◉卒論本文◉放課後等デイサービスの利用決定に至るプロセス ~保護者の施設選択の語りから~

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放課後等デイサービスの利用決定に至るプロセス ~保護者の施設選択の語りから~

2015年度 公共政策学部 福祉社会学科 812220038 濱田 倫未


【要約】

 この論文の目的は、障害児の放課後支援である「放課後等デイサービス」について、子どもが利用に至るまでの経緯や施設選択の状況に焦点を当て、利用者が放課後等デイサービスに求めていることを明らかにすることである。放課後等デイサービスは2012年の児童福祉法の一部改正により、障害者自立支援法の児童デイサービスを置き換える形で新たに創設された。2012年には3,107ヶ所であった施設数は2014年には5,267ヶ所にまで増えている。施設数の拡大により利用者は複数の施設から利用する施設を決定することが出来るようになった。

 そこで保護者がどのようにして利用施設を決定しているのかを明らかにするために、放課後等デイサービスの施設を2か所以上利用した保護者と施設従事者にインタビュー調査を行った。インタビューによって得られたデータはグラウンデッド・セオリー・アプローチを利用し分析を行った。

 第1章では放課後等デイサービスの制度の概要や基本的役割を示した。また、サービスの利用者が増えている状況やサービスを行う事業所が多岐に渡ることを示し、量的拡大が進んでいることを明らかにした。さらに、量的拡大以後放課後等デイサービスが抱える問題について整理した。

 第2章では放課後活動支援が必要になった経緯を示した上で、放課後支援の制度の変遷を示した。また、放課後支援に関する議論点や視点を示した。

 第3章では放課後等デイサービスの利用者・従事者へのインタビュー調査の概要と、分析結果を示した。保護者が利用する施設を選択するプロセスを概念図に示し、インタビューから抽出したカテゴリーと概念について説明している。

 第4章では調査結果から明らかになった、保護者が施設を主体的に選択するために必要な視点や、施設選択を阻害する要因について考察した。

 調査からわかったことは、保護者は情報ネットワークをうまく活用しながら数ある施設の中から利用する施設を選び取っているということである。また、施設選択を阻害する要因としては住む地域と子どもの障害特性があげられる。

【目次】

第1章 放課後等デイサービスについて

 第1節 放課後等デイサービスとは

 第2節 放課後等デイサービスの基本的役割

 第3節 放課後等サービスの現状と課題

第2章 放課後・休日支援について

 第1節 子ども・障害児の放課後活動

 第2節 子どもの放課後活動支援の歴史

 第3節 障害児の放課後活動支援の歴

 第4節 放課後活動支援の視点

第3章 調査結果

 第1節 調査概要

 第2節 調査方法

 第3節 施設選びのプロセス

  第1項 施設利用の必要性

  第2項 施設の条件

  第3項 子どもの施設での様子

  第4項 保護者独自の基準

  第5項 情報ネットワーク

 第4節 放課後等デイサービスを巡る保護者の意見

  第1項 保護者にとっての支援プログラム

  第2項 保護者が肯定的に捉える支援

第4章 考察

 第1節 施設を選び抜く保護者

 第2節 施設選びに参加できない保護者

参考文献


【本文】

第1章 放課後等デイサービスについて

 第1節 放課後等デイサービスとは

 放課後等デイサービスとは、支援を必要とする障害のある子どもに対して、学校や家庭とは異なる時間、空間、人、体験等を通じて、個々の子どもの状況に応じた発達支援を行うことにより、子どもの最善の利益の保障と健全な育成を図るものであり、2012年の児童福祉法改正により開始された障害児通所サービスである。このサービスは、児童福祉法第6条の2の第4項に基づき、学校(幼稚園及び大学を除く)に就学している障害児に、授業の終了後又は休業日に、児童発達支援センターその他の厚生労働省で定める施設に通わせ、生活能力の向上のために必要な訓練、社会との交流の促進その他の便宜を供与することとされている。対象年齢については引き続き放課後等デイサービスを受けなければその福祉を損なうおそれがあると認められる場合は、満20歳に達するまでは利用が可能である。

 放課後等デイサービスの提供に際してサービス提供者は、子どもの最善の利益を考慮し人権に配慮した支援を行うために、子どもの支援に相応しい職業倫理を基盤として職務に当たらなければならない。提供する支援は、基本活動である「①自立支援と日常生活の充実のための活動」「②創作活動」「③地域交流の機会の提供」「④余暇の提供」の4つが挙げられる。

 利用定員は10人以上であり、定員の基準は児童デイサービスⅡ型からの意向を想定し、児童デイサービスの人員基準と同じ人数に設定してある。サービスの利用の流れについては、まず市町村の障害福祉課に利用申請の申し込みを行い、その後放課後等デイサービスの支給決定を受け、受給者証の発行が行われた後、サービスの利用が可能となる。サービスの利用日数に関しては、京都市では27日、向日市では14日と各自治体によって差がある。放課後等デイサービスなどの障害児通所支援に関する費用は、障害児通所給付費と呼ばれており、国庫負担率は1/2である。その内訳は、国1/2、都道府県1/4、市町村1/4となっている。サービスの利用料金は「(基本単位+加算単位)×地域係数×利用者負担1割=利用料金」で計算される。保護者負担の上限は、生活保護受給者世帯で0円、所得割28万円未満の世帯で4,600円、それ以上の世帯で37,200円となっている。

