二番目彼女1巻補足

さて,


はじめに

二番目彼女,面白いですよね.

今回は作中で登場する文学や哲学などを掘り下げます.今回は1巻についてです.

記事の都合上ネタバレを多分に含みますので5巻まで読んでない人は本編を読んでからの閲覧をお勧めします.読んでくれ,頼む.ちなみに特典SSの内容は含みません.

あくまで個人の読んだ感想という体なので質問や明らかに異なる点があったりしたら@souka_natsumiかdiscord: souk4 にお願いします.

文学の話

耳元ミステリーやグレートギャッツビーなどから始まりこの作品には多くの文学作品の名が出てきます.それらの内容に触れながらどういった作品なのか,作中でどのように関連しているのかを考えていきます.

グレートギャツビー(第1話 二番と一番)

牧くんが桐島くんをギャツビーみたいだよな,というくだりで登場します.作中では主人公のギャツビーが好きな女の子と付き合えずに未練たらたら酒を飲む物語,と紹介されています.

和訳読んでないので何ともですが原文でのギャツビー周りのあらすじを少し紹介します.大分端折って書いてますが普通におもろいので気になった人は結構おすすめです.

舞台はアメリカ,ギャツビーは若い頃デイジーという女性に恋をします.その後ギャツビーはフランスに戦争に向かい,その間にデイジーは家の都合で富豪のトムと結婚し,ギャツビーは戦争から帰還しなんやかんやで富豪になります.

彼はデイジーが来てくれると信じてパーティを開き,デイジーの親戚と繋がってその後に漸くデイジーと再開します.トムとデイジーはもとより夫婦仲はあまり良くなく(トム浮気してるし)なんだかんだデイジーはギャツビーの愛人になり,彼はトムと別れて欲しいとデイジーに迫ります.しかしデイジーはトムに別れを切り出せず,逆にトムはギャツビーとデイジーの繋がりを知ります.

トムに圧をかけられ色々限界になったギャツビーはデイジーの前で激昂.その姿にデイジーは幻滅し,その後なんやかんやあってデイジーはトムの浮気相手を事故で轢いてしまいます.

ギャツビーはデイジーを守るために冤罪を受け入れ,浮気相手の夫に射殺されます.おしまい

The Great Gatsby(1925)

めちゃくちゃ二番目彼女みたいで草

牧くんが桐島くんをギャツビーと例えていることからもギャツビーが桐島くん,同様の理由でデイジーが橘さん.トムが柳くんと言ったところでしょうか.

作中ではギャツビーが未練たらたら酒を飲む話,と紹介されていますがその実は昔会った恋人と不倫する話なんですよね.二番目彼女ではミステリーの文脈が多く登場し,これも一つのミスリードであると考えられます.

男側がずっと好きだった女の子を待つ話かと思えばその実は二人で不倫する話だった.結構二番目彼女的な文脈ですよね.

実際本編中では橘デイジーと桐島ギャツビーの出会いと再開,そこから恋に落ちて柳トムにばれて大変なことになります.橘デイジーが誰かさんを突き落としてそれを桐島ギャツビーが庇う所も同じですね.そして橘デイジーは桐島ギャツビーの前から消えて,桐島ギャツビーは高3から大2まで死んだような日々を送ります.

ギャツビーの将来は今後の展開と非常に類似しており,非常に示唆的です.柳くんが原作のトム程嫌な奴じゃないのは素直に嬉しいですしデイジーは原作で終ぞギャツビーを選びませんでしたが本編では言わずもがなです.

二番目彼女の作者さん,作品の展開を文学作品に仮託するの好きそうなので作中で示された作品には一度目を通しておくといいかもしれません.

ギャツビーの話おしまい.桐島くんはギャツビーの最期の様に殺されないと良いですね.残念ながら橘さんは桐島くんにそのようなことをほのめかしてましたしないとは言い切れません.

人間失格(第2話 なぜ)

世間って「あなた」でしょ,というくだりで仄めかされます.これは太宰治の人間失格からの引用であり,上に倣って人間失格の作中のあらすじを簡単に書きます.

そこそこの才能を持った青年が幼少期の人格形成を経て上京します.そこから絵の勉強をしながら酒,煙草,薬,女と順調に堕落して心中未遂や妻が強姦され,更に薬と酒に溺れ借金漬け.脳病院に連れていかれてそこで彼は自分が人間失格であることを悟る.というお話です.

