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【✏】えんぴつ堂 #250~#277

使用の手引き…https://note.com/souffle_lyric/n/n0ba1320f658a
ごゆっくりどうぞ!


【250】
【✏】サイドカーに配達物を山積み、最後に配達犬を乗せてエンジンをかける。「わふ!」揃いのヘルメットだが、バイクに跨る自分の方が無愛想で動物だ。事実、受け渡しも自分より他人より、愛犬が行った方が余程反応が良い。「…行こう」「わふー!」冷気の夜風に顔を上げ、そこに月が見えなくとも。

【251】
【✏】「魔物を倒しながら旅なんて、する訳ないでしょう」HPを残り1まで削いだ魔王を見下ろし、淡々と告げる。「勇者訓練校にて、短期でレベルカンストしてから出発するんです、我々は。そういう時代です」学用品のロングソードを握り直せば思わず笑みが零れる。これで称号獲得、学内首席だ──。

【252】
【✏】「枝毛って素直で、私はこんなに傷ついてるーって主張する。でも、心は隠したがります」「確かに」ちょきん。人の枝毛を切るのが好きで、日向で髪を切る資格を得てからも、日陰で枝毛切り屋を始めてしまった。「あ。すごい枝々しいのありました、見ます?」「見たいな」窓越しに桜が散っていく。

【253】
【✏】「貴方は本隊?」「はい。姫様は無事、別働隊と脱出しました。ええと…」「私は影武者よ、影とでも呼んで」「しかし」「ふふ。なら、影姫様、は?」「影姫、様…」「あの隊にはね、幼馴染の男がいるの。いいな。あの子は彼に救って貰えて」「……」「嘘よ。影の言う事なんか、信じちゃ駄目よ…」

【254】
【✏】「勘違いしないでよね!別にアンタの為にお店で香りを見繕って調合してもらった訳じゃないんだから!最近気温差激しいのだって天候のせいで別にアンタのせいじゃないんだから気に病んだりしないでよね!好き好き!」そう言い置かれ脱兎される。莫迦莫迦とでも言うつもりで混同したのだろうか…?

【255】
【✏】この傀儡皇子の一口目で、メンセン派とツユセン派の争いに終止符が打たれる。この鉢一つで覇権が決まり、歴史が変わる。両家が見守る中、皇子は箸でなく蓮華を取った。ツユ派は勝利の確信に湧き、メン派はまだだと麺神へぬかずき祈り始める。つぶらな瞳で皇子が掬い取ったのは、煮卵だった──。

【256】
【✏】「長老の牙で創ったこれ…吹くと小獣達がね、長老の声と勘違いする。だから命令もできる。成りすましです」横笛の導き手は、そう言って小獣を撫でる。彼らの視力はひどく弱いという。「人間とバレたらきっと私がどうかされますね。はは、こら、くすぐった…!」すかさず、笑いの声を笛で鳴らす。

【257】
【✏】くたびれたジャージを買い換えるより先に、自主ランタイムは毎日来る。今日もこれ着て走るのか…あれ?そうだ、コースを変えれば?お店まで走って、復路は新品着て走れば?どうして気づかなかったんだろう。時々止まって経路を開きながらでも。「やる気出たっ…!」今日のランは、ミッションだ!

【258】
【✏】「“私”ができるのは私だけだけど、“私のかわり”ができるのはあなただけ。だから自信持って、“私ちゃん”」わたしの首と腰に一本ずつ腕を回し、あなた様は言う。あなた様を写した装いの内に、その体温までもが流れ込む。確かな事は唯一つ、この腕で抱き返して差し上げればとても喜ぶという事だ。

【259】
【✏】バイト先の柱に百均のツタを巻く。とにかく見栄えを良くしろという指示以外何も無いから、そういえばこの柱のこともツタのことも詳しくは何も知らないな。何事も何となく把握して眺めて、日常を舐めているのかもしれない、私は。座った脚立から見上げた天井、淡く頑固そうな染みを見つけた。

【260】
【✏】蝉の声に負けじと、公園の足洗い場ではしゃぐ子供達。大人になれば、足を洗うという言葉の意味すらいつのまにか変わっているというのに、何が楽しいのだろう。「~~~!!」「ーーー!!」弾け飛ぶ声に水飛沫。自分の足指の間をあんなにも楽しそうに洗ったことって、ここ暫くあっただろうか。

【261】
【✏】「名探偵様!リンゴ農家さんの証言によれば、娘っ子を見た現場で同程度の身長のお坊ちゃんも見たそうです」「御苦労。やはり変装して逃げたか」「多分そうなんでしょうが私的には双子説爆推しです、諦めたくない」「爆推しするな、推理をしろ」「はい、うさちゃんリンゴです、」「……。もぐ」

【262】
【✏】かこぉん──……。空に羽根が吸い込まれて、反射的に振り仰ぐ。正月遊びなんて試験にも面接にも役に立たない、ただ親戚を満足させるものだと思ってた……そんな世界が丸ごとひっくり返って、気がつけば足が踏み出して羽根を追う。もう一度あの音が聞きたくて、花咲く絵柄の羽子板を振り抜いた。

【263】
【✏】午前まで伴侶だった人の挙動については、身内の証言ながらお話できます。午後からのあの人の素性については、これっぽっちも知りません。役所に届を出した帰り道、起こりもしてない複雑な事件を聴取される空想をしている。帰りつけばもうきっと、家の中はがらんどうだ。ランチはどうしよう?

