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第2号 「遊びの発明」 (無料公開中)

「そういうことか新聞」第2号では、初披露となるコーナーが2つ。ひとつは、佐藤雅彦の随筆、名付けて「小石文庫」。文字数自由に書きます。今回は、スペインの町で遭遇したある光景から始まります。もう1つは、音楽のコーナー、「豆曲どうぞ」。歌が新聞から流れてくるなんて、スマホの新聞ならではのこと。
nコマ漫画」はn=2。鯉がプラカードを持って、ある主張を。
今週のココが好き」は、こんなところに2つの角(つの)が登場。
では、お楽しみください。(編集長 佐藤雅彦)


遊びの「発明」

スペインのサン・セバスチャンという町に、そこで開かれる映画祭に招待された時のこと。

旧市街を昼下がり、歩いていると、一人の少年が何故か建物の壁に向かって、さかんにボールを投げている。それがやけに嬉しそうなのである。

近づいて、よく見ると、建物の壁というよりも、歩道に面した何かの囲いの向こう側にボールを投げ込んでいる。囲いは少年より、ずっと高くて、向こう側は見えない。何故?何のために?

そして、ボールが無くなると、囲いの裏に回り、ボールを拾ってきては、また投げ込むのである。ひとつ投げては、今度は、また別の方向に、当てずっぽうのように投げ込む。もう夢中なのである。

それにしても、この嬉々とした表情、この弾けるような動きはただならない。

♦️ ♦️ ♦️

長旅の疲れも忘れ、好奇心の塊となった私は囲いの裏に何があるのか、ぐるっと回ってみた。すると、そこには・・・

囲いの裏には、表通りからは姿の見えない女友達(あるいは兄弟)が、いたのである。彼女たちは、どこから飛んでくるか分からないボールに戦々恐々としていた。さっきは、こっちからだったから、こんどはあっちからかも。
はたして、ボールはどのあたりから出てくるのか。

「しっ、声を出しちゃだめよ。私たちがいる場所がばれちゃうじゃない」

片や、通りの少年は、「あの二人がいるのは、このへんだ!」と言わんばかりにボールを投げ込む。

「わあ、きたわよ!」

なんて楽しい遊びなんだろう。見ているだけで、子どもたちが享受している喜びが自分の内にも起こってきた。見えない相手の居場所を想像して、ボールを投げ込む。はたして囲いの向こうではどんなことになっているのか。一方、囲いの内側では、自分のいる空間に突如現れるボール。このロケーションから生まれた新しい遊びをこの少年少女は、全身で楽しんでいた。

 私は、彼らが享受しているこの楽しさが、ビデオゲームやテーマパークがもたらすものとは異なる質であることを直感した。そう、この子どもたちが受けていた楽しさの本質は、「発明」というものが与えてくれる喜びだったのだ。


「 今週のココが好き 」は、佐藤雅彦がこの二週間でたまたま出会った「好き」を発表するコーナーです。気付くことの楽しさや目のつけどころが伝わります。

くつ下の角(つの)

くつ下を間違えて裏返しに履いたら、かわいい角(つの)が2本、はえていた。


今回は 「今、100人の赤ちゃんが産まれました」 をお届けします。

 音楽は、絵画や小説と違い、時間を伴った表現です。次の音楽は、今、この瞬間にも地球上に生まれてきている赤ちゃんのことを歌っています。歌うは、音楽家の豊田真之さん。豊田さんは、東京藝大佐藤研の卒業生です。


 「そういうことか新聞」も、はや2号。小石文庫「遊びの発明」は、いかがだったでしょうか。私は、スペインの片隅で見かけた男の子の生き生きとした表情が忘れられません。小さな発明でも、それがもたらしてくれる喜びには、生きている意味さえ感じました。/「100人の赤ちゃん~」も、いかがでしたか。
 私たちは、皆、「今」という時間の最前線にいるのにもかかわらず、そのことを忘れて、「今」をないがしろにしてしまいがちです。この歌を聴くと、私は、この「今」を強く感じることができます。(編集長・佐藤雅彦)


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