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あなたの身近にもいる。当事者の存在に気づき、寄り添える社会へのきっかけになれば。|♯わたしたちの緊急避妊薬vol.7

毎週金曜、緊急避妊薬を飲んだ経験がある方のお話を共有する“#わたしたちの緊急避妊薬”のシリーズを公開します。緊急避妊薬を飲むに至った大切な体験談を通し、身近にある現状の課題を「自分ごと」として考えられたらと感じています。そして、大切な経験を語ってくださったみなさまへ、心から感謝を申し上げます。

※クラウドファンディング《“緊急避妊薬と性知識”で、若者に人生の選択肢を届けたい!#わたしたちの緊急避妊薬》のページもあわせてご覧ください。

由梨さん(仮名)は、現在、助産師として働く20代の女性です。今回は、事実婚(※1)の夫さんとお付き合いしていた時に、緊急避妊薬を服用された経験をお伺いしました。

※1:事実婚とは…法律婚と対になる婚姻関係の概念です。婚姻届など一定の手続きを踏まずに、両者が結婚の意思を有しており、共同生活を営んでいる場合に事実婚として定義されます。

女子校を卒業したら、性について話してはいけない。

ーー生い立ちのなかで性に関する話をできる環境にありましたか?

由梨さん:はい。生理がきたのは11歳の時で、母に話すと、ナプキンについて教えてくれました。その後、おそらく母が父に話をして「おめでとう」と言ってもらった記憶もあります。家族の中で性について話をすることはあまりなかったですが、父も母も医療者なので、生理的なものという理解だったと思います。(性に関わることは)汚いものでも、恥ずかしいものでも、笑うようなものでもなく、自然なものとして扱ってくれていました。

ーー友人関係においてはいかがでしたか?

由梨さん:中学高校と女子校に通っていましたが、性教育に力をいれていたこともあってか、わりとオープンに明るく話していました。でも、社会にでたら所謂女性らしさからはみだしてはいけない、今みたいに性について話してはいけない、という空気感もありました。先生や周りの大人に言われたわけではなく、暗黙の了解みたいに皆で共有していたように思います。

私は何も悪いことはしていないのに、どうしてこんなに惨めな気持ちになるのか。

ーー緊急避妊薬を飲んだきっかけを教えていただけますか?

由梨さん:今の夫とお付き合いしていた19歳か20歳の時に、性行為のあとコンドームを外したら破れていて中身がなかったんです。彼はいつもコンドームをつけてくれていて「申し訳ない」とすごく落ち込んでいました。ただ、具体的にどうするという提案はなかったので、私から緊急避妊薬の話をしました。

緊急避妊薬のことは高校の授業で聞いて知っていて、なるべく早く飲まなきゃいけないということも覚えていたので、翌日、朝一で近所の産婦人科に行きました。「どうしよう、本当に危ないかも」と次の生理がくるまではとにかく不安でした。

ーー病院での様子はいかがでしたか?

由梨さん:彼との性行為の後にコンドームが破れていたので受診した、と問診票に書く時はすごく恥ずかしかったことを覚えています。診察室で事情を説明したら、「処方箋出すから薬局行ってね」と、特に診察はありませんでした。

すんなりとおわった安堵感もありましたが、この状況がすごく惨めというか、「ちゃんと避妊しなかったんだ」と言われているような空気を感じました。私がそう受け取っただけかもしれませんが、「何も悪いことはしていないのに、なんで初めて会った人にこんな話をしているんだろう」って。それ自体がとても惨めでした。

彼にも「これを飲んだよ」「いくらぐらいかかったよ」と伝えました。彼は、自分のせいだと思っていたみたいで、「お金払うよ」と言ってくれました。

ーーその後、行動の変化はありましたか?

由梨さん:以前より自分の生理周期を気にするようになりました。その前から管理アプリは使っていたんですけど、しっかり把握していたわけではなかったので。現在は彼にも生理周期について話をして意識しています。

もうひとつ、21歳から低用量ピルを飲み始めました。もともと存在は知っていたんですけど、女性らしさの一つである生理を薬でコントロールすることに抵抗感があり、飲んでいませんでした。生理痛に耐えられない自分に対しても、他の人と比べて我慢が足りないのかなと思っていたこともありました。

でも、実際に緊急避妊薬を飲んですごくありがたみを感じたんです。ちゃんと身体に作用して本当に避妊できるんだって実感しました。

経験は目に見えないから、まずは知って思いを巡らせてほしい。

ーー助産師になろうと思ったことに影響はありますか?

由梨さん:「周りの女性たちに働きながらも健康でいてほしい」とか、「妊娠出産について学んでサポートをしたい」という思いが原点で助産師になろうと思いました。

産婦人科に勤めていると本当に様々な背景の人に出会います。同じ病棟の中には、赤ちゃんもいる一方で、中絶手術を受けに来る若い子もいる。低用量ピルを飲んでいた人もいるし、過去に中絶手術の経験がある人もいる。緊急避妊薬を飲んだことがある自分も含めて、そういう経験をした人がこんなにも身近にいるんだと気づかされました。

ーーどのような思いでこの取材を受けてくださいましたか?

由梨さん:海外と比べて、どうして日本はこんなに遅れているんだろうって思うんです。性教育や緊急避妊薬もそうだし経口中絶薬がないことも、何から何まで遅れていて嫌になることが本当に多い。

実は私も助産師の勉強をするまで、街中に妊婦さんがいることに気づかなかったんですよね。絶対にいたんですけど、気づかなかったし存在を認識していなかった。自分とは違うどこか遠い世界の人のように感じていたんです。

でも、案外自分の身近にもいるんだって知るだけでも、気づきや意識ってきっと変わっていく。自分の周りのリアルに気づく、その一歩として今は緊急避妊薬の存在は大きいし、私の経験を語ることがそのきっかけにつながればと思っています。

ーーありがとうございました。

インタビュー/高山 秋帆
文/中村 恵


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