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和菓子も苦手、抹茶も飲んだことのなかったボクが、お茶をはじめた“本当の理由”


えんぴつを置いて、走り出す

物心つく時から絵を描くのが好きで、お正月の親戚の集まりでも、こたつの上で馬の絵なんかを描いていたのが記憶にある。運動神経はこれといって良くも悪くもなく、小学校からはじめた野球でも、芽は出ない。

しかしながら、なぜか足だけは速くなり、リレーの選手にも選ばれるようになった。(打ったら走るのが野球なので、塁に出たい一心)

中学からは陸上部、主に短距離(100~200m)の選手になった。(そうはいってもシーズンによっては、駅伝など長距離も走るのだが)都大会でも走ったが入賞(8位)が自己ベスト(やはり身長にシューズ、何よりコンパスが違う)

ナンバーワンを追わずに

“陸上で一番になれないことは分かっていた”」
そもそも、はじめから目指してなんかいなかった。」
負けることが嫌とかではなく、昔から“競う”、“争う”ということが苦手だった。

例えば小学校の休み時間、周りの男子は廊下でプロレスごっこ。
僕はといえば、教室内で机に向かって絵を描いていた。

陸上(スポーツ)には順位がつきもので、1位に価値があり、評価となる。一方で芸術であれば、順位<個性で勝負ができる。

「だから将来は画家になろう」 そう、心に決めたのだ。

家業を継がないために

岡田家は祖父の代から製本業で、父もその後を継いだ。

僕は長男なので、なんとなく「継ぐのかなぁ」という空気も流れていたが、父からは「自分の人生なんだから、自分で決めたら良い」と言われ、製本ではなく、デザインの道を志した。

その当時思っていたのは、製本は、編集→デザイン→印刷→製本と最終の工程にあたる作業で、その後の納品や流通を考えた時、納期のしわ寄せが最もキツい職業だということ。

夜通し作業するのは当たり前。さらに断裁機(最終的に本を積み重ね所要の寸法に断ち切るための機械)という、一歩間違えれば指を落とすような機会も扱わなければならない。(睡眠不足の状態では、極めて危険である。)よく機械の音とともに、眠りについたものだ。

何もしたいことがなければ、実家を継ぐことになる。“それだけは避けなければ”という思いで勉強をし、東京都立工芸高校に入学した。

ここでは、勉強や陸上で一時離れていた絵のことを思う存分楽しめそう。そして何より、その後の就職でも親の仕事と関りがもてそうというビジョンがあった。

健康志向のボク、茶道部の扉を叩く

さて、ここまで幼少期のことを中心に綴ってきたが、タイトルのお茶との出会いについてまとめてみたい。

念願叶って東京都立工芸高等学校に入学したわけだが、私服OK、髪型も自由、ピアスに厚底ブーツの個性尊重、何でもありの高校である。偏差値はさほど低くはないので、見た目は派手(地味な人もいます)だが、いわゆる不良みたいな感じの人はいなかった。ものづくりの5つの科があり、僕はグラフィックアーツ科(広告や印刷を中心に学ぶ科)に入った。1クラスは40名程で3年間クラス替えがない。男女比も異様でクラスで男子はたったの8人。それ以外は女子(というとよく「ハーレムですね」といわれる)だが、これが女子高ねというような空気に染まる。

入学早々に用意された、部活動紹介のオリエンテーション。1年生は視聴覚室に一同集い、各部活の紹介を聞く。野球部はキャッチーボール、軽音楽部は楽器を持ち出して演奏、そんな中、異色を放っていたのが茶道部。

普通だったら野点傘でも出して、着物を着てお茶を点てて「みなさん、入ってね~」かと思いきや、な、なんとパワーポイントを使ってのスライド。これどんなプレゼン?と心の中でつぶやきながら見ていくと「お茶の栄養」について。陸上もやめ、運動をしなくなるので少し健康には気をつけよう(高校生では珍しい?)なんて思っていた矢先で、この話。カルシウムにβ-カロチン、ビタミンE、食物繊維、鉄分などなど、今でいうスーパーフードじゃんとなり、とりあえずは数少ない男子にも声をかけ、体験入部に行ってみることに。

扉を叩き、襖をあけて、和室に入ると顧問の先生、先輩二人がお出迎え。1年生は20名程度。その後、お茶の先生らしき方が「みなさま、ようこそ」と正座で一礼し「まぁ、とりあえずお茶でも一服」とお菓子が出された。

「ん、お茶でもといったのにお菓子?」白い紙の上に乗ったお菓子には手を付けず、ようすを見ていると「お茶は先にお菓子を食べるのよ」という声。それまで抹茶といえば修学旅行で行った京都・奈良のお寺で体験したことくらいでほぼ経験ゼロレベルです。そして僕は和菓子が苦手。「これは場違いなところに来てしまったかなぁ~」と。先輩の点前で抹茶が出され、いただきました。(あまりの緊張で味はよく覚えていない)

一通りの体験が終わり、最後に着物のお茶の先生から一言。「みなさん、この度はご入学おめでとうございます。ここはものづくりの高校で、素晴らしい先輩方を輩出されていますね。みなさんもいずれは世界で活躍する人になっていくでしょう。その際に、茶の湯はやっておくと良いと思います。外国に行くと自国(日本)のことをよく聞かれます。また、日本の文化についてもお褒めいただくことがあります。そんな時、茶の湯(茶道)をやっていれば、きっと役に立つと思います。書、花、香、工芸、空間(茶室)に庭、和菓子に懐石、着物に所作に至るまで衣食住すべてが入っている総合芸術が茶の湯です。ぜひ、今のうちから始めてみてください。」

その言葉がストーンと腹に落ち、導かれるように始めることになりました。

和菓子が苦手、正座もろくにできなかったボクですが、この時が忘れられないお茶との出会いでございます。





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