2024/02/24 魔性の子

いやーーーーーーー苦節10年。
やっと「十二国記」シリーズのスタートを切りました。
ずっと読みたかったんですがなかなか手を出せず。
少し前に「これから読むなら〜」というツイートがチラホラ流れてきたのをキッカケに「いい加減行くか!」と本屋へ向かいました。

まず、本は好きだけど読むのめちゃ遅い派から一言。
「厚い」。
本が厚いのだ。
はじめにこれで少し心配になる。
これいけるか?と。
しかし、結論を言えば、全然1日でイケた。である。
文章には凝った表現も所々見られるけど、基本的には読みやすく、何と言ってもキャラが良く彼らの会話がサクサクと読み進ませてくれます。

いくつかの観点で感想をまとめてみよう。

・設定
「前情報はできるだけ入れない」と心に決めていたので本当にまっさらな状態で読むことができました。
ジャンルもふわふわしたまま読んでいるので、(これってファンタジーなんだよね?)と、いつ確信を突いた設定が出てくるのか楽しみに読み進める。
最初はファンタジー要素もあまりないので、「神隠し」というワードに引っ張られただひたすらに「高里クン、オカルティックやな」という印象だったけど、「どうやら彼方の世界があるらしい」というのが見え始めると一気に世界観が広がってる。
それまでは、現代の生活シーンが主な舞台になっていることもあり、ファンタジー観というよりミステリー臭やホラーみの方が強かった。それが、まさに私が生きているこの世ではない別の次元の世界があり、王らしき存在や、架空の生物とされる麒麟なんてものまでいるのか、という感じに、ファンタジー設定が少しずつ見えてくると、世界観の輪郭が少しずつ広がってく感じがしてよかったなぁ。
「設定」とか言ったけど、前日譚だけあって設定らしい設定は「人間の世界とは別の世界が存在し、そこには十二の国があり、十二の王とそして麒麟がいる」くらいかなぁ。
高里がどれくらいの立ち位置のキャラなのか知らないけど、設定や世界観を知ってもらう第0巻としては、「これから登場しない人たちまで掘り下げすぎでは?」とか「この人間世界がこれから関係してくるのか?」といった感じで、「魔性の子」巻をどう捉えていいか、こればかりはこの後の作品を読んでみないと、という感じでしょうか。


・ストーリー
「これは前日譚」ということだけはわかってて読んでるのでストーリーも何もないよな。ストーリーはこれからの話だし。
でもでもよ、最後のお別れが私はとても寂しかったよ。「置いてくのか」と言うセリフを広瀬は(これは自分の汚いエゴで、夢に見た世界はなかったと理解し一生戻れないという事実を突きつけられた広瀬に対して望んでいた世界を見つけ戻ることが叶った高里に対する嫉妬)というように言うけれど、あれは純粋に「寂しさ」だよな、と思いました。「やっとやっとこの苦しい異世界で心を許せる仲間を見つけたのに、俺を置いて1人にするのか。そんなのは寂しいじゃないか」。
冒頭とは打って変わり人間臭くなる広瀬と、人間臭さを教えてもらうも自分はやはりその次元で生きる存在ではなかったと思い出す高里。この対比が切なくて、愛で、憎悪で、諦めで、潔さで、好きでした。苦しいけど。


・キャラ
総括:主要キャラみんなよい
広瀬
一匹狼の偏屈キャラかなと思っていたら、意外と冷静で理路整然と他人とコミュニケーションが取れるキャラだった。自身の特殊な生い立ちもあり高里に惹かれたという経緯はあれど、年長者としての庇護欲もあり、面倒見も良く、(流れで教職の道に進んだ割には意外と向いているんじゃ?)と思わされた。
クールで持論を持っている割に柔軟さもあって好きになってしまうなぁ。
高里
何だよこいつ。「魔性の子」と名付けるなんて本当に罪深いけど本当にその通り。そこがひどく可哀想で、でもこれをこえる表現が見つからず悔しい。
彼の元来のまっすぐで素直なところは、幼少期の描写からも垣間見えるけど、やはり最後まで「高里ってどんな人なんだろう」が消えないキャラだったな。
中盤からは広瀬に心を開いて、柔らかな表情を見せたり心の内を漏らしはすれど、やはり最後のシーンまで「本当の高里」を解放してはいなかったよな、と。というか、表現できないんだよな、素直さゆえに周囲に期待されるがまま自分を閉じ込めていたことで、感情を表現するという術を手放してきてしまった、という印象。
だから高里のことはまだよくわからない。
ただ、最後力強く優しく振る舞う高里は好きだったな。

後藤
この人は好きです。1番正直で人間性が見えて信用したくなってしまう人。
人間らしいことが汚い側面を持つことをちゃんと理解していて、ただそんな世界でも誰かを大事にするとか大切に想うとか、せめて手に抱えられるものを抱きしめるとか、そういう風に大切にできる人。
現実的にできないことは諦めよう、小さくたって大切なものを取りこぼさないように。そうしてるとどうしても「上下」や「順位」ができてしまうけど、それが人間であり、だからこそ悩み葛藤し後悔する。でもそうして大切にしたものは、失い難いほど愛するものであり、それに執着してしまうのもまた人情。
好きですねぇ。カッコいい。


・十時先生はなんなんや。束の間のヒロインか?
・岩木は乱暴な手段をとるけど優しい子だったなぁ。


・構成
メインストーリーの間に第三者目線の情報がニュースのように入ってくる作り、少しずつ全容が見えてくるので怖さもあるが楽しかったな。
ほぼ1日毎に一章だったのも、時間経過の速度感があっだし、実習期間との対比で何かをカウントダウンされてるような逼迫感、緊迫感がありよかった。
最後の終わり方、好きだったなぁ。やっと高里の正体がわかって「この巻のネタバラシ!」になるかと思いきや、謎が多すぎるまま終わる。高里が広瀬に残したセリフもわからないし、その後の「あの街」がどうだったのか、「彼ら」は生きているのか、何も明確にはならない。わかったのは十二国の存在と、高里が本当に「あの街」からいなくなってしまったことだけ。

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