 第2節 放課後等デイサービスの基本的役割

厚生労働省が2015年に定めた「放課後等デイサービスガイドライン」では、放課後等デイサービスの基本的役割について➀子供の最善の利益の保障、②共生社会の実現に向けた後方支援、③保護者支援の3つを挙げている。

放課後等デイサービスの提供に当たっては、子どもの地域社会への参加・包容(インクルージョン)を進めるため、障害のない子どもも含めた集団の中での育ちを出来るだけ保障する視点が求められる。放課後等デイサービス事業所においては、学童(放課後児童クラブ)や児童館等の一般的な子育て支援施策を専門的な知識・経験に基づきバックアップする「後方支援」としての位置づけも踏まえつつ、必要に応じて学童との連携を図りながら、適切な事業運営を行うことが求められる。さらに、一般的な子育て支援施策を利用している障害のある子どもに対して、保育所等訪問支援を積極的に実施するなど、地域の障害児支援の専門機関としてふさわしい事業展開が期待されている。

放課後等デイサービスには保護者が障害のある子どもを育てることを社会的に支援する側面もある。具体的には、子育ての悩み等に対する相談を行うこと、家庭内での養育等についてペアレント・トレーニングを活用しながら子どもの育ちを支える力を養うこと、保護者の時間を保障するために、ケアを一時的に代行する支援を行うことなどがある。保護者が子供に向き合うゆとりと自信を回復することは子供の発達に好ましい影響を及ぼすものと期待される。注意したいのは保護者支援の中に保護者のレスパイト支援の意味は含まれないことである。

第3節 放課後等デイサービスの現状と課題

厚生労働省の「放課後等デイサービスの現状」によると、サービスの利用者はサービスが開始された2012年4月では51,678人であったが、2014年4月時点では79,680人と2年間で約3万人増加している(図1参照)。2014年に行われた「社会福祉施設等調査」によると放課後等デイサービスを行う事業所数は2012年に3,107ヶ所、2013年に3,909ヶ所、2014年に5,267ヶ所と年々増えていることがわかる。事業所を運営主体別にみると、5,267ヶ所の事業所のうち、行政法人が24か所、地方公共団体が139ヶ所、社会福祉協議会が85ヶ所、社会福祉法人が1,188ヶ所、医療法人が53ヶ所、公益法人が5か所、協同組合が8か所、営利法人が2,048ヶ所、特定非営利法人が1,450ヶ所、その他が267ヶ所となっている。2012年の同調査では3,107ヶ所のうち、社会福祉法人が861ヶ所、営利法人が811ヶ所、特定非営利法人が920ヶ所であり、主に社会福祉法人、営利法人、特定非営利法人の3つを中心に事業所数が増加している。このように、利用者数、事業所数の変化から放課後等デイサービスが年々増加していることがわかる。

【図1 障害児通所支援の利用者数の推移】

また、放課後等デイサービスはいくつかの問題・課題を抱えており、その中から5点紹介する。1つ目が「障害の重い子どもの放課後保障」が難しいことである。事業所調査によると30%以上の事業所が「障害の種類や程度の関係で受け入れが難しい子どもがいる」と答えており、中でも専門的設備や知識の不足により医療的ケアを必要とする子どもの受け入れや、職員体制が整わないために手厚い対応を必要とする行動障害の子どもの受け入れが困難となっている。2つ目が「障害の軽い子どもの放課後保障」である。障害の軽い子どもは障害の重い子どもを中心とする活動になじみにくく、一方では障害のない子どもとともに活動するのは難しい。通常の学童保育や学校の部活動を障害児が参加しやすいものにしていく努力とともに、放課後等デイサービスにおいては、通常の学級に在籍する発達障害児を対象にする施設等の役割を考えていく必要がある。3つ目が「障害のある若者・成人への余暇保障」についてである。障害のある若者・成人の余暇保障のための制度の確立が、障害児の放課後保障からの連続性をもつ課題となっている。障害児の放課後活動を基盤として「青年部」などが作られ、障害のある若者の余暇活動が展開されている例もあるが、そのような活動のための制度的基盤は極めて脆弱である。4つ目が「送迎問題」である。放課後等デイサービスは車による送迎サービスを行っている事業所がほとんどであるが、送迎サービスがもたらした問題は大きく2点ある。1つが地域から障害児が消えるという問題である。放課後の校庭や下校時の通学路から障害児の姿は消え、常日頃から地域の人たちと見知っていく関係がなくなりつつある状況にある。2つ目は施設の周辺住民からの苦情である。何台もの送迎車が行き来することによる騒音や道路渋滞等の苦情が寄せられる例がある。5つ目が「学齢児療育のノウハウの不足」である。これまで療育は就学前の幼児を中心に行われてきたため、学齢児に対し療育を提供しようとする上で、学齢児療育のノウハウ不足の問題が生じている。療育をする上では、子どもたちの障害特性、発達段階、発達段階が今どういうところにあるか、それに対してどのようにアプローチしていくのかということを考えて日々の療育の中身を考えることが求められる(才村2013)。

第2章 放課後・休日支援について

 第1節 子ども・障害児の放課後活動

 子どもの放課後は、近代学校の成立によって始まる。学校の授業から解放された後の時間は、主に地域社会で子どもたちが自主的に生活する時間であった。歴史的に見ると子どもの生活は労働、学習、遊びという3つの活動で成り立ってきた。1950年代の子どもの生活の中心は労働であり、子どもは親とともに労働を行う生産労働の欠かせない担い手であった。しかし社会の変化とともに1950年代以降の子どもの放課後活動は学習と遊びが中心になっていく。その背景として考えられることが3つある。1つ目は、1950年代から1960年代にかけての高度経済成長政策に伴う村落共同体の崩壊と都市化の進展である。2つ目は学校教育への期待に伴う親の教育熱の高まりと学習塾や各種習い事の拡大である。3つ目はテレビの普及から始まる、電子メディア・ゲーム機器の普及である。以上3つの要因が、子どもの放課後生活から労働が消え、学習が増え、遊びの質が公園等の外遊びからゲーム等の中遊びへと変わるという変化をもたらした(増山2013)。

