カップ

台本*6「Candy Junkie」(一人用)

使用の手引き…https://note.com/souffle_lyric/n/n0ba1320f658a
ごゆっくりどうぞ!


◎設定
主人公…叶野 碧(かのう へき)
飴を舐め続ける未成年の学生。

***

婆(ばば)ぁに貰った巾着袋には、色んな飴が詰まってる。
ミント、フルーツ、棒、金太郎。
ぼくは、キャンディ中毒者だ。

朝。ハーブののど飴。
風邪なんて引いちゃいないけど、白いマスクの下で転がしながら、当たり障りのないことだけをトモダチと話して登校する。鯉に餌を撒くように、適当にニコニコ配ったりする。お返しは期間限定のやつをちょうだい、なんて願いながら。
でも、授業中の方が楽しいと思う。男子も女子も、皆教科書の傍にスマホを隠して置いて、それぞれの連絡先と繋がってる。教師ですらそうしてる。
マスクの下から、もう一粒。チャイムが鳴るまで、ぼくはノートに板書(ばんしょ)と落書きを繰り返す。


昼食後。婆ぁが巾着に押し込んできた、黒飴。
ああ、見るからに暗い。こんなに黒いものを、ぼくはまだ好きになれない。
そして、黒飴を口に入れた後の、空虚な包み紙。飴を包んでる紙ってとっても魅力的だけど、飴を取り出してしまうと本当にゴミだ。
ふとスマホに目をやる。暗記できるほど覚えた、あの番号からの着信はない。苛つく。

──ガリッ。

婆ぁが親切でくれた飴だけど、噛み砕いた。
次はカラフルなキャンディを口にして、こんな心模様を塗り潰そう。


帰り道は独り。輸入食品店で売ってたコーヒーキャンディ。
外は冷えてて、マスクの下で、苦い苦いかたまりを舐める。飴と舌が戯れ抱き合って、口内で自分の体温を知る。
あの人の体温はもう感じられないんだな、そんな風によぎった思いも、言葉になる前に、叫び声になる前に、キャンディは堰き止めてくれる。
寄り道とも言えない回り道をして、残ってる飴にすがって、今日は帰ろう。
傍よりも隣よりも、キャンディは内側にいてくれるから。

昔ぼくだった人へ。
そして、これからぼくみたいになってく人へ。
ぼくは、キャンディ中毒者だ。


【終】

お気に召しましたら是非お願いします! 美味しい飲み物など購入して、また執筆したいと思います ( ˙︶˙ )