【264】
【✏】「新しいの買うんだよ、カセットコンロとタコ焼きプレート」自分にあまり馴染みのない道具は、何だか光の言葉に聞こえた。大丈夫とか元気出してみたくタコ焼きプレート……って言えば元気出る人すらいるんじゃないだろうか。「…タコパ、来る?」「え、あ、チーズ入れていいなら」「おっけ!」

【265】
【✏】「土地神様が月一度、住民からエンギモノ…縁起者を選ぶ。歩けば微笑まれ、最上の持て成しを得られる」「…でも、持て成す側って…楽しいかな?」「だから、役目を終えた縁起者はふと、恐怖する。自分だけがもし、“もう一度”選ばれでもしたら…って」「土地神様、ほんとにいるんですかね…?」

【266】
【✏】出ると聞いて壁のシミが恐くなったが、引っ越したての貧乏学生には御札などない。ヤシの木柄のウォールステッカーを貼った。そしたら他が殺風景に見えて、安くて派手なハワイグッズを並べた。そしたら、友達を沢山作って呼びたくなった。出るかどうかは分からないけど、この家の出入りが増えた。

【267】
【✏】デスクに切り花を置き始めて暫く経つ。最初は色々噂されたけれど、次第に何も言われなくなった。
花の唄がきこえる。他の誰にも聞こえない唄、僕からの返事も届かない唄。唄が途切れたら枯れたということ。その唄をきくのが好きで、僕はデスクに、代わる代わる切り花を置く。

【268】
【✏】「現時刻を以て……素敵な貴方がまだ……未だ敵で無いという認識を……打ち消します……未敵は打ち消し……敵に廻った貴方を私が……不敵に嗤って否定をすれば……無敵状態非敵常態……向かう処に独りも敵無し……かつての敵は敵骸に成る……貴方……貴敵を打ち消す……索敵……開始……」

【269】
【✏】物知りだねと、素直な感想がこぼれた。「そうですよ、私物知りです。頑張りました」すごいなあ。「だから、貴方は貴重」……?「自分って凄いな~って、何度も実感出来るから。物知らずさんといると」物知りっていうより意地悪だ……。「……意地悪は、物知らずさんの友達にはなれませんか?」

【270】
【✏】視聴覚室で刺激し合う。クラスメイトが来ないように、狭い機材部屋でキスをした。教職員が入って来ないようにドアの鍵を掛けながら、早くここから飛び立ちたいね、なんて意味の話をした。持ち込んだふたつの弁当箱からの香りが、他愛ない昼休みだと言わんばかりに、漂い続けていた。

【271】
【✏】「モノじゃなく言葉が欲しいのは分かったよ。でも何て言って欲しいの?そんなに声を震わせて」「“期待している”と…。大抵のモノは買えます。努力で力や人脈も得ました。でも、今後は、この状態を維持し続けなくてはいけないから……だから、期待を頂けませんか。期待をし続けて下さいませんか」

【272】
【✏】朝の忙しさときたら、毎日何かに乗っ取られてるのではと思う。目が開いて、自分が起きてたり生きてたりに驚いて、すぐに身支度に迫られて。「…そうしてんのが、自分独りは寂しいから」きっと世界も何もかも、朝は混乱して一斉に目を回している。そう思えば少しだけ軽い今日へ、行ける気がした。

【273】
【✏】職員室も放送室もこの生徒会室さえ…夜は皆空き教室だ。少しの寂寥感と共に今日も業務を締める。「って、あいつ!」信じらんねえ、弁当箱、食べかけ、放置、忘…!「ああもう…!」見過ごせず自分の鞄に乱暴に突っ込む。前言撤回!ここを毎日健やかな空き教室にする事こそが、生徒会の務めだ…!

【274】
【✏】「案件を引き受けンなら完遂は当然だが…」そして師匠は、霊杖の上下を持ち替えた。守護誓陣の白が呪詛醒陣の黒へと反転、十重二十重の混沌が満ちる。「困難だろうが一矢報いねば、得意先に申し訳が立たん」醜悪に蠢く呪言は、赤黒い蚯蚓の群れ。青褪めた笑顔。「引き継ぎは頼んだぞ、馬鹿弟子」

【275】
【✏】「負けん気が強いんだね」カッターを振り上げた手首を、背後から掴まれる。誰?「俺も昔は、よくそうして暴れたよ」ふーふー言って止まらない身体に腕を回される。「…ッウう…!」背中が熱い。これは抱擁?それとも拘束…?「今は、おやすみね」掌で目を覆われて、自分が涙していた事に気づく。

【276】
【✏】“おべんと箱にほかのおかずきたからどかされた”それ以上は一切語らず、不格好な卵焼きは俺の部屋に居着き始めた。美少女にも役立ちアイテムにもならないが腐りもせず(何で)、青いハンカチタオルの上を定位置とし、もきゅもきゅと日向ぼっこをしては昼寝をして、たまに作業を見つめてくるのだ。

【277】
【✏】晴れた昼に腫れた眼で、袋麺を茹でる。傷ついたって何されたって、これ位なら一人で出来る。「あ…」そうだ、具材何もなかった。いつの間に食べきってたんだっけ。「…あ!ぁぁ…」いつの間にか粉末スープの袋が鍋の中を泳いでて、事実が強がりを指摘する。思った以上に引きずってるようだ…。

お気に召しましたら是非お願いします! 美味しい飲み物など購入して、また執筆したいと思います ( ˙︶˙ )