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【珠算競技は極上フェス⑥】

 【TOKYO OPEN SOROBAN CONTEST  特殊競技解説】

※月刊サンライズに掲載された文章を掲載しています


大阪・藤川 正一
『TOKYO OPEN SOROBAN CONTEST』
 かつて感染症のパンデミックは、歴史を変えるほどの影響を及ぼしてきました。まかり間違うとこのコロナ禍も、世の中を変貌させてしまうほどの大きな変化を遂げてしまうかもしれません。いや、どうやらその可能性が高くなってきたようです。
 珠算競技界においても昨春より大会中止が相次ぎ、その危機を乗り越えるべくオンライン大会が各地で実施され、多くの関係者の方々が英知を結集し熱心に取り組んでおられます。
 そんな未だ1都3県では緊急事態宣言が継続されている中、我々東京オープンそろばんコンテスト実行委員会一同(小林一人先生・東権信善先生・加山和男先生・西牟田孝宏先生・そして私)は、会場が閉鎖されない限りリアル大会を実施しようと固く決意し、参加者の勇気ある決断と高い志に呼応すべく、3月7日東京・中野サンプラザにて開催させていただくことにいたしました。
 言われるまでもなく、ご批判を浴びることは想定しております。けれど、それ以上に競技会を遂行することの意義に重要性を感じ、本大会を実行するという決断を下しました。
 もちろん、感染対策につきましては実行委員会で幾度も話し合いました。マスク着用の義務化は当然のこと、接触感染も考慮して他人のプリントに触れることを極力避け、決勝席で対面に座る時にはシールドを準備し、密を回避するため参加者も収容能力の3分の2以下にまで削減いたしました。
 アルコール消毒も随所で気を配り、マイク消毒にも余念がありません。気が付くあらゆる点において最善の注意を払ってきたつもりです。
 ところでそもそもですが、実行委員会の一員であるだけでなく競技委員長として進行を務めさせていただいた私が、自ら観戦記のような記事を書かせていただくことはおかしな事だと、沢山の方から否定的なお言葉やご指摘を受けるかもしれません。
 それは筆者の私自身が感じていますので、当然のことだと思います。
 しかし私がこの執筆でお伝えしたいことは、競技会の単なる流れや結果をご報告させていただきたいのではありません。
 実行委員会の一員だからこそわかる苦悩や葛藤と、それでも何とか成し得た喜びや奮闘ぶりを、この競技会の楽しさと共に伝播できればという願いを込めて書かせていただきました。皆様にこの熱き想いが伝わり、賛辞は厚かましいとしても、せめて共感のお気持ちを頂けましたら幸いに思っております。

 試練を与えられながらも始まった第1回大会ですが、なんと関東一円の主だった有力選手はほとんどの方が勢揃いしていただき、強い気概とそろばんに対する愛情を感じざるを得ません。
 冒頭に日本珠算協会会長の高柳和之先生からご挨拶を頂戴し、我々実行委員会がかつての珠算選手であり、その大昔にはそれぞれ活躍していたことをご紹介していただき、その感謝の気持ちを受け止めながら、3月7日本番の幕を上げさせていただきました。
 まずは本大会の総合競技、既成枠にとらわれない唯一無二の型破りな問題です。
 2桁×2桁から始まり8桁×8桁までの90題、しかもピラミッド型式と言えば1桁ずつ増えていくのが常識ですが、2×2、3×3、4×4と急激にステージが拡大していく問題であり、もうこれだけで個性溢れるユニークな競技会であることが窺えます。
 種目別競技・読上暗算、読上算についても独自性を引き出そうと、特異な問題をご用意させていただきました。読上算暗算ではなんと1番が16桁揃い、そして読上算では20桁揃いという、どちらも桁揃い加算のみという驚天動地の奇想天外な問題です。
 特に読上算においての20桁という発想は、このサンライズでもご掲載中の宮本丈裕先生に読み手としてご依頼できたからこその出題であり、この競技会のオリジナリティーを強調できたのではと考えています。
 またフラッシュ暗算においても、これはすでに採用されている競技会が存在しているようではありますが、3桁30口を取り入れました。
 昨年度高倉佑一朗選手が記録され、ギネス・ワールドレコードとして2月に認定されたことを紹介させていただき、日本フラッシュ暗算協会会長でいらっしゃる宮本裕史先生からその関係者の方々への表彰式も遂行させていただいた後、その最高記録3.33秒からスタートさせていただきました。

 この「東京オープンそろばんコンテスト」では、とにかく既存の大会にはない斬新なアイデアをふんだんに取り入れようと、実行委員会一同が幾度もズーム会議を開き、独創的かつ一風変わった競技会を目指して、議論を重ねてまいりました。その結果、その目玉の一つとなったのが、×÷見における種目別決勝「一算競技」です。
 この競技は各種目のベスト8の選手に壇上に出揃っていただき、私が1問ずつ位をつけて読み上げ1番手に出来た方のみに解答権が与えられ、答えを読み上げていただくという競技方法でした。そして2ポイント獲得した順に金賞・銀賞・銅賞が確定していくわけですが、ただし1問でも間違えると即時失格・即退場となる過酷なルールです。
 その出だし、乗算において今や日本のエースとも言える弥谷拓哉選手がいきなり間違えてしまい退場!
 これには観客席全体から大爆笑と惜しみない拍手喝采が起こり、狭いながらも会場全体での一体感が沸き起こり、ボルテージが最高潮となりました。間違えたことに対してこれだけの称賛の嵐がかつて存在したでしょうか。この大会ならではの盛り上がりであり、見せる競技会の仲間入りができたのではないかと確信しています。
 もう一つの目玉は、十三商割競技です。
 142884を6桁の数で割り、13桁目の商とその余りが答えとなる競技であり、予選のベスト16名によるトーナメント方式で競いました。もちろん、答えを読み上げていく競技だけに細心の注意を払って行動したことは言うまでもありません。
 マスクを着用したまま、前面に用意をしたシールドに向かって声を出していただき、スピードが要求される競技ではありますが、怒鳴るような声は控えていただいたつもりです。
 それでもその活気とエキサイティングな戦いをご覧いただいた皆さんから、こんな競技は初めて見た!これは面白い!と驚きとお褒めの言葉をいただき、皆様からの評判を気にしていただけに、大変安堵の気持ちでいっぱいでした。
 この競技で準優勝を獲得されたのは、なんと小4の小野雅貴君であり、実力者であれば誰にでもチャンスのある競技であるだけでなく、全ての勝負を観客の皆さんに見ていただけるという楽しさがあり、今後各方面で広がって普及していただくことを心より願っています。
 最後には日本計算技能連盟理事長・菊地正芳先生からご講評を頂戴し、この競技会により華を添えていただきました。
 実行委員会代表・小林一人先生個人の強い想いから始まったこの競技会ではありますが、大勢のビッグネームの方々にご支援を賜り、これほどまでに堂々たる壮大な競技会になるとは思いもよらなかったというのが、私の率直な感想です。
 今回書かせていただいたのは決して観戦記ではなく、実行委員会であり競技委員長として務めさせていただいた私から見た東京オープンそろばんコンテストです。
 当然のことながら反省点は数多く存在しましたが、それでも、ほんの少しの方からとは言え「ぜひ次回も楽しみにしています」というお声をかけていただき光栄に思っています。

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