太宰治 人間失格

世間って「あなた」でしょ.とは作中で青年が「これ以上の女遊びは世間が許さないぞ(意訳)」と言われた際に言い返そうとした言です.まぁ実際作中の彼は有体に言えばモテており,この反論は彼の中では正当性に溢れております.実際のところは指摘された通りなのでなに反論してんだって感じですが.

作中でその後世間って「あなた」でしょ,のメンタルを獲得した彼は自分の意志を獲得し少し我儘になります.これが良いのか悪いのかをここで語るのは筋違いなことなので語りませんがこのメンタルが彼を更に苦しめます.

桐島くんも世間って「あなた」でしょ,のメンタルを獲得して我儘になります.ヒロインズにとってはいい事でもあるのですが関係性に歯止めが利かなくなっているということでもあり,実際それからの展開は確実に悪い方向に転がり続けます.

結局高校生編序盤から大学生編序盤までで桐島くんの人間失格の物語は一応の終端に至ったと考えられます,しかし原作では心中した相手が再登場することはありませんでしたが(当たり前),二番目彼女本編では大学生編で颯爽と帰ってきたのでどうなるのか気になりますね.

哲学,恋愛の話

単純接触効果から始まり作中には多くの哲学,恋愛の話が出てきます.それらは彼らの心理,行動に説得力を持たせる働きがあり,また二番目彼女作中で一種の理のようなポジションにあります.

橘さんは恋愛ノート(ミステリー)軸であるのに対して早坂さんは文学,哲学方面を基調としています.橘さんは言わずもがな.神社の境内で早坂さんは国語の資料集で耳元ミステリーをやっていたのが示唆的ですね.あくまで傾向の話ですが.

作中で頻繁に登場するミステリーという言葉ですが多様なものに理由付けがなされており,本編もそれに倣う形になっていると考えられます.

まあ好きになるのに理由はいらない,とか言ってますけどここでは都合が悪いので無視します.実際のところ高校ヒロインズとの出会いはもっと掘り下げて欲しいみたいなとこある.

単純接触効果(プロローグ)

作中ではよく目にするもの耳にするものには好感を持ちやすくなる心理的な効果の事であると説明され,実際その通りです.

作中では早坂さんとイチャつくための口実にしか使われていませんが実際その影響か早坂さんは桐島くんとの関係を深めどんどん好きになっていきます.

頭ではコントロールできない,心のメカニズムなのだ.という桐島くんの独白が印象的です.

ちなみにこれもあの悪名高き恋愛ノートの内容です.

失恋確率25%メソッド(第1話 二番と一番)

お互い二番目で付き合えば75%で失恋しない,という画期的な手法で桐島くんが恋愛ノートに追記しました.言ってることは間違ってないのですがタイトルや牧くんの「どっちかの二番が一番に昇格したらこじれる」発言からも分かる通りに作中では早坂さんの二番目が一番に昇格して大変なことになります.

また,彼が恋愛ノートに書き加えた後「マーフィーの法則みたいに世界中に広まるだろう」と続きます.

マーフィーの法則
一般的に,落としたトーストがバターを塗った面を下にして着地する確率は絨毯の値段に比例する.といった失敗する可能性のあることは失敗することをユーモラスに示した法則.(物理学的にバター塗った方が落ちやすいらしいですが主旨から大きくずれるので無視します)

wikipedia

例えでマーフィーの法則が挙げられていることもこのメソッドの失敗を暗示しており実際の所大変なことになります.しかも桐島くんが当初想定していた失敗である「早坂さんが柳くんと付き合って,かつ桐島くんが橘さんと付き合えない」とは似ても似つかない形で失敗してるのがめちゃくちゃ面白いですね.桐島くんの考えが上手くいくこと一回も無くてワロてる.

また桐島くんと早坂さんの二番目同士()にはいくつかのルールがあり,その一つにどちらかが一番と付き合えたら二番目同士の関係を解消するとあります.高校生編終盤で早坂さんは橘さんに対してルール守ってよ! ってずっとキレてましたけどルール守ってないのは早坂さんもなんですよね.(まあ早坂さんの方は桐島くんに断り入れてますけど)

人間らしくて面白いですね.

