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【✏】えんぴつ堂 #167~#194

使用の手引き…https://note.com/souffle_lyric/n/n0ba1320f658a
ごゆっくりどうぞ!

【167】
【✏】Aさんイチオシの曲を聴きながらEちゃんから借りているハードカバーを早く返却できるように読んでいたら、I様から急な仕事が入った。片付けているとO氏から着信、Uが忘れ物を預かってくれているという。あれ、ぼく何か忘れていたのか。あと、ぼくのイニシャルって何だっけ?

【168】
【✏】さすがに土は持って帰らなかったけど、グラブまでしまい込めなくてさ。そう言ってたのを思い出しながら、彼の部屋にある補球道具をぼーっと見てた。えーと、グローブだっけ?ミット?調べるためにスマホ出そうとして、やっぱり直接訊こうと思ってやめた。君が注いだ麦茶がさっぱりと、香る。

【169】
【✏】「からあげ串パーティを、しよう」疲弊した誰かの一言で、瀕死だった自宅兼職場に大量の串物が届いた。「私調味料作りますね」「僕飲み物」「お、ありがとうー」ケチャップや塩、レモンにハニーマヨ。何をつけても良し、食べやすく串から外しても良し。「はふぁ…」パリリ、じゅわぁと齧りつく。

【170】
【✏】21人分の部費入り封筒を撫でる。この金額なら、あの時盗んじゃったお菓子も文房具も普通に買えるな。クラスメイトに友達に外国人、助かる人がたくさんいるな。「事務室」「え」「一緒に行こっか、会計さん」「…頼む」 監視役の友人と席を立つ。友人の部費もまた、僕の財布から捻出されている。

【171】
【✏】ウォンバットの姿の時は素直に懐けるのに、ヒトに戻ると反動かってくらいツンツンしてしまう。でも人間のあたしのこと嫌いにならないで。
言い合いをした喉が痛い。こんなセルフ焼き餅でまたキミが恋しくなって、何もしらないキミのとこまで、四足歩行でよしよしをねだってしまうのだ。

【172】
【✏】裏庭の物置小屋、そこでできる遊びは全てやった。薄暗いその場所にもう飽きてしまっていたけれど、ある日話の流れで友達を連れ込んだら目をキラキラ輝かせていた。すごいすごいすごい、興奮気味に口にする友人を見ていると、ああ、まだ遊べることはたくさんあるんだなあ、なんて感じたんだ。

【173】
【✏】ポマードと3回唱えるまでもない、一度言われただけで身を裂かれるような言葉なんて俺にも君にもある。お互いのポマードを知りつつ何となく傷口に手を触れ合っている、そんな様をナントカ愛とかナントカ情とか言うのだろう。
いくつかの記憶。吐き出した煙は頼りなく、空の灰色へと舞い上がった。

【174】
【✏】レーザープリンターから飛び出るチラシは温かく、産まれたての赤ちゃんのようだ。弾む気持ちに根拠などなく、もっと沢山配れそうだと勇気が湧く。あと20部足そう、もう10部増やそう。途中で用紙が切れる事もなく、長机で軽快に縁を揃える。印刷室から校門へ、新入生より元気に駆け出した。

【175】
【✏】けんけんだまだま。恐らく喧々諤々と言おうとしたそいつは、無けなしのうろ覚え知識でそう滑った。その場の全員無言の真顔で受け止めたはずなのに、奇妙なのはじわじわとその言い回しが広がっている事だ。ポーカーフェイスの誰かが広めたのだろう。けんけんだまだま。断じて私じゃない。

【176】
【✏】眼球へ伸びてくるキックを飛び退って躱す。逆風が味方した、そう思った時には交差した腕で拳の第二撃を受け止めていた。衝撃を散らしながら雑木林に転げ落ちる。ああ早く援軍、一人でこんなラスボスみたいなのと戦いたくない。多少のダメージを覚悟しながら、溜まった息を一秒で吐いて構え直す。

【177】
【✏】エビチリとエビマヨ…どちらにしようか悩んだ結果、エビチリマヨにした。フライパンの中の世界から、活き活きと湯気が立ち上る。
カレンダーにつけてくバツ印は、今日だけは○印。かき混ぜるごとに、チリとマヨの匂い。ああ何だか気づけば自由だなあと、日なたを見つめた。

【178】
【✏】ロフト付きの家に引っ越したようなもんだよ。最初は声上げて珍しがるけど…その内慣れて、暮らしの一部になる。
いつか、キミの私物もこのロフトに何気なく置けるようになるくらい、何度も遊びに来て欲しいな。ボクはそれが苦じゃない人を、例えば友達って呼んでる。

【179】
【✏】このティーキャディは噛むよ。気が散ってるのをきちんとして、真剣にお茶を淹れないと蓋が勢いよく閉まる。…これをくれた祖父の適当な嘘とはわかっているけど、ティーバッグを出す時にはいつも手で蓋を抑えてる。こんな緊張ない方がいいのに、花畑みたいに香る箱を捨てられないからもっと困る。

【180】
【✏】僕の誕生日は僕の節句だ。自分の大好物を食べて、無病息災を心底祈願し、己の大願成就、我が身の商売繁盛を切に願って、たんまりと自身を大切にしよう。…でも、そんなこと、慣れてなさ過ぎて恥ずかしいから。少しだけでいいから、その、僕のため、に、手伝ってくれないかな。

