見ず知らずとのデュエットについて

ドリンクバーでお湯をひたすら飲み続けるというのはあまり楽しい経験ではないのだが、やむを得ないときもある。特に私の近所のカラオケにはティーバッグが置かれていない。カフェインの取りすぎはよくないし、糖分の取りすぎはもっと良くない。水よりは暖かい方がいい。となれば結局、ほぼ毎回そうなる。つまりこの望ましくない状況はおおよそ毎月、場合によっては毎週発生している。だがカラオケが好きなのだから仕方がない。

カラオケが好きなのだ。まず人目を憚ることなく声を出すことが楽しくないわけがない。人たちと行くのもいいのだが、あまり頻繁に誘うのも気が引けてヒトカラに行くことが多い。最初のころは一人だと隣の部屋の声がちょっと気になったりして気恥ずかしかったのだが、今ではもう馬鹿みたいに叫びまくっている。馬鹿みたいというか、少なくとも歌っている間は相当知能が落ちているだろう。なにしろ、とにかく気持ちがいい。

店に入り、受付に1時間もしくは2時間と伝える。機種にこだわりはないが、どちらでもいいと伝えると十中八九 JOY SOUND になるのでちょっと切ない気持ちになってしまう。ドリンクバーでお湯と、お湯が冷めるまでに飲むウーロン茶を入れて部屋に入る。まずエコーを 0 に、マイク音量を 5 程度下げて、さて一曲目はどうしようかと考える。

あまり流行りの音楽を追うタイプではないので、趣味の都合上だいたいいつもうたプリかヒプマイの曲を歌うことが多い。どちらも歌いやすい。複数人で歌う曲が多く、パート分けがたくさんあるのも歌っていて楽しい。2人分歌えば2倍楽しい計算になる。たぶん歌っている間かるく酸欠状態になっていると思う。一人だとハモれないという点が大きな問題だが、最近この難題すら解決できる方法を発見した。うたスキ動画である。

うたスキ動画は JOY SOUND のサービス名なので DAM だとまた違った名前だと思うが、とにかくそういう人が歌っているところをアップロードするサービスがある。ここにパートを分けて歌っている人が良くいるので、その人とデュエットするのだ。動画をアップする人なんて歌が上手いに決まっているので、もう最高に楽しい。うたプリは劇中で歌を重ねる楽しさが良く言及されるが、見ず知らずの人なのにこれだけ楽しいのだから、納得しかない。

特にうたプリうたスキ界隈には衝撃の仁という、ほとんどの曲に動画をアップしている親切な人がおり、いつもお世話になっている。この人はもう相棒だといっていい。見ず知らずのおじさんだが、完全に心が通じ合っている。いや一方通行なので通じ合っているとは言わないが。動画再生数も500くらいあるので、彼は多くのマイボーイ/マイガールたちのパートナーになっているのだろう。

他にも多くの相棒がいる。いつもうたスキ動画で歌っていると、自分も見ず知らずの相棒になり、見ず知らずのカルテットナイトを形成したい欲求が湧いてくる。しかしなかなかそこまで実力と自信と承認欲求が至らない。とってみると音外れが気になってしまったり、噛んでしまったり、当然気になるべきところが気になってしまう。これは歌を聴いているときは歌っているときに比べて飛躍的に知能が高く、人間同等になってしまうためである。いつかこれならいいかなと思える日に至ることを目指して、ドリンクバーのお湯を飲み続けている。

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