 放課後の生活時間調査によると一般的に放課後の時間は部活動や下校時間を除くと4~5時間であり、放課後の時間のほとんどは学習と遊び(メディア)が占めている。勉強時間は1時間から2時間ほどであり、主に学校の宿題と学習塾での勉強が同じ割合で占めている。遊び(メディア)時間も1時間から2時間ほどであり、テレビ・DVDを見て過ごしている。一方で障害のある子どもの放課後活動は4~5時間のうちほとんどを遊び(メディア)に費やしており、学習などの時間を経験しない。障害のある子どもは活動を制約されがちであり、ストレスを抱えている(丸山2004)。つまり障害児の放課後活動支援の目的は、子どもの活動の場を広げるとともに、子どもの抱えるストレスを軽減するという意味も含まれる。こうして障害のある子どもの放課後の活動保障を目的に様々な制度が歴史的に作られている。「障害児支援の在り方に関する検討会」では、障害児は『子ども』として児童施設で護られた上に、障害に特化した部分を障害施設で重ねて支援する対象とされ、障害児施設は児童施設の「後方支援」と位置付けられた。

 第2節 子どもの放課後活動支援の歴史

 1960年代に進んだ高度経済成長期以降の社会の変容、都市化、核家族化、共働き家庭の増加、学歴社会化の進行によって、「かぎっ子」対策が必要になった。教育の分野ではその対策として「校庭解放」や「留守家庭児童対策」がはじまるとともに、子どもの健全育成を目指す少年団体活動の組織化が活発になる。福祉の分野では児童福祉法40条に規定された「児童館児童遊園」の充実が図られるとともに、共同保育をベースとして「学童保育」運動が全国的に広がった。

1992年秋の学校5日制導入時に子どもの放課後支援の必要性は一気に高まったが、放課後支援の本格的な試行は2000年代に入ってからであり、文部科学省が始めた「子どもの居場所づくり新プラン」や「地域子ども教室推進事業」などが代表的である。2007年からは「地域子育て支援拠点事業」(➀ひろば型、②センター型、③児童館型)が提案され、2009年の児童福祉法改正で法制化された。放課後の子どもの豊かな発達に向けて、活動内容と環境改善等にも目が向けられ、2007年には学童保育ガイドライン、2011年には児童館ガイドラインが作られ、取り組みの充実が追及されるようになる。2007年に作られた「放課後子どもプラン」は従来からの教育と福祉に関する行政的分断を超えた、最初の本格的な放課後対策支援プランであり、文部科学省による「放課後子ども教室事業」と厚生労働省による「放課後児童健全育成事業(学童保育)とを、「一体的あるいは連携して実施する総合的な放課後対策」と定義した。

 第3節 障害児の放課後活動支援の歴史

障害児の放課後・休日支援制度の歴史は、1972年に国の補助金事業として行われた「心身障害児通園事業」から始まる。この事業は人口の少ない地域でのニーズや学齢期の支援の必要性を背景に発展してきた(宮田2014)。心身障害児通園事業は1990年の児童福祉法改正において、居宅支援事業の1つとして「児童デイサービス事業」に位置づけられる。その後1998年に名称が「障害児通園(デイサービス)事業」と変更されると共に対象が拡大され、これまで幼児のみを対象としていたが、就学児(12歳まで)の利用が可能になった。

2003年、障害児通園事業は「児童デイサービス」として児童福祉法に規定された。支援費制度のもと、「在宅3事業」の1つとして学齢期にある障害児の放課後支援を行った。支援費制度は社会福祉基礎構造改革の一環として開始された制度であり、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、児童福祉法などの制度が、利用者と施設との利用契約を基本として成り立つという制度である。支援費制度により障害分野全体に社会福祉法人に加えて、NPO法人等の多様な事業者の参入が促進され、結果として児童デイサービスの数は増加した。措置制度の時代から後の2012年の改正まで通園施設は様々な問題を抱えていた。具体的には障害種別に分かれており、障害が違うために身近な施設を利用しにくいこと、指導や支援が施設内にとどまり、通園出来ない子どもや地域で育つ子供を支援出来ないこと、対象が就学までと年齢別になっており、乳幼児期から学齢期、青年期に至る継続した援助が困難であること、発達の基礎となる家族・家庭を支援する制度がないこと、子どものニーズを分析して客観的に支援プログラムを立てるケアマネジメント機能がないこと等があげられる(宮田2014)

2005年発達障害者支援法における補助金事業として「障害児タイムケア事業」が始まる。この事業は、子どもの療育と保護者の負担軽減の双方を図った放課後施策が目的であった。

しかし2006年、障害者自立支援法の施行に伴い、障害児タイムケア事業は地域生活支援事業である「日中一時支援事業」に吸収され、自治体が独自の判断で行う施策としての位置づけとなった。