【181】
【✏】無理そうろうとかキツそうろうとか、古文のテスト後には適当文法が飛び交う。全然できてないよ、皆はいかにぞやいかにぞや?なんてテスト範囲を適当唱えればどっと笑いが起こった。ああこんな下らない事してないで早く独りで勉強させて。炎暑の候、われ、あなたたちと違ひ候へば。バーカ。

【182】
【✏】担当美容師の大失恋による上の空施術で、頭部にこけし人形ヘアが爆誕した。帰り道はため息と無傷の財布、行きよりも深く被った帽子。ショーケース越し、黒髪ウィッグの一つに足を止めて息を呑む。センス良い、蒸れづらそう。美容師ってこういう出会いをくれる人だったのか、と思ってしまうなど。

【183】
【✏】虚仮にしくさって。金庫は荒らされ、財産は持ち出された。贈ってやった金品だけは、丁寧に部屋に残されている。虚仮にしくさってからに。手紙や言葉は何一つ残されていない。今この瞬間の空が何色か、持病を差し引いても良く分からない。もう彼女と共には仰げないのだろうとしか、解らない。

【184】
【✏】空のままの虫かごに溜息をついて歩いてたら、背中から一匹のアキアカネに追い抜かれた。虫取り網を持っている事も忘れて見惚れれば、その身を夕陽に染めて遠くなる。翔んでいったのに、まだ瞼の裏にいるなんて。そんな不可思議で、鮮烈な帰り道。

【185】
【✏】憎まれ坊主が袈裟まで隠滅するように、息を潜めてデリートキーを押し、ポケットに隠し、あの人には言わずにさっきの人にだけ伝えた。自分が最小限に抑えているのは、何にふりかかる被害なんだろう。テレビの中で「命じられてやっただけ」と必死に言ってる小悪党と、一杯やりたい気分になった。

【186】
【✏】「あの2人はもう無理だろ、平行線だ」「や、海峡くらいでしょ」「…海峡?」「例えだよ。切欠がないだけで、お互い海へ突き落とされたら手を繋いで一緒に助かりたがると思う。ここは一肌脱いで、マッチポンプ的にヨリ戻してやろうよ」「なるほど、通り魔地引き網か」「…通り魔地引き網?」

【187】
【✏】TGIF、干した洗濯物が降られても二日あれば。TGIF、デートの誘いに返事がなくてもまだ二日もある。TGIF、どこへでも行ける時間、何をした気にもなれる二日間。TGIF、真っ白な未来のような、毛布を着て過ごすのも良いかも。TGIF、帰りに好きなドリンクを買おう。Thanks God, It's Friday.

【188】
【✏】大風呂敷で君を攫おう。馬や馬車は買えなかったから窮屈な思いをさせるけれど、君が買われるのだけは嫌だった。包んだ君の重みを感じて、奪った顔はどんな表情をしているんだろう。その唇を荒らしてしまわないように、まずは月を遮る屋根の下へ。

【189】
【✏】材料は怒り、調味料は新鮮な野菜Aと野菜Bと野菜C、隠し味は各種調味料。怪我に気をつけながら野菜を理不尽切りにして、我慢した分の火力で冷静になるまで炒める。外面良く盛りつけたお皿を元凶に差し出す頃には、それなりの機嫌も帰ってくる。おかえり、できあがり。

【190】
【✏】目標を達成したから理容室に行った。バリカンが落とす毛髪の多さに願掛けの執着が見えて、我ながら感動しながらゾッとする。願いが叶った嬉しさを表に出すのは恥ずかしいから、バリアートは幾何学模様。また髪が伸びるまでは自分に酔っていよう。さっぱりしましたねー、軽い声に無言で頷いた。

【191】
【✏】前八寸(山桃と枝豆)、御造り(鯵たたき)、焼物(鮎塩焼)、蒸物(蟹蕪蒸し)、揚げ物(天麩羅)、食事(松茸御飯、味噌汁、 香の物)、水物(ゼリー)。身体の季節がゆっくり変わる。「一皿ずつ見て嗅いで、食べて、いっぺんも心が変わらないひとなんていないでしょう。だからわたしは料亭が好きなんです」

【192】
【✏】怪奇アプリによれば、峠の大木には鬼の顔をした不気味な実が結び、散華と共に小鬼が跳び産まれるらしい。好奇心で一晩張り込んだが収穫といえば侘しく半端な花びらばかり、純心は憤慨に変わった。私も今は夜な夜な、怪奇アプリに嘘っぱちの目撃情報を書き加えている。捻くれ続ける人間夜行。

【193】
【✏】悲しくなるほど臆病だから、オポッサムを1匹家に迎えた。通販が届くドアホンにも傍で代わりに驚き倒れる、おかげで居留守する回数が減った。ぼくも外ではすぐ磨り減って帰宅するなり倒れるけど、視界の隅には買い与えた餌をもきゅもきゅ喰べるオポがいる。よかった。倒れるけれど崩れない日々。

【194】
【✏】『 また折を見て』そう打ち込みかけた両手が止まった。折っていつだ。あの危うい貼り付け笑顔を、また見せてくれるようになったらだろうか。天井を見上げて回転椅子をぐるりと回し、一番お手軽な世界一周、をしてから画面に向き直る。何行か分の文字を消してから、『お節介かもしれませんが、』

お気に召しましたら是非お願いします! 美味しい飲み物など購入して、また執筆したいと思います ( ˙︶˙ )