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【✏】えんぴつ堂 #222~#249

使用の手引き…https://note.com/souffle_lyric/n/n0ba1320f658a
ごゆっくりどうぞ!


【222】
【✏】学生時代の制服、たまに被って寝てるんですよ。縛られてるみたいで速攻捨てようだったはずなのにいざ社会出て凄いヤバいですよねって。母校から葉書来たんですけど、制服リサイクルの。でもそうなると自分、まだ在校生みたいな…あー、突然、まだ在校生でいたくなっちゃった…みたいな、ねー…。

【223】
【✏】「涙はさ、在庫とか気にしなくていいから、いいよね」「働きすぎだろ…」「そかも…マーチャンダイジングな夢見る」仰向けの瞳。洟をすすりながら天井を見る、追い詰められた潤みの輝き。「夕飯まで寝てなよ」「うん…」寝返ってベッドが軋んだ。胸の店長名札の代わりに、痩せた腕の患者バンド。

【224】
【✏】「お、おうった…?えーっと、オーユー、ティーティーエー…、あ、短縮形か…」独り言なら割と多い方だ。スターの言葉を読みたくて、調べる事をするようになった。コミュニケーションの上手下手から遠く離れた、温水プールのような安心感。「あれ、ファンレターって…、uだっけ、aだっけ…」

【225】
【✏】「あれ、君、違う会場でも最後尾札持ってなかった?」「最後尾屋なんで」「最後尾屋…」「コビ屋。シンガリのガリ屋とか呼ぶ奴もいるけど自分的にはコビ屋のがいいっすね。はい、進んでくださーい」唐突な大移動の中、振り向けば豆粒のような彼。限定グッズより気になってきてしまったぞ…。

【226】
【✏】寒風の下、止まってるあなたの愛車。ヘルメットのバイザーがその瞳を隠すから、ほんの少しだけ不安になって、タンデムと言うには強めに腕を回して抱いた。「…どした?」「え、何が?」内心慌てながら、何もなかったように力を抜く。素直になるのは難しい。でも、もう、きらいにならせないでね。

【227】
【✏】昼のミーティングは全会一致に落ち着いた。部員達が教室に戻る音。笑顔の部長に口パクでお礼を言われ全身が粟立つ。独り反逆者だった僕が賛同派に転じたのは恐怖故だ、話が長引けば皆に見捨てられて一緒に帰れなくなるんじゃないかと…。空き教室での昼食は、砂利を噛む様な味だった。

【228】
【✏】羽振りのいい団体様がいらっしゃる度に「梁山泊よ!」って女将ははしゃぐけど、数泊泊まる位でそんな風に言って良いのだろうか。切り盛りの宴会場は浮世の愚痴と食事と酒の匂いで一杯。…とはいえ、絶対に極楽に過ごして貰うんだから。豪傑ばっかりじゃなく、宿屋だって強く活躍したい。

【229】
【✏】「最近皆幸せ求めて血眼だから、座敷童もドン引きして控えてるんだよ、人助け」童のやや生意気なお願いにより、通信用ケーブルを繋げてゲームで遊ぶ。家々を巡り道場破りをしているらしい。敗北画面が表示されれば沸沸と癇癪が湧き上がる。こいつ!「ああほらまたそういう事する…コドモだね」

【230】
【✏】今度はブルネットにしたの。施術したての髪を弄る、現実離れした衣装を纏う彼女。そんなにそのキャラに近づいてどうするの?泣いて稼いだお金でちゃんと笑うんだよ。そんなに…なりきって、どうなるの?どうなるんだろ。そこで彼女はキャラ崩壊、満面の笑みを湛える。「寂しくはなくなった!」

【231】
【✏】「それで。キャセるにゃ?キャセらにゃいにゃ?」「まあ、キャセるか…」他のレシピを見るのも面倒臭く、耐熱容器を出す。下宿に居着いた甘え猫はキャセロールがお好き、肩に居座り「野菜爆焼きにゃ」と命令。「…猫って玉葱とかNGなんじゃねえの?」「苦しゅうにゃい」「そこは苦しめよ…」

【232】
【✏】スピリチュアルスパチュラという安いヘラがニュースで流行中。何かをすくえば救われて、こそげ落とせば悪運が落ち、頭痛と腰痛と人間関係も緩和、さらに数を多く置けば願いが叶う、等と後付け効果が後を絶たない…。迫る出勤時刻に情報番組を消す。…おっと、“これ”は靴べらじゃなかった。

【233】
【✏】“夏野菜”とつけてみるだけで気分がうきうきするのは何故だろう。クラスの誰かがそう言って、他愛ない遊びが流行った。夏野菜と青空、夏野菜添えプール、初恋夏野菜、夏野菜準備室、カンニングサマーベジタブル、追試夏野菜、補習なつやさ…「…何か腐ってきたな…」「俺夏休み欲しいよ…」

【234】
【✏】プロの世界を──伝聞でも液晶越しでもなく──ただ見つめた時の気持ちを覚えているだろうか。自分など井の中の蛙どころかまだ四肢すら生えていない…黒ぶっても透けながら流されゆくオタマジャクシなんだと痛感した。…変化は急だというけれど、私は跳ね上がるように、成長できるのだろうか?

