みずいろ


 物心ついたときからずっと、みずいろがすきです。23歳になった今でも、家具から細かな生活用品まで、気がつけばパステルの青色をしたものばかり選んでしまいます。
 
 


  みずいろのランドセルがほしかったけれど、おさがりの紺色の無難なやつで通学した小学生の頃。入学式の写真を見返すと、心なしかムスッとした表情のぼくが写っているのはそのせいかもしれません。淡い青のそれを背負って歩く同級生が羨ましく思えて仕方のなかったことを覚えています。
 


  高校生になって、はじめて買った楽器はソニック・ブルーの安いストラトキャスター。貯めていたお小遣いを崩して手に入れたそれを抱えていると、なんだか不思議な安心感があって。それからというもの、手にするギターやベースの類はほとんどみずいろのものばかりです。
 
 



 何か思い切ったことをしてみたくて、髪の毛をみずいろに染めたのは20歳の夏頃でした。
 ライト・ブルーの染料は2, 3日もすればすぐに色が褪せてしまったけれど、きれいな青色を纏っていた僅かな時間だけは、自分のことを愛おしく思えて。暫くのあいだ、鏡にうつるあざやかな淡青ばかりみていました。


 髪の毛を染めたあとすぐ、待ち合わせの場所へ、空の色をしたハイカットの靴を履いて向かいました。すこし涼しい日の夕方で、駅前ではアドバルーンが穏やかな風に揺れていました。
 


 午後5時過ぎ、すこし遅れて現れたそのひとが、みずいろのぼくをみつけて「みっけ!」と言った瞬間のこと、なぜだか忘れられません。それから、ぼくの髪に触れた手のひらに、うっすらと染料のブルーが滲んでいたことも。

   それを傾きかけた日に透かして、数秒、そのひとは笑ってみせました。いまでもその光景を、まぶしい青のきらめきを、ぼくは鮮明に思い出せます。




 つぎの朝にはライト・ブルーはすっかり抜け落ちてしまって、それからぼくは淡青を身につけるのをやめてしまいました。

 あれからもうずっと、夏がこないままです。
 



 今日の空は晴れていて、みずいろで、とってもきれいです。


(2018.9.16)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?