2006年、障害者自立支援法施行により児童デイサービスは自立支援法の下、介護給付事業となった。障害児タイムケア事業は成人の「日中一時支援事業」への移行が推奨され、就学児を主な対象者とした児童デイサービス(就学児が3割以上利用。「Ⅱ型」と呼ぶ)は、乳幼児中心の事業に戻す方向へと移行した。

2008年の「障害児支援の見直しに関する検討会」で放課後活動支援の重要性が認識され、2012年から、学齢期の放課後活動支援を行うⅡ型は「放課後等デイサービス」、乳幼児期の発達支援を行うⅠ型事業は「児童発達支援事業」として分離され、両事業ともに児童福祉法に組み込まれた。特に都市部において障害のある未就学の子どものための「児童発達支援」と学齢期の児童向けの「放課後等デイサービス」の設立が相次ぎ、障害のある子どもの発達支援が一つのビジネスモデルになっている(高橋2014)。ニーズの大きさに加え、開設が容易なことから急激に施設数が増加していると考えられるが、支援レベルの低下や親子関係の希薄化などが懸念されている。先に述べた「乳幼児期から学齢期へ成人期に向けた切れ目のない福祉的支援の継続」や、「放課後活動支援による成人期の暮らしの準備」「家族支援の充実」という目標の実現に向けた量と質の担保が今後の課題である。

一般の学童保育でも障害のある子どもの受け入れは1970年ごろから報告されている。公立の学童保育では1975年に品川区において障害児を受け入れるかどうかの議論がされている(三山2013)。現在の状況では学童保育における障害のある子どもの受け入れ状況は「放課後児童クラブの基準に関する専門委員会報告書」によると、障害のある子どもを受け入れている学童保育数、受け入れ人数ともに増加しており、2013年では受け入れている学童が約1万1050ヶ所(学童保育の約半数)、受け入れている人数が2万5338名となっている。厚生労働省は予算上の措置として、障害のある子どもを受け入れる放課後児童健全育成事業者に対する運営費の上乗せ補助や、市町村の裁量での障害のある子ども等に係る上乗せ基準の規定について示唆している。しかし、まだ半数の学童では障害のある子どもを受け入れていない現状や、受け入れに関する指導員加配や補助金加算の不十分さが問題として残っている(高橋2014)。また、受け入れ対象が10歳未満(小学校3年生)までという規定はなくなったが、いまだに12歳(6年生)までを対象とする学童保育は半分に達しておらず、障害のあるなしに関わらず、受け入れ年齢が問題となっている。さらに、特別支援学校に通う子どもの場合、地域の小学校に併設されている学童保育を利用する術がないという問題もある(才村2013)。

 第4節 放課後活動支援の視点

 放課後活動の役割に関してよく問われることは、子どもにとって放課後活動がどのような役割を果たすのかという、放課後活動の目的である。たとえば、子どもが一定の時間を安全に過ごすことを主な目的とみなし、放課後活動を単なる「見守り」、「預かり」として位置づける考え方がある。事業所の採算ばかりが重視される場合には、少数の職員が多くの子どもを室内でケアすることになりやすく、「預かり」「見守り」という性格が強くなっていく。また、子どもが技能・知識を身に着けることが主な目的とされ、「訓練的活動」が放課後活動として実施されることもある。放課後等デイサービスは1章で述べたように、「生活能力の向上のために必要な訓練・社会との交流の促進その他の便宜を供与すること」が事業の内容であり、「訓練的活動」を中心として成り立つ場合が多い(丸山2013)。

 次に専門性の議論があげられる。これは障害のある子どもの支援には「専門性」が必要であるという意見に基づく。障害のある子どもはさまざまなニーズを抱えており、そのニーズは子どもの持つ障害特性によって違う。例えば、発達障害がある、または疑われる子どもは、抽象的な概念の理解が難しい、突発的な出来事に対して臨機応変に対応することが苦手といった認知力や適応力の弱さや、判断力の弱さ、コミュニケーションが上手に出来ない、といった言語概念の未発達、学習障害、多動などがある。また、自閉症の子どもは、人と共感的な関係をつくることが難しい、相手の気持ちを理解することが難しいといった対人関係の質的な障害や、同じ言葉の繰り返し、話し言葉に遅れがあるまたは全く話し言葉がないなどのコミュニケーションの問題、こだわりの強さなどがある。ダウン症の子どもは、筋量が一般より少ない、耳からの理解が苦手、言葉よりも行動に表す方が早い、感受性が強いなどの特性がある。このような障害特性に合わせた支援が必要であるため、それぞれ個別の支援プログラムが必要である。このように障害のある子どもに対しては個別で専門的に支援する必要があり、学童等での統合教育が難しいという声もある。

 また、保護者・家族における放課後支援についての議論も存在する。放課後保障運動の中では、放課後・休日に子どものケアを担う母親・保護者の負担の大きさが問題にされ、負担軽減が課題とされてきた。近年では特に、母親・保護者の就労を支える役割が放課後活動に求められるようになってきている(丸山2013)。知的障害者の余暇生活と家族との関係について、「知的障害者の余暇に関するアンケート調査」では、「誰と休日に過ごしているか」という質問に対して、「家族」という回答が42,8%となっている。また、「休日余暇の移動手段」としては「保護者の送迎」が38,0%で最も多い回答となっている(丸山2004)。このような調査からも障害児の余暇における保護者の負担は明らかである。「全国保護者アンケート調査」の結果によると、放課後・休日支援を利用する目的として、回答者の38,7%が「保護者のレスパイト」を、36,7%が「保護者の就労」を挙げており、これらの項目は「子どもの成長・発達の土台を豊かにすること」(38,8%)に並ぶ重要な目的となっていることがわかる。

