卒業生の事例紹介#7 「SOUNDカードは、公民共創の為に生まれてきたと言っても過言ではない!」異文化共創のハードルをどうやって超えたのか?


■インタビュイー:森田 孝さん
一般社団法人公民共創サードプレイス推進機構代表理事。地方自治体と都市部の大企業を結びつけ、地域活性化と企業人活躍の場の拡大を目指す。
長野県千曲市で企業の社員と自治体職員を対象としたワークショップを開催した際にSOUNDカードを活用。



1.プロジェクトスタートのきっかけ

―まず、森田様が千曲市と出会ったきっかけを教えてください。
千曲市では、スマートインターチェンジの新規開設に伴いモーダルコネクト(※)拠点を作る計画が進められていました。それを機に周辺地区を含めた千曲市全域の活性化を図りたいと、総務省の「地域活性化企業人」制度を活用し、人材を募集していたんです。非常に興味深い募集だと思った一方で、正直なところ企業側目線では人材ニーズの背景や求める人材像が見えづらいなと感じました。そこで募集状況を問い合わせてみたところ、1件も応募がないと。であれば企業向けに説明会をやりませんかと話を持ちかけ、仲立ちをさせて頂きました。

※モーダルコネクト:国民の日常生活や経済活動を支える重要な基盤である道路ネットワークと多様な交通モードを連携、強化し、利用者が交通を選択しやすい環境を作ること。

国土交通省 WEBマガジンGrasp「https://www.magazine.mlit.go.jp/」記事より抜粋

―説明会の様子はいかがでしたか。
参加企業は12社ほどでした。今回、千曲市の主な募集課題は、①千曲市の認知度、②人材募集の背景の理解度、③地域活性化起業人制度の認知度の向上の3つにあったと感じていました。いきなりワークショップの募集をしても恐らく参加企業は少ないだろうと考え、まずは企業説明会を実施することにしました。説明会ではまず千曲市の事業を説明し、今後、市主催のワークショップを開催予定であることや引き続き事業を担ってくれる人を探していることをお伝えしました。その結果、ワークショップに、3社10人の参加がありました。
行政からも、所管課を含めた3部署から4人が参加されました。こうした取り組みで部署を横断してメンバーが招集されるのは珍しい事ではないかと思います。
ここから、総勢14人による足かけ2ヶ月に渡るワークショップが始まりました。

―ワークショップでSOUNDカードを活用したいと思った理由を教えてください。
ワークショップでは、オンラインのセッションが3回、現地での1泊2日のセッションが2回の全5回のプログラムを組みました。SOUNDカードを使ったのは、現地訪問の2回です。今回のワークショップの期間自体は2ヶ月でしたが、参加者同士が接点を持つリアルな時間は多くありません。その中で、行政施策という大きなテーマを扱いゴールに導くファリシテーションは、相当難しいことです。
当初は、「最終的な成果物の内容もさることながら、対話交流のプロセス自体に価値がある」というご期待もいただいていましたが、私はやはり、参加者が納得する成果に導くための方法を見つけたいと考えていました。
しかし、今回の課題は期間だけではありません。民間と行政、また文化やエリアが異なる参加者が一堂に介していることに加え、企業同士の横のつながりもないため、早い段階で相互のコミュニケーションが取れる状態にしたかったですし、研修とはいえ、参加者に多くの時間を割いてもらう以上、議論がまとまらず空中分解するなどの事態は絶対に避けたかった。SOUNDカードを使えば、これらの課題がすべて解決するのではないかと思いました。

2.SOUNDカードを活用してみて

―実際に使ってみていかがでしたか?
一言で言うと「予想通り」でした。1回目は、できるだけ効率よくチームビルディングをしたいと考え、共創を実現するための課題に対して当事者意識を持っていただくためにSOUNDカードを使いました。私がSOUNDメソッド・SOUNDカードを学んで強いインパクトを感じたのが、当事者意識のレバレッジポイントだったのでこの判断に至りました。

―他にも意識したポイントはありますか。

今回は、同じくSOUNDコーチ養成講座卒業生である佐藤淳さんからの提案もありストレング・スファインダー(※)を合わせ技で使いました。お互いを知ることに軸足を置き、SOUNDカードも用いたセッションを行ったことで、参加者同士の関係性がさらに深まったと感じます。最初と最後、2回写真撮影をしましたが、参加者の方々の親密性や表情がまったく違っていたことも印象的でした。皆さん、かなり打ち解けてくださったと思います。

