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返事(3)

カバー写真は差し入れでいただいた猫缶クッキー。可愛すぎです。

改めて、澤田 空海理×古川本舗ツーマンライブ「手 Vol.1」にお越しいただいた皆さま、当落関係なく応募していただいた皆さま、興味を持ってくださった方々、ありがとう存じます。春らしい一円玉天気とはいきませんでしたが、午前中から雨がしとしとと降り続けた東京、いかにも花冷えといった揺り戻し、融通の利かない感じさえも愛せてしまう一日でした。この「返事」というのは、私主催のライブの簡素な振り返りや頂いたお手紙への返信を行う場所です。備忘録と交換日記を一緒くたにした、ささやかな打ち上げ会場のようなものだと思っていただければ幸いです。

古川本舗(以後、古川さん)の音楽と出会ってから10年と少し、古川さんご本人にお会いしてから3年と少し。ようやく、というよりはこんなに早く叶ってしまっていいのかなと未だに戸惑う共同ライブでした。プライベートの話を詳らかにするのはあまり美しくないと思うので割愛しますが、出会いやツーマンに至るきっかけについては以下の記事で触れていただいておりますので興味がある方は是非ご一読ください。

渋谷PLEASURE PLEASURE、映画館跡をそのままライブハウスへ改装しただけあってなんとも寛げる造り。演奏させていただくのを心待ちにしておりました。当日、開演前に座席でツーショットを撮っていただいたのですがふかふかもふかふか。「寝ますね、これ」と古川さんと談笑していました。

写真 : 星野健太 

当日の演奏については後日レポートが出ると思いますので、私なりの感想をば。偏に、嬉しかったです。ライブの感想で"嬉しかった"と宣うのは適切ではないしプロ意識に欠ける発言かとは思いますが、今回はそれに尽きます。客席からの反応、呼応は常に温かく柔らかく、いつまでも浸かってられる春先の浴槽を思い起こします。ライブ前、楽屋のモニターに映る人流に怖気づいていたのが嘘のように、必要以上に素顔を曝け出してしまった気がしています。その是非については私が決めることではないですが、"古川本舗と同じステージに立つならばそれに相応しい姿を見せなければ"という半ば強迫観念めいたものすら本番中は吹き飛んでしまいました。落語用語に「フラ」というものがあります。広く芸人さんなどに宛がわれる言葉ですが、平易な表現に置き換えると「持って生まれたその人の愛嬌」を指すものです。傲慢に聞こえるかもしれませんが、私にはその「フラ」が多少なり備わっているものと自負しています。故に、自身の楽曲との乖離やアーティストの同一性を担保できずに苦しむことが多々あります。しかし、この日に限ってはそれすら瑣末なことに映るくらい「嬉しくて楽しかった」のです。この雰囲気を作りあげてくれたのは間違いなく来てくださったあなたたちと、古川さんの飾らない姿のおかげです。彼曰く"前座(笑)"らしいですが、あんなに丁寧に客席を暖める方法があることに感動しました。熱ではなく、体温で温めるような歌と演奏。「対バンはバトルだから」という物騒な言葉とは裏腹に、恣意的なフリをしてどこまでも気を遣い続ける人なのだと、改めて古川本舗という人間への愛を深めた一日でした。

今回もたくさんのお手紙と差し入れを頂きました。本当にありがとう。全てを紹介することは出来ませんが、かいつまみつつ返信を出来ればと思います。普段から「差し入れはいただけるのであれば手紙が嬉しい」と公言しているので、日に日に増えていく手紙の量が愛おしくてたまりません。その上で、お菓子や本を選択してくださる方々、生活の中に潜り込んでくれようとする積極的な姿勢に笑みが絶えません。チケット代金だって安くないし、人によっては遠征費だって嵩みます。手紙だってきっと外袋を選んで、モチーフを選んで、内容を考えて推敲して、をすれば一日なんてあっという間ですそれに返せるものが最大2時間の音楽というのは貰い過ぎもいいところだと僕は考えています。澤田バンドでドラムを叩いてくれている光佑が「相手の方は空海理さんにあげたくて、それを考える時間含めて楽しんでくれているんだから素直に受け取りなさいよ笑」と言ってくれたことをきっかけに頑固な思想は鳴りを潜めていってはいますが、それでも、無理だけはしないでくださいね。いつもありがとう。