 2005年度にモデル事業が実施された障害児タイム事業は「障害児を持つ親の就労支援と障害児を日常的にケアしている家族の一時的な休息を目的とする」としている。また厚生労働省のもとで2008年にまとめられた「障害児支援の見直しに関する検討会報告書」においても、「放課後や夏休み等における居場所の確保は障害児の保護者の仕事と家庭の両立を進めるという観点や、レスパイトの支援を行うという観点からも、重要な課題となっている」と述べられた。しかし、放課後等デイサービスの規定は家族にとっての放課後活動の役割を明記するものにはなっていない。つまり関係者が意識的にならなければ、家族にとっての放課後活動の役割は軽視されかねない。制度上に明確に家族支援を位置づけることも含め、家族にとっての役割の追及が放課後保障運動の課題となっている(丸山2013)。さらに、保護者・家族の負担軽減や就労支援だけではなく、保護者同士が関係を築いていくための拠点になり得るものとして放課後支援は捉えられている。放課後活動への関与を通して、子育ての苦楽を共有できる親密な保護者集団が作られたり、子どもの年齢が異なる保護者間の交流が広がったりすることがある。しかし、放課後活動への保護者の参加は、参加する保護者と参加しない(出来ない)保護者との間に軋轢を生むことにもなりかねず、また保護者の負担が増えることにもなりかねないので注意が必要である(丸山2013)。

第3章 調査結果

 第1節 調査概要

 以上のように障害児の放課後・休日支援は2003年の支援費制度、2006年の障害者自立支援法、2012年の児童福祉法の一部改正における放課後等デイサービスの創設により、制度・サービスの拡大が図られてきた。それに伴い利用者数・事業所数も増加し、現在は支援の量的拡大が進んでいる。しかし、子どもの支援ニーズは多様化しており、単に放課後の居場所として拡大するだけでなく、個々のニーズへの柔軟な対応や、子どもの発達保障を重視した専門的な支援が必要とされている。また、家族の支援ニーズも多様化しており、「子どもの最善の利益の保障と健全な育成を図る」という放課後等デイサービスの本来の目的からは離れた理由で制度・サービスを利用する家族も増えている。そこで、量的拡大以降の放課後・休日支援の現状、数ある事業所の中から保護者がどのように利用する施設を決定しているのかを明らかにすることを目的としてインタビュー調査を行った。

 調査は、放課後等デイサービスを利用している障害のある子どもの保護者(母親)へのインタビュー調査によって行った。調査の期間は2015年8月から10月である。インタビュー対象者は京都市にある放課後等デイサービスを利用しており、かつ2か所以上の事業所に見学に行った保護者5名と、京都市にある放課後等デイサービスの事業所の従業者2名とし、計7名にインタビューを行った。従事者2名については同時に行い、保護者5名についてはそれぞれ個別に行った。インタビューは事前に大まかな質問項目を作成しておく半構造化インタビューの形式を取り、出来る限り対象者に語ってもらうことを意識して行った。インタビュー時間は1回につき20分から1時間程度である。保護者への質問項目は➀現在利用している事業所について、②事業所選びの際に留意したポイント、③今後望むことを中心に構成した。従業者への質問は➀他の事業所と差別化を行っていること、②支援内容を中心に構成した。

第2節 調査方法

 インタビューの内容は調査協力者に同意を得た上で、ICレコーダーで録音し、得られたデータは修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を利用して分析を行った。修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチでは、インタビューデータの中のある具体的な箇所に着目し、それを1つの具体例としそれ以外の場合でも説明できると考えられる概念を創る。創った概念が有効かどうかは他のインタビューデータにもその概念が当てはまるかによって判断していく。そして概念作りと同時に概念と概念の関係性を考える手法である(木下2007)。生成した概念は概念名、定義、具体例であるヴァリエーション、理論メモという項目によって成り立つ分析ワークシートに記入し整理した。

 以下の分析結果では生成した概念を『 』、小カテゴリーを< >、中カテゴリーを《 》、語りの引用データを「 」、で示した。語りの部分は読みやすいように文脈を変えない範囲で修正している。分析結果図は以下のように概念図に提示する。

【図2 利用する施設を選ぶプロセス】

 

第3節 施設選びのプロセス

  第1項 施設利用の必要性

 《施設利用の必要性》を家族が認識することにより、放課後等デイサービスの施設選びが始まる。《施設利用の必要性》とは、『第三の居場所』、『子ども同士の交流』、<子どもを預ける場所>という3つの要素によって成り立つ。『第三の居場所』として放課後等デイサービスに保護者が期待していることは二点ある。まず、「学校と家」以外の場所へ行くことが、「健常者の子が経験する遊びやお稽古事」の代わりとなり、他の子どもと同じ生活に近付くのではないかということである。次に、「子どもが学校と家以外の所で喜んで行く」場所があることで日々の“学校―家”という生活に変化をもたらすことが出来るのではないかということである。『子ども同士の交流』とは、「自分より年下の子の面倒を見る」ことや、「自分より年上の子に敬意を払う」ことが、「将来働く」ときのための「社会勉強」になると保護者が考え、幅広い年齢の子どもと交流できる場として放課後等デイサービスの利用を考えることである。<預ける場としての放課後等デイサービス>としては、他のきょうだいとの時間や、自分が家事をする時間や働く時間が生まれることを期待して放課後等デイサービスを利用するという『家族時間の創出』を目的としたもの、子どもと離れる時間を作ることにより、日々のストレスから保護者が解放されることを目的とした『レスパイト支援』を目的としたものがある。<子どもを預ける場所>の場合、保護者は「ただ預かってくれるだけでありがたい」という思いや、「預かってもらってるんだから文句も言えない」という考え方に陥ってしまい、施設に対して要望等が言いにくくなる可能性がある。施設利用の必要性が生じた保護者は実際に施設を利用する前に施設見学というプロセスを踏む。施設見学の際に気にしていることは主に《施設の条件》、<子どもの施設での様子>、『保護者独自の基準』という3点である。