憧れと好きが違う話(第4話 名前のない手紙)

漫研の山中くんが「憧れと好きは全く別物」であると五番隊隊長みたいなこと言ってました.これは特に早坂さんの感情の変化の説明として適切であり,彼女は柳くんに憧れその最中に桐島くんへの好きという気持ちを自覚するという展開に対して大きな説得力を持たせます.

その後の彼は「似ているから混同されがちだけど純粋な好きという感情は特別で他のどれとも違う」と続けます.中盤までの早坂さんは好きと憧れの区別がつかずに苦悶しておりこのセリフの重みが増します.

初見で読んだ時は早坂さんはよくモテるなァ~ぐらいに思ってたんですけど福田くんが登場してから早坂さんガチ恋モブズのこと本格的に可哀想になってきました.

早坂さんへの想いが実らないことも早坂さんの想いが実らないことも残酷だとしてこの話は締めくくられますが本当にその通りですね.

感情試験(第5話 知ってるよ)

桐島くんが誰を好きか,早坂さんが誰を好きか,橘ひかりの自分の気持ち知るために行われます.ちなみに原因は早坂さんの鉛筆マウントです.笑える.

橘さんは桐島くんの気持ちは試せないので基本的に早坂さんと橘さんのマウント合戦のような形を取ります.ヤンデレ早坂さん可愛すぎ!!!

これは5話冒頭に出てきた実験的な恋を実行している形になります.

最期の「キスしようよ」から始まる橘さんから桐島くんへの質問もある種の感情試験で桐島くんは「早坂さんも大切で橘さんの未来も大切」とどっちつかずの無回答をします.理由付けとしてはチキンなのでと言い切ることも可能ですがまあここは桐島くんが橘さんと早坂さんのどちらも大切ですぐには選べなかった,ということだと思います.多分.

桐島くんと橘さんが初恋の相手同士で一番同士であることが明らかになり,早坂あかねの心労がマッハになります.初めてマウントが地雷の早坂あかね,最高.

ちなみに実験の結果として早坂さんと橘さんは桐島くんを好きなことが分かりました.より具体的に言えば早坂さんと桐島くんには二つの好きがあって,橘さんには一つの好きしかないことが分かったことになりました.まだ早坂さんは好きの区別がつかず,また早坂さんの好きな相手も橘さん目線では分からないので妥当ですね.

感情試験は最終的に早坂さんに彼女なのに橘さんに勝てていないと認識,桐島くんは特になし,橘さんはキスを断られた.と痛み分けの形を取ります.

嫉妬の話(第6話 四角革命)

嫉妬は良くない感情ではなくとても自然な感情で「好きだから嫉妬する」のだと桐島くんが早坂さんを肯定します.

実際複数人で恋愛している以上嫉妬が生まれるのは至極当然で,その事実を通して彼らは二番目の好きの気持ちの大きさを正しく認識します.

彼曰く「嫉妬は好きであることの証拠」でありここで作中に嫉妬を向けることが好意の表れであるという文脈が導入され,ここでようやく二番目同士で付き合うことは一番に嫉妬することとセットであると二番目彼女作品全体に一貫する概念が明示されます.

嫉妬することと好きになることが実質的に同義となりお互いに嫉妬を煽りあったりするようになります.屈折してますね.

恋愛ノート,ミステリーの話

IQ180のミス研OGが書いた件の禁書です.
あまりにも都合がいいことで有名で,基本的に橘さんのターンに使われています.基本イチャついてるだけですが橘さんの心理描写はここが主なので考えていきます.

ちなみに早坂さんには言い訳みたいなゲームと評されてます.

胸をドキドキさせる方法百選(第2話 なぜ)

橘さんへがっつり触れる動機づけに用いられます.ネクくいや壁ドンに始まりゲーム終了後も相合傘したりホームで手を振ったりしてめためたにイチャつきますが初回というのもあり大分おとなしいですね.

実際の所二人ともドキドキしっぱなしだったのでやはり筆者のIQは180ある.

ちなみに4話の最期で橘さんが桐島くんの襟掴んだところもドキドキする方法百選に入ってる気がします.これは本当に個人の感想.

耳元ミステリー(第3話 好きなんじゃないの?)

橘さんが攻めには強く守りに滅法弱い恋愛キッズであることが示されます.記念すべき初「ひゃみぃ!」が聞けますね.

事後のトークでは太宰治の作品を引用した桐島くんが舌の根も乾かぬうちに「世間」の話をしててめちゃくちゃおもろいです.

