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4年で売上1.6倍、2年連続日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞。ボルボ・カー・ジャパン躍進の理由~トップのユニークなキャリアが生み出したブランド戦略~vol.2

車が売れない時代――。厳しい環境下において、スウェーデン発祥の自動車メーカー「ボルボ」は、4年間で売上1.6倍、輸入車初2年連続で日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞しました。
 現在、ボルボ・カー・ジャパンの代表取締役社長を務める木村隆之氏は「ブランドイメージが中途半端で、過剰在庫を抱えるような危機的な状況にありました」と就任当時を振り返ります。
 ボルボをV 字回復させ、ブランド力を向上させた秘密とは。
そのノウハウを直接伝える「経営参謀塾(木村サロン)」開設にあたり、後編の今回は、ボルボのブランド戦略のベースとなったトヨタ、ファーストリテイリング、日産時代のご経験を伺いました。

商品企画から学んだ「経営者の仕事」

――ボルボをV字回復に導いた「ブランド戦略」を展開するには、マーケティング的な観点や実際のご経験という具体的な裏付けがあってのことだと思いますが、その感覚はトヨタやファーストリテイリング、日産で磨かれたのでしょうか。

 そうですね。トヨタでの商品企画、ファーストリテイリングでの営業改革・人材育成、ASEAN日産での社長経験がなければ、ここまでのブランド戦略を展開するのは難しかったかもしれません。

 たとえば、トヨタの海外営業部門で経験した商品企画では、お客様の心をいかに掴むか、その難しさと方法論を学ぶことになりました。なぜ欧州では年配の方ばかりがトヨタを選択し、若い層に人気がないのか。その答えにたどり着くにはただ単に既存のお客様の声を聞くだけでなく、今現在トヨタを購入していない層は何を考え、どのように車を選択しているのか、それをどう商品に反映させるのかを徹底的に考える必要に迫られました。

 それは社長業も一緒で、お客様であるオーナー様の満足度を上げ、ファンをつくり、結果として売上、利益をしっかり確保するという「よいサイクル」をいかに回すか、それを徹底的に追求することこそが経営者の仕事だと私は考えています。

異業種の経験を「経営」に生かす

――トヨタ、日産、ボルボはすべて自動車メーカーですが、ユニクロを展開するファーストリテイリングはまったく違う業界です。そこで得たものというのは何だったのでしょうか。

 今でこそ何万人というスタッフを抱え、世界展開をしているファーストリテイリングですが、できるだけ多くのスタッフを一同に集めて戦略を伝えたり、即断即決、スピード感を大切にしていたりと、よい意味で「中小企業」的な風土を残している会社だと感じました。
 具体的な手法を挙げるなら、ユニクロの強みの1つである超高速のPDCA。世界中の店舗の売れ行きはどうか、対前年比でどうか、チラシの効果はどうか、よかったのはなぜか、悪かったのはなぜかを1週間ごとに検証し、次週に活かす仕組みができあがっています。
 現在、ボルボでもウィークリーでPDCAを回したり、スタッフにKPIの設定と検証を徹底させているのも、ファーストリテイリングの経験があってのことです。

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3年で販売台数倍増、記録達成の秘密とは

――次のインドネシア日産では初めて社長というポジションを経験され、3年で販売台数倍増。さらにはアジア・パシフィック日産ではいまだに破られていない36万4千台という記録を達成されましたが、なぜそのようなことが可能だったのでしょうか。

 インドネシア日産で最初にやったのは、社員の中で主任クラス以上の160人との面談でした。当時、現地の日本人は社長の私と工場長の2人だけだったこともあり、まずは現地の状況を把握したいという強い思いを持っていました。半年ほどかかりましたが、結果として、会社全体の強み・弱みを把握することができ、それぞれ社員の強みを磨きつつも、蛸壺化しないためのクロスファンクショナルな人事、幹部候補の抜擢など、経営に欠かせない人材の育成にもつなげることができました。
 
 また、目標はチャレンジングなほうがよいと考え、志賀俊之元COOが掲げたインドネシアで年間4万台という目標を6万台に上方修正し、「販売倍増3年計画」を立案。モータリゼーションの真っ只中で、マーケットも戻ってきつつあったという追い風もあり、4万台を2年で達成し、その翌年には6万台も達成することができました。

顧客の心を掴むアイデアの生み出し方

――そういった様々なご経験がボルボでの「ブランド戦略」に結実しているのだと思いますが、緻密なKPIに加え、「ボルボスタジオ青山」「スマボ」などの画期的な取り組みを次々に実践されています。そうしたアイデアはどのようにして生み出されているのでしょうか?