 第2項 施設の条件

《施設の条件》は《人》、《場所》、<時間>で成り立つ。《人》というのは<支援者>と<利用者>に分けることが出来る。<支援者>の条件としては、『多様な支援者の存在』と『支援者との相性』という2つがある。『多様な支援者の存在』とは、保育士・心理カウンセラー・社会福祉士など専門的な資格を持つ職員の存在と、アルバイト・外国人・男女・年齢など幅広い職員の存在という2つの意味がある。「資格持ってる人いると安心できる」と語るように、保護者にとって専門的知識は子どもを安心して託すために必要なものである。『支援者との相性』とは、保護者と支援者との相性が施設の利用決定に関与することを指す。「保護者の性格も関係」するがそれを決定づける保護者の考えに「子どもは毎日私と接しているから私みたいな人に慣れている」というものがある。

 《場所》の条件としては<利便性>、『広さ』に分けられる。<利便性>とは、『送迎の利便性』、『施設の利便性』のことである。『送迎の利便性』とは、施設による送迎サービスが、保護者の負担を減らすと想像し、送迎サービスを実施している施設の利用を考えることを指す。送迎サービスの有無は調査対象者全員が答えるほど施設選択の際に重要なポイントの1つとなっている。『施設の利便性』とは、自宅や学校の近くに利用する施設があることで、子どもが通いやすい・保護者が送迎しやすいということを指す。「心配になったらのぞきに行ける」距離に施設があることは子どもを預ける保護者にとってとても安心できる要素となっていることがわかる。『広さ』とは施設に子どもが遊んだり学んだりするためのスペースが十分に存在することを指し、単純な面積が広いという意味と、面積は狭いが、空間をうまく利用しているという意味の二種類が含まれる。

 <時間>の条件としては『長期休暇のサービス利用時間』と『普段のサービス利用時間』という二つがある。『長期休暇のサービス利用時間』とは学校が完全に休みになる春休み、夏休み、冬休みに長時間サービスの利用が可能であることを指す。「夏休みとか春休みは子どもはうれしいかもしれないけど、親からしたら大変。休みにデイを利用してくれるのは本当にありがたい。子供も私と二人でいて、怒られてばっかりよりかはお出かけとかして楽しめるだろうし」というように、学校が長期休暇期間中に放課後等デイサービスなどのサービスを利用することは保護者の負担軽減、子どもの気分転換という視点からも求められている。『普段のサービス利用時間』とは長期休暇以外の学校がある期間において、一日どれくらいサービスの利用が出来るのかということを指す。放課後等デイサービスの利用については時間ではなく日数で決まるので、「できるだけ長く見てくれるところ」を保護者は求めている。

第3項 子どもの施設での様子

<子どもの施設での様子>は『子どもの新しい能力の発見』、『子どもの主体的役割遂行の促進』、『楽しく過ごすこと』という3点を中心に子どもの様子を見ている。『子どもの新しい能力の発見』とは、「12年目にして、18歳にしてやっとお勉強。初めての英語」、「うちの子一時間も座ってるんですか?座れてますか?」というように、子どもが新しく能力を身につける可能性や、能力の成長が見込まれる可能性について保護者は肯定的に捉えており、放課後等デイサービスの中でも訓練機能について期待していることがわかる。『子どもの主体的役割遂行の促進』についても同様に「水やり当番」、「おやつの準備」、「掃除」など子どもが主体的役割をもって行動することを肯定的にとらえていることがわかった。両者ともに「今後社会に出ること」を保護者は見越しており、就労訓練という意味合いを含めて放課後等デイサービスのプログラム内容を見ている。子どもの様子の中でも特に保護者が意識して考えていることが『楽しく過ごす様子』である。「なんでもいいの。本人さえ喜んで行ってくれさえすれば」「一番は楽しく行ってくれること」というように、自分の子どもが『楽しく過ごすこと』を保護者は一番大切にしていることがわかる。放課後等デイサービスはあくまで余暇のサービスであり、「病院とか支援センターと違って行かなあかんところ」ではなく、「子どもが楽しく過ごす」ための場所として保護者は位置付けている。子どもが楽しく過ごすためのツールとして『子どもの興味をひくツールの有無』も関係している。部屋に置いてあるツールに対して子どもがどのような反応を示すか親は観察している。「ドラム」など子どもにとって未知のものに触れた時の感触がよければ、ドラムを使った新しいことができるのではないかと考えるようである。また、すでに通っている「他の子の様子」にも気にかけている。他の子どもが「全然楽しそうにしてない」、「することなくて暇そうにしてる」場合は利用をためらうことがわかった。以上にあげた3点の要素は『子どもと自分に対する信頼』があることによってより決定要因になっている。利用する施設を決める際に、一番良いのは利用する子どもが「あそこに行きたい」と伝えることである。しかし、今回の調査対象者の子どものように話すことが難しい子どもの場合、「連れて行って反応見る」ことによって判断するしかない。「しゃべらないけど、性格のいい人、悪い人は見分ける。そういう知恵、力はすごいなと思う」というように子どもの判断力を保護者は認め、子どもの判断に従って利用施設を決定している。また「最終的には私の勘に頼るしかなかった」とあるように、話すことが難しい子どもの場合最終的には利用を決定するのは、利用者となる子どもではなく、保護者であるということも保護者は理解している。