ちなみに本編10周以上してますが挿絵が制服な理由は分かりません.(赤面桐島くんがかわいいのでヨシ)

似たような耳舐めを神社の境内で早坂さんともしてますが橘さんとは肉体的な快楽,早坂さんとは精神的な快楽があるらしいです.

手を使わないゲーム基礎編(第5話 知ってるよ)

桐島くんが湿ったポッキー中毒になります.

この先の展開で早坂さんが「一人で寝る時に私のこと思い出して寂しくなってね」と発言する場面があるのですが当の桐島くんにとっては橘さんの湿ったポッキーの方が印象的なように映ります.早坂さん不憫すぎ.

アナグラムと叙述トリック(第7話 私,二番目の彼女でいいから)

アナグラムは橘さん,叙述トリックは桐島くんが好きなトリックです.フィルムでは叙述トリックが採用されており,けれどその中に橘さんはアナグラムを仕込みフィルムで桐島くんへの告白します.早坂さんとのキスを橘さんに見せつけた後で桐島くんはアナグラムの真実を橘さんに語ります.

となるとフィルム撮影の時点で桐島くんは橘さんの想いを認知しており,その上で早坂さんとのキスを見せつけていることになります.こっちは叙述トリックですね.

キス見せつけに関しては桐島くんから橘さんへの感情試験のようなものですが橘さんは桐島くんからの好意を認知しているので不安になるようなことはありません.逆も同様に桐島くんは橘さんの想いを分かっているから橘さんが柳くんと何をしても平気であったということです.両者の感情試験はお互いに通じ合っていると結論付けられます.

桐島くん視点で橘さんから自分への好意は疑いようがなく事実であったことは早坂さん視点で桐島くんから自分に向かう好意が不確定で不安な点と対照的ですね.橘さん視点では桐島くんからの好意は全部わかってしまうのでこちらも桐島くんと同様に安定しています.

橘さんと桐島くんは特別同士であると印象付けるシーンですね.

まとめ

初恋の話(第7話 私,二番目の彼女でいいから)

メタ読みです.

桐島くんは「初恋はいずれ終わる」として”初恋の橘さん”と一応の決着を付けます.というのも状況と桐島くんの精神性では橘さんと一番同士という形で付き合うことは作品内での動機づけが不十分なので一旦この形を解消する必要があります.幼馴染という負けフラグを抱えたままだと分が悪いという見方も出来ます().ラブコメの初恋は叶わないものなのでここで一回解消する必要があったんですよね.

また上のセリフは「小さい頃は私のこと好きだったよね?」から続く形となっており,きっかけはさておき桐島くんから橘さんへの恋の好きになる過程は今に起因しているもので早坂さんとスタートラインを合わせる役割もあります.

それらを経た桐島くんは合宿を心の整理のための通過儀礼であり,人は経験によって変わると語ります.彼はこの経験を通してみんなが収まるべきところに収まろうと変わる変わることを期待しているんですね.

今後の恋路を語るうえで非常に重要なシーンですが早坂さんはこの情報を持ってないのでずっと初恋の相手に対して負い目を抱え続けています.初めてマウントが地雷の早坂あかね.

初恋の話を別の角度で拾い直すと桐島くんが早坂さんとの行為を拒む心理の一つにこの行為を通じて早坂さんが一番になり初恋の橘さんが一番じゃなくなることを挙げています.初恋は掛け替えのない特別なもので,それが他の恋と同列になることを無意識に拒んでいるんですね.結局のところ橘さんにとっても桐島くんにとっても初恋は尊いものだったんですね.

けれど彼はそれら全部この合宿を通して決着を付けようとします.

ちなみにこのシーンは「さよなら,先輩思いの桐島くん」で結ばれていますがこの発言は今後最悪の形で回収されます.草

愛情を受け取る話

1巻の結びとして桐島くんが橘さんに「愛されてるって分かって気持ち良かった?」と問いただすシーンがあります.桐島くんも橘さんも早坂さんも向けられた特別な愛情を受け取ることが至上の快楽であると位置づけておりこれは高校生編の終わりまで彼らの一つの一貫した価値基準となります.

ですので桐島司郎の悪徳はこの快楽を得る為の極めて原始的な欲求の発露だと言えます.

お互いの好きを交換し合ってお互いの特別になる.彼らの恋愛は不健全であるとされていますがその根底にある価値観は極めてプラトニックなんですよね.


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