※ストレングス・ファインダー
「強みの心理学の父」と評されるドナルド・O・クリフトン博士が開発し、米国の調査会社ギャラップ社が提供する才能診断です。Web上で177個の質問に答えることによって、自分の才能や強みを発見することができます。

(詳しくはこちら:https://www.gallup.com/cliftonstrengths/ja/254039/strengthsfinder.aspx)


―2回目のSOUNDカードの使い方を教えてください。
1回目でチームビルディングに使用していたこともあり、2回目は自然とSOUNDのステップに入れました。特に参加者の満足度の高さを感じたのは、Outcomeです。皆さんの中にも軸に沿った意見が出た実感、納得感があったようで、全員がこれだ!というアウトカムステートメントができあがりました。私も言語化していくプロセスを見ていて、安心感があり、熱量の高まりを感じました。

―Understandは、いかがでしたか?
SOUNDのステップの中でここが一番難所だという話を聞いていましたが、結果としては想定よりもうまく乗り越えられたと思っています。話が停滞したり元に戻ったりすることもほとんどなく、次に進むための必要なステップとして、皆さんが時間を費やした印象を持ちました。

―当初の課題の1つ、コミュニケーションについては、いかがでしたか。
今回、モーダルコネクトを専門で扱っている企業は一社もありません。通常、専門事業者の方が関連情報をたくさん持っていることは明白です。しかしながら、専門事業者であればこそ、利益確保優先の提案になったり、知識があるが故に新たなアイデアが出にくいこともあると思います。そうした点で、いわば「門外漢」の方々が集まり、公民で情報を持ち寄りながら、ビジネスで培った経験と対話を武器に解決策を見出す過程で、新たなアイデアや価値が創造できたのではないかと思っています。そのため、例えば「自動運転」ひとつ取っても、かなり活発に議論が交わされていました。しかし、場が凍りつくようなことはなく、初回で確保した心理的安全性が最後まで維持できたためだと思います。今回は7名ずつ2チームに分かれて進めましたが、一人ひとりがプログラムの当事者として参加し、それぞれの関わり方で最後まで続けることができたという印象です。

―今回のプロジェクトは地域活性化企業人確保が目的でしたが、成果はいかがでしたか?
このワークショップの企業参加者1名からご応募を頂きました。また、別の方からも「副業として引き続き千曲市のプロジェクトに関わっていきたい」との話もあり、結果的に1人+αの人材が確保できました。
実は、ワークショップを進める中で、自治体の方からは「もし、仮に人が決まらなくても取り組み自体に成果があることが分かりました。市役所の部署を越えたメンバーや企業の方たちと地域課題に対して議論する機会がこれまでなかったので、ワークショップ自体に価値があります。」と言ってくださっていました。「行政、民間と全く文化の違う人が、初めてテーブルを囲んだ場でもステップ通り話し合いを進めて行けば成果が出る」ことを目の当たりにされ、SOUNDカードはとても良い話し合いのツールであることを行政の方々にも感じてもらえたと思います。


3.SOUNDカードの魅力とは

―最後に改めてSOUNDカードの魅力について教えてください。

SOUNDカードを活用したことで、ワークショップとしての成果はもちろん、当事者意識の形成、人間関係の構築に役立ったと感じています。早期に全員が議論に集中し文脈を揃える状態をつくれたので、結果的に短期間でプロジェクトの成果をまとめられました。チームにおける強い絆の結びつきを創る、まさにチーミングを実現できたことに大きな可能性を感じます。
現在はイノベーションの大切さや異業種間の共創の必要性が説かれている時代だと思います。ですが行政はある意味で置き去りになっている気がします。人口流出や少子化などの社会問題をこのまま放置し続けると、本当に地方は立ち行かなくなってしまうのではないでしょうか。しかし、そこに民間の方が関わっていくことで、企業、自治体・地域、企業社員、地域住民、日本すべてにおいてWin-Winの環境が作れると思います。
この環境を作るためには、「異文化の共創」のハードルを越えなければなりません。簡単ではありませんが、SOUNDカードは、共創を促すハードルを越える最適なツールだと、今回、改めて強く感じました。
実際、千曲市では、このワークショップの成果もふまえ、2024年4月より「地域開発推進室」が「公民共創推進室」へと変わり、市を挙げて公民共創に取り組む方針を明確にされました。さらに良い事例を作り、成果を出してみなさんにお伝えできるよう、引き続き私も頑張っていきたいと思います。

―本日はありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。

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