 ブランド戦略を実行に移すには、具体的なアイデアが必要です。もちろん、アイデアですから失敗することもあります。ただ、トヨタ、ファーストリテイリング、日産、ボルボと30年以上にわたってお客様のことばかり考えてきたこともあり、お客様の目線で考えるという点では、社内一という自負を持っています。社員はどうしても目先の仕事に一生懸命になってしまう。それは仕方のないことです。ですから社長である私が常に「お客様の立場になって考えよ」と言い続けることが大切なのです。

 ご指摘いただいた「ボルボスタジオ青山」や「スマボ」(SMAVO)も数多くあったアイデアの1つでした。
 ボルボスタジオ青山でこだわったのは、他のメーカーとの差別化です。ボルボではディーラーのようなつくりにはせずに、ボルボを知っていただくことに主眼を置き、内外装もディーラーと別にし、スウェーデン王室御用達のシャンパンを提供したり、毎週イベントを開催しています。
https://www.volvocars.com/jp/about/our-company/aoyama

 また、「スマボ」は、サブスクリプションやリースのモデルから着想を得たもので、月額定額払いで、3年後に新車に乗り換えることも可能なサービスです。他にも、あん新スマボ、スマワリ(SMAWARI)50など、お客様のご要望に合わせたオプションを展開、お客様とディーラーが繋がり続ける仕組みとなっています。

国内自動車市場と今後の展望

――最後に、縮小傾向にあるとも言われる国内自動車市場をどのようにご覧になっているか。また、今後の戦略についてお聞かせいただければと思います。

 もちろん、楽観視できる市場ではないと考えていますが、かといって悲観的に捉えているわけでもありません。
私はここ数年、日本のお客様の購買行動に変化が生じていると見ています。今までは、多くの方が国産車を選択し、一部のオーナー様が輸入車を購入するというように、日本の市場は国産車と輸入車とにはっきり分かれているという特徴を持っていました。しかし徐々にその垣根が崩れてきているのです。
 また、あおり運転や高齢者の事故などを受け、お客様の安心・安全に対する意識は非常に高まっていて、「安全」にこだわるボルボへの期待は大きく、問い合わせも急増しています。
ですから、今後も安心・安全という軸を堅持したブランド戦略を推進することが、オーナー様の満足度アップにつながり、今以上のファンづくりにつながっていくと考えています


今回のまとめ

①経営者は、顧客の満足度向上、ファン作り、売上・利益の確保を追求。
②超高速PDCAで現場と経営を動かす。
③戦略的に人材を育成するには、時間をかけても従業員と面談をする。
④アイデアを生み出すためにも「お客様の目線で」と社長が言い続ける。
⑤期待に応えることで、満足度を向上させ、ファンづくりにつなげる。

プロフィール

木村 隆之(きむら・たかゆき)
ボルボ・カー・ジャパン株式会社 代表取締役社長。
1965年生まれ。1987年、大阪大学工学部卒業。同年、トヨタ自動車株式会社へ入社。
海外の商品企画を担当し、トヨタに勤めた20年のうち16年間は海外営業を中心に活躍。
2003年にはノースカロライナ大学でMBA(経営学修士)を取得。後にレクサス国内営業部に移籍。
2007年、株式会社ファーストリテイリングに入社。ユニクロの営業副本部長を務める。
2008年、日産自動車株式会社入社。翌年、インドネシア日産で代表取締役社長を務める。
その後、アジア・パシフィック日産自動車会社、タイ日産自動車会社の代表取締役社長を務め、2014年にボルボ・カー・ジャパン株式会社の代表取締役社長に就任。
社員にもわかりやすい方針と定評がある長期計画を遂行している。

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