第4項 保護者独自の基準

《保護者独自の基準》とはそれぞれの保護者が独自の価値基準を持っており、それに従って施設の善悪を判断していることを指す。「結婚している」支援者の方が「怒り方がお父さん」と感じており「悪いことといいこととちゃんと区別して」指導してもらえると考えている保護者や、「トイレ」「手すり」「やかん」など保護者によって掃除が行き届いているかで見る部分も違うことが明らかになった。保護者独自の基準については「経験的にわかる」ものであるようだ。

 以上のように《施設の条件》、<子どもの施設での様子>、『保護者独自の基準』を保護者は施設見学の際に見ていることがわかった。3つの要素のうち、「子どもが行くものだから子どもの思いが一番大事」という語りからわかるように最も重視されている要素は<子どもの施設での様子>であるといえる。また、全ての要素について語った調査対象者は現在の施設について満足しているが、《施設の条件》を重視して施設を選んだ調査対象者は現在の施設について満足しているが、「文句は言えない」と語ったように、施設に対して下手に出ていることもわかった。

 第5項 情報ネットワーク

 調査対象者は多い人で3か所施設見学に行っていたが、施設を見つける方法は、<情報ネットワーク>によって支えられている。ネットワークには、『保護者間のネットワーク』、『支援者とのネットワーク』という二種類が存在することがわかった。『保護者間のネットワーク』については、「うちの学校小学校から一緒やし、熱心なママも多くて、保護者の間のネットワークめっちゃ強い。誰かが新しいの始めたらすぐ情報入ってくるし、そこがいいか悪いかとか、教えてもらえてすごくいい」というように、特別支援学校における小学部、中学部、高等部とメンバーがほとんど変わらない特別な環境の中で、保護者間のネットワークがとても強固なものとなっていることがわかる。このネットワークを利用して、いい施設の情報やよくない施設の情報を入手しているようだ。また、「信頼しているママ友」からの「紹介」であれば、「安心してみてもらえる」という思いも存在する。『支援者との強固なネットワーク』については、特別支援学校の教師や、市役所のケースワーカーとよい関係が結ばれており、なんでも相談できる環境にあることを指す。支援者からの「紹介」を受け、施設見学に行っている場合もあった。支援者特に学校の教師からの紹介の場合、「学校との連携」が取れる施設の紹介が多い。

保護者はネットワークの利用に際して、『弱さ開示のメリット』を理解している。「一番の基本は一人で考えずにみんなを巻き込むこと」「伝えたらまわりが勝手に考えてくれてうちの子に一番合うところを考えてくれる」というように、保護者は一人で悩まず、他の保護者や学校の教師、ケースワーカーに相談することが、結果的に自分と子どもにとってプラスになると経験的に学んでいる。この弱さ開示によって保護者、支援者との間のネットワークはより強固なものとなっている。

 第4節 放課後等デイサービスを巡る保護者の意見

  第1項 保護者にとっての支援プログラム

 支援プログラムとしてはプログラムが決まっている『確立するプログラム』と、その場の状況に応じてプログラムが変わる『確立しないプログラム』の2種類がある。どちらのプログラムをよしととらえるかは保護者によってまちまちであり、自閉症など生活に強いこだわりを持った子どもの場合は『確立するプログラム』を、ダウン症などその日の気分によってすることが変わる場合は『確立しないプログラム』を好む傾向があることがわかった。『確立するプログラム』の一つとして、『生活空間の規律化』があり、行動をルールや規則で決めることを指す。自閉症の子どもに対する支援として行われているTEACCHなどがこれにあたる。

  第2項 保護者が肯定的に捉える支援

 保護者が肯定的に捉えている支援として、『支援者による生活空間への関与』、『選択肢を提供する支援者』、『存在承認の経験』、『否定的なことも含めた引き継ぎ』があった。『支援者による生活空間への関与』は施設の支援者が学校行事へ参加したり、「学校の話」や「インターンシップの話」、「家の様子」など学校や自宅での過ごし方を気にかけたりと、積極的に子どもの生活空間へ関与することを指す。「学校の行事に誘うと行っていいですか」とあるように、保護者が気軽に施設職員を学校の行事に誘うことができる関係が構築されている場合もあった。施設従事者も「学校との連携」は他の事業所と「差別化を図るもの」として考えている。「学校で見せる姿と、家で見せる姿と、施設で見せる姿」の違いを認識し、子ども本人の能力が最大に発揮できるよう働きかけているようだった。『選択肢を提供する支援者』とは支援者が、支援の方法を受け身的にこなすのではなく、積極的に選択肢を提供することでより、利用する子どもに合う支援を行おうとすることを意味する。たとえば「おやつで飲み込みにくいときはこうしてください」と保護者が最初に伝えた方法をこなすだけではなく、「この方法試してみたいんですけどどうですか」と新しい方法を提示していくような支援を指す。3点目は、自分の子どもが施設に通うという事実だけで施設の職員が喜ぶと感じることに対して保護者が喜びやうれしさを感じることを『存在承認の経験』とした。「障害があるってだけで嫌な顔される」という経験をしてきた保護者にとって、『存在承認の経験』は大変貴重な経験であるといえる。「Sくんがいるだけで場が明るくなります」という支援者からの言葉や、「本人は事業所の人にありがとうって言われて喜んでるねん」というように、子どもに対する感謝の言葉かけに対して保護者はとても肯定的に捉えていた。『否定的なことも含めた引き継ぎ』については、施設と家での子どもの様子について全員連絡ノートにてやり取りをしていた。このノートに施設での褒められる行動だけではなく、「悪いこと」や「欠点」についても書かれていることを保護者は肯定的に捉えていた。

