カップ

台本*4「雑踏型日常形」(モノローグ・一人用)

使用の手引き…https://note.com/souffle_lyric/n/n0ba1320f658a
ごゆっくりどうぞ!

◎設定
主人公…榎本二季(えのもと にき)
通勤中。
それ以外の設定は自由に決めて下さって構いません。

【♪雑踏SE】

数日前からパートタイマーとして、歩くこととなった通勤路。
休日と平日の境も、自然と消えてしまった時代。
通勤時の服装規定はないから、フードを被って呼吸をする。

ハロー、ハロー。
僕は見知らぬ誰かです。
無限に続くほど長い横断歩道を、渡り始めます。

BGMはワールドミュージック。
確かにここはグローバルな街だけど、そうだからじゃなくて、
もうそれしか流れないイヤホンをつけているから。

この横断歩道では、いつだって誰もが、カメラかレコーダーを起動している。誰かに、どこかに、配信されて、リアクションが来る。
このクロスロードは街の定めに則い、真っ直ぐに引かれているけれど、
渡る人の心まで、真っ直ぐだとは限らない。

そういえば、この横断歩道。もうすぐ動く歩道になるらしい。
ムービングクロスロード。そうなったら、この交差地点はどうなるのだろう。
加速がついたこの交差点を、人々はどんな顔をしながら、接触しないように通行するのだろう。

「(通行人とぶつかり)…あ、すみませんっ…」

誰かもわからない人物と肩がぶつかり謝った。返答率は50%。
「………はぁ…。」
何となくの人波に沿って。歩みを止めないまま。
パーカーのフード越しに、耳を澄ませるポーズをしてみた。
好きだったCDジャケットの、歌手がしていたポーズ。
ささやかな自己主張。
そしてすぐに、何気なく手を下ろす。
見知らぬ人に、変な注釈や、キャプションをつけられないように。

…こんなことをしながら通勤する僕は、浅はかな考えだけれど。
ここにいる誰かが撮ってる動画の、片隅にでもいいから、
内心、映りたいと願ってやまないのだ。
この「片隅にでいいから」という部分も、本当は多分ウソだ。

ハロー、ハロー。
僕は僕です。
不安定な横断歩道を、
もうすぐ、渡り終えてしまいます。

【終】

お気に召しましたら是非お願いします! 美味しい飲み物など購入して、また執筆したいと思います ( ˙︶˙ )