【235】
【✏】退勤時に数回寄っただけで、大将は顔を覚えてくれた。「良いニュースと悪いニュース、どっちから聞く?」「…人の悪い報せと自分の良い報せ」「違えねえ!皆そう言うからそのセットは売り切れだ、俺個人の悪い話で勘弁しろや」「え、それは」「素直だなあ新卒は!」豚骨スープの匂いが、しみる。

【236】
【✏】炊飯器を開けば、形を成したパンがそこにある。初めて押した機能ボタンが導いた色膨らみ、何度か蓋を開け(がちゃ)閉め(ばたん)した後に恐る恐る持ち上げて(もちっ…)皿に載せてみても(とすっ…)パンだ…。炊パン器、と下らない言葉すら零れて心が膨らむ。さて、ジャムは載せようか、挟もうか?

【237】
【✏】極上の指遣いに揉み解される頭皮。惚れっぽさが頬に頭に伝わって、気づかれたらどうしよう…?「…以上の内、どのトリートメントにします?」「…え?あっ、ぁ…」勿論あなたの好きな香りを纏います、じゃなくて!「あ、あんず、や、アプリコット、とか…」「はい畏まりました~!」あるんだ…。

【238】
【✏】温泉行きたすぎてヤバい、連勤は終わらない。涼しい顔でアクアパッツァの皿を運ぶけど熱々の海の幸がスープに入浴してるのすら羨ましいし、皿を置けば大学生集団はエモエモ言いながら写真を撮り始めて喧しいし、その上彼らの卓には大分の観光本。ただただ恨めしい。温泉行きたすぎてヤバい。

【239】
【✏】列誘導の指示に従い、同じ地平に登壇していく。ひとり前の人と握手する彼女は、その手に今一度力を込めた。ああ…。匿名で誇大していた自分の矮小を知る。現実を生きるその強い姿に足が竦んだ。前の人は降段し、誘導員に促される。彼女は微笑んだまま、凛と僕に向き合った。
「こんにちは!」

【240】
【✏】「聞く時は意訳、言う時は加訳しちゃうんだねえ君は。怖いの?」「っせ…」苛立って仕方ないこちらを他所に、白衣を裏表に着た医者は伸びをする。「アルコールは苦手なんだよね?じゃ紅茶の力でお喋りしよう」「ハ?」「大丈夫さ。案外、ストレートのお茶の味を知らない人っていないもんだよ」

【241】
【✏】「“クリーニング”、出してみたけど戻されちゃった。手を尽くしたけどダメでしたっていうタグ付きで」「それじゃ、捨てちゃうの?」「んー…汚れ物だけど。もうちょい一緒に過ごしてみようかな、と」太陽が青に澄み晴れて、足音たちを暖める。「…そういって貴方、また別の業者に頼むんでしょ」

【242】
【✏】例えば加護や恵みやご利益を望むなら。どうぞ私に願って、頼ってきて。「…とはいえ、私も人間だけど。こうしてる時には、何だかそんな力もある気がするから…」小さなベッドの中の世界で、髪を撫でられる。温もりは波となり、そのまま、霞んでいく。「…おやすみ…」「はい、おやすみなさい…」

【243】
【✏】帰り道、手を繋ごうとしたら電気が走った。「わ!静電気、ごめん」「ふふ、キスですねえ」「キスですか…?」「うん、激しい♪」買いたてのコートと笑顔で手を伸ばされる。「さ、ワンモア!」「はいはい」エコバッグを持ってない手を素早く何度か結んで開いて、今度こそその手を取った。

【244】
【✏】「直す時は、そのモノが壊れたシーンを想像します。刹那の衝動や、一瞬の不注意とか」苦しくないですか。「よく泣いた。濡れた手を拭いて、直し方を勉強しました。この手ごと道具にする為に」強いんですね。「師匠様のお陰。失敗も凄かったけど今はこの体に技術があるから…私の手は狂いません」

【245】
【✏】学食自販機のココナツミルク、他に買う奴がいると思わなかった。この高くてちまくて地味な飲み物で、初めての順番待ち。パックと釣銭を取った深窓の令嬢は、小さく会釈し背を向ける。ダメだ、興味が。「あ、あの…さ!?」開けっ放しの小銭入れが、お嬢様の上履き目掛けてすっぽ抜けた──!

【246】
【✏】残念でした。ぼくは…きみの視野狭めな解釈も、胸の奥で拗れ続けて知恵の輪になってる思想たちも、シンプルなひとになろうと見せるうちに疲れてしまう不器用さも、両手を広げて包み込んでしまえるんだ。吐き出されたもの全部、大口を開けて食べてしまおう。きみが一歩、踏み出してくれるなら。

【247】
【✏】“あすなろ抱きで…と頬を染めつつ身体を委ねる記者。公衆の面前で五臓六腑が彼に抱かれて爆エモぎゅんぎゅん丸。熱やば。腕筋伝わる。無理無理無理好き…神に感「いや何だよこの記事!」「渾身作です!連絡先も載せてます」「ハグ屋のだけで良いんだよ、お前の連絡先併記すんな!」「ぴえん」

【248】
【✏】「あなたは私の動機なので、早く追いつけるよう頑張ります!」動機。少しイラッときたけれど、思えば最近夢とか希望とか、温い言葉に飽きていた。そしてこの純朴な瞳は、本心から言ってるんだろう。(なら、あたしもあんたを動機にしてやる)点火しあって燃料にして、圧倒して、追いつかせない。

【249】
【✏】薬膳が良い、と風邪の弾みで呟いてしまいました。あなたもわたしも健康的な食事には疎くって、そんな大雑把さで引っ付いたのですが。だからこそ、私のことを考えるところからしてみてほしいです。どんな栄養をくれますか。布団の端で口を覆って、微熱の力で訴えかけてみました。甘いでしょうか。

お気に召しましたら是非お願いします! 美味しい飲み物など購入して、また執筆したいと思います ( ˙︶˙ )