だから、そこから避妊は絶対していましたしもう二度と飲みたくないとは思いました。でも、それ以外での変化はありませんでした。

一人で悩まないで。

――どんな思いでこのインタビューを受けてくれましたか?

美咲さん:まだ性教育ってそんなに進んでいないし、私と同じような気持ちをする女の子も男の子もいっぱい出てくる可能性があると思うんですよね。その時に、私の体験がちょっとでもその子達に響いたり、そういう(性教育を進める)プロジェクトの糧になったりすればいいと思って声をかけさせてもらいました。

あとは、(性に関する体験の)対象になる人は男女関係ないということです。妊娠して一人で産んで、そのまま赤ちゃんが亡くなっちゃって、母親だけが捕まることが多いじゃないですか。私も緊急避妊薬を飲んだ時、自分だけで不安を抱えることが当たり前だと思っていました。でも、そもそも一人では性行為や妊娠はできないです。相手あってのことなので、抱え込む人が減るといいなと思います。

――ありがとうございました。

インタビュー・文/小谷 真以花


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