お菓子の出身地は関西、中部、関東、東北と多岐に渡りました。みんな遠くから来てくれているのね。愛くるしい猫缶クッキー、大阪限定のおせんべい、紅茶に御茶に珈琲、しるこさんど(ラブ地元)、どれも好きなものばかりです。ありがとう。文字通り、血肉とさせていただきます。当分おやつには困らなさそうです。

その他には、自身の短歌集、宮崎夏次系さんの「なくてもよくて絶え間なくひかる」、いつも吸ってる銘柄の煙草(よくわかったね!?)、などをいただきました。短歌集は僅かながらでも文字を扱うものとして作品で勝負を挑まれた気になりました。かっこいいし、かかっておいでと思います。生活の端くれをこれでもかと美しく捉えるのは物凄くややこしい呪いです。君がいつか自分の方から世界をそう捻じ曲げてしまわないことを願います。一緒に悩みながら進みましょう。宮崎夏次系さんは「夕方までに帰るよ」「あなたはブンちゃんの恋」「なんかいつかの魔法」など好きな作品が多いので嬉しいです。まだ読んだことなかったので、紙で貰える特別感に心はご満悦です。今春の一番落ち込んだタイミングで読ませていただきますね。

ここからはお手紙の返事です。本当に一部だけどごめんね。全員の手紙から良い匂いがします。みんなが着実に人たらしになっていくさまが嬉しいです。

  • 〇〇の操縦免許をとるためのトレーニングをはじめました!(個人情報に繋がるため詳細は伏せます)

挑戦の春ですね。詳しく書けないのが惜しいですが、そんなロマンチックな免許が存在することに驚きました。その目で見たものをいつか教えてください。

  • 好きって大人になってもわかりませんね。

辿り着いている人がいたので微笑ましく読ませていただきました。大人になってからの方がわからなくなった気がします。自分の何が、相手にどう見えているのかって学生の時よりよほど曖昧になった気がします。足が早いわけでも、面白いわけでも、目立つ運動部に入っているわけでも、学祭でバンドをやっているわけでももうないからね。好きって言葉の響きで好きになってしまうくらい、遠いものになりました。お互い迷走しましょうね。

  • 上京してきたばかりで、今回は私にとって初めてのライブです。(中略)この言葉が、選び方がすごく好きで、なんて話をするつもりでしたがライブ当日に書いているので楽しみ!!!!が前に出過ぎました。

あまりにお茶目。チャーミングな文章の節々に文学の香りが滲む素敵なお手紙をありがとう。そして東京へようこそ。僕もまだ越して数年の新参者ですが、きっとあなたにも馴染む街が見つかると思います。選択肢の多さが東京の魅力ですね。また気が向いたらライブを観に来てください。それがあなたの好きな街で行えたら素敵だなと思っています。

  • インタビューを読んで江國香織さんの「きらきらひかる」を初めに、それから「落下する夕方」を。自分の弱い部分や本質的な考え方をそっと撫でられるような、ぎゅっと握られているよな気持ちになるところが空海理さんの曲に似て、時折苦しいけど、大好きです。

恐縮です。手紙の包み方、筆跡、文字の形、言葉の選び方から配慮を欠かさない方だというのが痛いほど伝わりました。心配になるくらいです。江國さんの文学を、僕はどうしても自分事として捉えられないのが悔しくて、この表現がとても腑に落ちました。撫でるんですね。握るんですね。優しくない愛撫というと表現が矛盾しますが、もしかしてそのようなものなのかなと思いました。僕は人の手は握れませんが、足跡を作りたいと思います。"優しくない愛撫"の代わりに"とぼとぼと闊歩"する予定です。寂しくなったらいつでも付いてきてください。風よけ程度にはなると思います。

ここまで読んでくださりありがとうございました。最後の方は駄弁り続けてしまいましたがご愛敬ということで。三寒四温の日々が続きますが、くれぐれもご自愛ください。

2024/04/07 

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