第4章 考察

 第1節 施設を選び抜く保護者

 第1章で述べたように現在、放課後等デイサービスでは施設の急速な量的拡大が進んでいる。このような状況の中、家族は数多くある施設の中から自分の子どもが利用する施設を選び取らなければならない状況にあるといえる。今回の調査では、情報ネットワークを利用しながら保護者が選ぶべき施設とそうではない施設を判断していることが明らかになった。また、施設選びでは施設利用が必要になった理由が『第三の居場所』や『子ども同士の交流』作りの場合、続く見学の部分では《子どもの施設での様子》や《保護者の持つ価値観》を重視すること、<子どもを預ける場所>として利用を考えた場合は《施設の条件》を重視することも明らかになった。後者の施設の条件を重視した施設利用の決定は、活動の質的な部分をあまり考慮しないため、子どもに合った施設を利用できていない可能性が高くなると考えられる。施設を選ぶ際は施設の条件だけでなく、子どもの施設での様子や保護者の価値観も十分考慮に入れた施設選びが好ましいだろう。また、施設選びにおいて、家族は情報ネットワークを利用していた。このネットワークを利用することで施設の情報を素早く入手し、効率よく施設見学を行い、自分の子どもに合う施設なのかどうかを判断していた。つまり、この情報ネットワークをうまく活用することが出来れば、利用施設の決定において失敗することが少なくなる。逆にいうと放課後等デイサービスの量的拡大そのものが問題なのではなく、家族が情報ネットワークを活用することが出来ずに、地域で孤立してしまい、結果的に子どもに合わない施設を利用している可能性があるということが問題であるといえる。

また2項からわかるように保護者が肯定的に捉えている支援内容は『支援者による生活空間への関与』、『選択肢を提供する支援者』、『存在承認の経験』、『否定的なことも含めた引き継ぎ』であった。保護者は学校・自宅での生活を含めた支援や、子どもを1人の人間として尊重する支援を肯定的に捉えていることがわかった。

 第2節 施設選びに参加できない保護者

 今回の調査対象者は第1節で述べた通り、放課後等デイサービスが量的に拡大する中でも積極的に自分の子どもに合った施設を選び取ることが出来ていた。しかし、全ての家族が主体的に施設を選択できるわけではない。主体的に施設を選ぶためには条件が2点あることが今回の調査で考えられる。その条件は地域性と障害の程度である。

まず、家族が利用する施設選びを行うためには、施設が複数あること、複数の施設見学に行くことが条件である。今回調査対象であった保護者5名、施設従事者2名はいずれも京都市に自宅がある、もしくは施設がある方であった。2014年の社会福祉等調査によると、京都府内全域では42か所放課後等デイサービスを行う事業所があるが、うち半数の20か所が京都市内にある。この結果から今回の調査対象者は比較的施設数が多い地域に住んでおり、施設を選べる環境にあることがわかる。しかし例えば舞鶴市では放課後等デイサービスを行う事業所は3か所しかなく、そもそも施設を選ぶという環境にないことがわかる。つまり放課後等デイサービス事業が急増している都市部においては保護者が利用する事業所を主体的に選択することが出来るが、事業所数の少ない地方においてはいまだ利用者が利用する事業所を選択できる状況ではないといえる。

 次に、障害の重さである。先行研究や施設従事者の調査結果から、《重い障害のある子どもの受け入れの困難性》があげられている。特に医療的ケアを必要としている子どもは看護師など専門職が従事している事業所のサービスを利用するしかないが、医療的ケアを必要な子どもを受け入れている施設数は多くない。また、強い行動障害を持っている子どもは常に周囲の目を必要とし、その分職員の数が必要となり、職員数が少ない施設や受け入れている子どもが多い施設などは受け入れが困難となる。今回の調査対象者はダウン症、自閉症、ADHDの子どもであったので、障害の程度が理由で受け入れを断られるという経験を語る方はなく、施設を選択することが出来る状況にあるといえる。

 このように、都市部に住み、比較的障害の程度が軽い子どもを持つ家族は施設を選ぶことが出来ている。一方で地方に住む方や、障害の程度が重い子どもを持つ家族は放課後等デイサービスを利用できない、もしくは利用する施設を選ぶことが出来ない状況に未だおかれていることがわかる。地方において放課後等デイサービス事業所を増やすこと、医療的ケアや常時見守りを必要としている子どもを受け入れることが出来る事業所を増やすことがこれらの問題を解決するために望まれる。

 措置制度から契約制度へ移行したことをきっかけとして、サービスを受ける家族が利用する施設の選択権を持つようになった。このような変革によって施設側も「利用者に選ばれる施設」への方向転換が必要となり、利用者から選ばれるためには、その施設で受けることができるサービスや教育内容、物理および人的環境など、その「施設の質」が問われるようになった。利用者が情報ネットワークを活用しながら利用施設を決定することは放課後等デイサービス施設全体の質的向上につながると考えられる。


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